↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/31

10話

「・・・これ、どう見てもうちの制服だよな?」

 

「はい」

 

 雨宮の声が、僅かに震えた。九条生命の防犯カメラに映っていたのは、雨宮茂と、雨宮雫を名乗ったもう一人の少女。

 

 髪型も身長も本物の雨宮とよく似ている。顔の半分は白いマスクで隠れているが、着ている制服は間違いなく俺たちの高校のものだった。


 保険会社の記録では、この少女が雨宮雫本人ということになっていた。

 

「知り合いか?」

 

「分かりません。顔がほとんど見えませんし、同じような髪の人なら学校に何人もいます」

 

「そうだよな~。せめてマスクくらい外してほしかったよ。まったく、最近の犯人はサービス精神が足りないね」

 

「何のサービスを期待してるんですか・・・」

 

 画像を拡大してみるが、顔を判別できそうな角度では一度も映っていない。受付に入ってから出ていくまで、少女はずっと俯き気味で、前髪とマスクで顔を隠していた。

 

 偶然ではなく、最初から防犯カメラを意識していたのだろう。

 

「この人、本当にうちの学校の生徒なんでしょうか」

 

「どうだろうな。制服は金を出せばいくらでも用意できるし。お前になりすますために、父親が着せただけかもしれない」

 

「じゃあ、この画像だけでは何も分からないじゃないですか」

 

「顔についてはな。でも三枝さんは、本人確認に学生証と健康保険証を使ったと言ってたよじゃん?」

 

「はい」

 

「制服は借り物でも、学生証には名前も生徒番号も顔写真も載ってる。そっちを見れば、父親がどうやって偽物のお前を作ったのかは分かるかもしれない」

 

「学生証の写しなんて、見せてもらえるんですか?」

 

「本人がここにいるんだ。聞くだけ聞いてみよう」

 

 俺は三枝さんへ、もう一度電話をかけた。

 

『はい、三枝です』

 

「さっき言ってた学生証の写し、こっちにも送れるか?」

 

『個人情報を含みますので、雨宮様ご本人の同意があれば可能です』

 

「雨宮、いい?」

 

「はい。お願いします」

 

『承知いたしました。ただし、画像を外部へ共有することはお控えください』

 

「分かってる。あと、受付の人は学生証の写真と顔を見比べたの?」

 

『現在聞き取りを行っております。記録上では、本人確認を実施したことになっていますが・・・当日の担当者は、雨宮雫様が体調不良を訴えており、長時間マスクを外させることができなかったと話しております』

 

「ずいぶん都合よく体調を崩したんだな」

 

『本人確認が不十分だった可能性についても、社内で調査いたします』

 

 通話を切って一分も経たないうちに、学生証の画像が送られてきた。学校名。学年。クラス。生徒番号。そして、雨宮雫という名前。

 

 どれも本物らしい。

 

 だが、貼られている顔写真だけは、さっきの防犯映像に映っていた少女と同じように、長い黒髪が顔の輪郭へかかっていた。

 

「これ、お前?」

 

「・・・違います」

 

「やっぱり?」

 

「私の学生証の写真は、中学を卒業したときくらいに撮ったものです。髪も、ここまで長くありませんでした」

 

「じゃあ、名前や生徒番号だけを使って、写真を別のものへ入れ替えたのか」

 

「でも、どうして私の生徒番号まで・・・」

 

 雨宮は呟いたあと、何かを思い出したように自分の鞄を開けた。

 

 財布から学生証を取り出し、机の上へ置く。送られてきた画像と見比べると、顔写真以外はまったく同じだった。

 

「・・・一か月くらい前、お父さんにこれを貸しました」

 

「学生証を?」

 

「はい。お母さんの病院で、家族だと証明する書類が必要だと言われて。保険証も一緒に渡しました」

 

「それが返ってきたのは?」

 

「次の日です」

 

「なるほどね。それなら名前も生徒番号も、学生証の作りも全部写せる。保険証の偽物だって作れるな」

 

 雨宮は机の上に置いた学生証を、強く握りしめた。

 

「お父さんは、最初からこれを作るために・・・?」

 

「そうだろうな。父親は一か月前から、お前の代わりを保険会社へ連れていく準備をしていたんだ」

 

