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「今日もコーヒーと紅茶、持って来たよ。稲本くんはコーヒー派だよね。ホットでいいかな?」
「ええ、ありがとうございます」
「気にしなくてもいいよ〜。お父さんとお母さんがコーヒーとか紅茶を扱う仕事してるから、たくさんあるから部活で飲んでもらえるとかえって助かるし」
慣れた様子でコーヒーの用意をする副部長。
小柄でラウンド型フレームの眼鏡をかけたこの人の名前は、佐藤春音。
両親がコーヒー豆と紅茶などの茶葉を取り扱う工房を運営する会社を経営しており、家から持参して部室で出してくれる。
小柄と眼鏡、大人しい印象の彼女のことを、俺は副部長と呼んでいる。
性格というか口調はおっとり、マイペースな人だ。
「……それはそうと、稲本くん。まだ入部して日は浅いけれど慣れたかしら」
もう一人が口を開く。
副部長とは対照的に背が高く、大人びた印象の彼女こそが、この部の長なのだ。
「そうですね。あと数ヶ月、いや三年以上経っても慣れたくないですね」
俺は、この人が苦手だ。
ブラコン拗らせた姉たちとはまた違う類の苦手意識。
「あら、まだ慣れないのかしら。そう前戯に時間をかけ過ぎるのはどうかと思うわ」
「部長、入部間もない後輩の前でそういう発言する方がどうかと思いますけど」
志崎夏緒里、それがこの人の名前。
そしてこのギター部の部長だ。
見た目だけで評価すると、育ちの良いお嬢様的な気品ある美人に映る。
長い黒髪は艶と涼しげな雰囲気を際立たせる。
高校生とは思えぬ大人びた顔立ち、背は明日夏姉さんと変わらぬ程だ。
外見は良いとしよう、内面が最低最悪なのだ。
「稲本くん、もしかして気付いているとは思うけど……私、このビジュアルで三度の飯より下ネタが好きなのよ」
「入部以来アンタの言動を間近にして、俺が気付かない可能性が少しでもあると思ってたんですね」
「そのせいで同棲の友人が数える程度しかいないわ……。異性からはモテる方ではあるけど」
鼻に付く発言、そして自覚はあるらしい。
そもそも高等部に進学してまだ一ヶ月程度、この人との付き合いもまだまだ浅い。
悪い人、ではないと思う。
「はい、コーヒーお待たせ」
副部長がコーヒーを出してくれたおかげで、気不味い空気が動き出した。
こんな状況だからか、カップをテーブルの上に置いた時のカタンッ、という小さな音ですら小鳥のさえずりのように耳には癒しの音色として伝わる。
容器に注がれた真っ黒なコーヒーから立ち昇る薄い湯気がすぅーー、と消える切なさすら、心休まるのだ。
要するに、それ程に部長が酷いのだろう。
「ありがとうございます。頂きます」
副部長に一言告げ、取っ手を握り、口の高さまで持ってゆく。
「ところで、コーヒーで思ったのだけれど___」
俺がカップに口を付けようとしたまさにその時だった。
嫌な予感しかしない。
「稲本くんは小便をするとき、ペ●スは両手で持つタイプかしら? それとも片手で持つタイプかしら?」
コーヒーを口に含む前で良かった。
いや、全然良くないが。
もしも口に含んでいたら、漫画のように吹き出していた可能性が否定できない。
「……なんてこと訊くんすか。 俺に恨みでも?」
「いいえ、恨みなどこれっぽっちもないわ。寧ろ、あなたのような逸材がこんな部に入部してくれた事を心から感謝しているもの」
なら、コーヒー飲もうかってタイミングでなんつうこと訊ねてきやがる。
「コーヒーって利尿作用があるでしょ。だから、それで小便と繋がったよ」
「なるほどぉ〜!」
「副部長までなにが『なるほど』なんですか!?」
部長レベルではないが、副部長もやはりおかしい。
部長には同性、つまり女子の友達が少ないらしい。
四六時中下ネタを口にする異常者に友達ができるわけないと思うが、そんな彼女に親しく接する副部長を親切と評価すべきか、同類と評価すべきか、非常に悩む。
「それで、どちらかしら?」
「んなもん知ってどうすんだよ」
「単純に興味があるだけよ。変な意味はないわ」
「男の人って大変だよね。おしっこって、結構飛び散っちゃうんだよね」
「そうらしいわね。飛び散るという意味で、男性器は散弾銃なのかしら。バ●オハザードでも女性より男性の方が有利なのかしらね……」
「どうだろうねー。でもこの間ね、バ●オの実況動画観たけど、女性の実況者でも難なくクリアしてたよ」
この手に持ったコーヒー、冷ますのはもったいない。
しかし、今、飲みたい気分になれない……。