 受取人が変更されたのも一か月前。雨宮が学生証と保険証を父親へ預けた時期と一致する。

 

 偶然なわけがない。

 

 雨宮茂は娘の身分証を使って偽物の雨宮雫を作り、受取人を自分の会社へ変えた。そのあとで古い保険証券と『母さんを助けたいなら、お前が死ね』という言葉を残して消えた。

 

 娘が自分から死ぬように仕向け、一億を受け取るために。

 

「お前の父親、本当にどうしようもないクソかもな」

 

「・・・」

 

「ここまで準備してたなら、制服の女も父親が用意したと考えて間違いない。そいつの正体を調べれば、父親の居場所にも繋がるかもしれないな」

 

「見つけられるんですか?」

 

「見つけるよ。俺の名前を出して喧嘩を売ってきたんだ。途中でやめる理由がないだろ?」

 

「・・・どうして少し楽しそうなんですか?」

 

「面白くなってきたから」

 

「聞いた私が馬鹿でした」

 

 雨宮は本物の学生証を財布へ戻し、防犯カメラの画像をもう一度見つめた。

 

「この人も、お父さんが私を死なせようとしていたことを知っていたんでしょうか」

 

「少なくとも、自分が雨宮雫になりすましていることは知っていたはずだ」

 

「どうして言い切れるんですか?」

 

「他人の制服を着て、偽物の学生証を出して、本人確認のときだけ都合よくマスクを外さなかった。何も知らずに付き添っただけでは通らないよ」

 

「じゃあ、この人も・・・」

 

「父親の共犯だ。お前を死なせて一億を奪うところまで聞かされていたかは、捕まえてから本人に吐かせればいい」

 

 雨宮は唇を噛み、画像から目を逸らした。この学校の制服を着た誰かが、自分になりすまして、自分が死んだときの一億円を父親へ渡す手続きをした。

 

 同じ廊下ですれ違ったことがあるかもしれない。同じ教室で授業を受けたことがあるかもしれない。

 

 そう考えれば、気味が悪いのも当然だろう。

 

「このことは、まだ誰にも言うなよ」

 

「分かってます」

 

「特に橘」

 

「橘さんには言いません」

 

「あいつ、知ったら一日で全校生徒の髪型を調べそうだからな」

 

「・・・やりそうですね」

 

 雨宮が少しだけ笑った。今日初めて見た気がする。もっとも、俺と目が合うとすぐに笑うのをやめたけど。

 

「何ですか?」

 

「いや、笑えるんだなと思って」

 

「私だって笑います」

 

「屋上ではずっと怒ってたから」

 

「誰のせいですか!」

 

 特別教室の外から、ちょうど予鈴が聞こえた。

 

「戻るか」

 

「先に行ってください」

 

「何で?」

 

「二人で戻ったら、また橘さんに何か聞かれます」

 

「もう手遅れじゃない?」

 

「誰のせいだと思ってるんですか・・・」

 

 仕方がないので、俺だけ先に特別教室を出た。

 

 廊下には授業へ戻る生徒が何人か歩いている。女子生徒の黒髪を見るたびに、さっきの防犯映像が頭に浮かんだ。

 

 同じ制服。同じくらいの背丈。長い黒髪。

 

 この条件だけなら、いくらでもいる。

 

 教室へ戻ると、橘が自分の席から振り返った。

 

「九条君、雨宮さんとどこ行ってたの?」

 

「秘密の話」

 

「またそれ!最近ずっと二人で秘密の話してない?」

 

「嫉妬?」

 

「ち、違うし!ただ同じクラスなんだから、仲間外れはよくないと思っただけ!」

 

「同じクラス全員で話す内容ではないな」

 

「じゃあ私だけ!」

 

「人数の問題じゃないよ」

 

 橘が頬を膨らませたところで、雨宮も教室へ戻ってきた。俺と橘が話しているのを見て、一瞬だけ足を止める。だが何も言わず、窓際の自分の席へ向かった。

 

「ほら、雨宮さんも何か隠してる顔してる!」

 

「本人に聞いてみれば?」

 

「九条君!」

 

 雨宮の怒った声が飛んできた。

 

 少なくとも犯人はこいつではなさそうだな。本人になりすました人間が、ここまで堂々と本人の前へ戻ってくるなら、それはそれで面白いけど。

 

 -------------------------------------------------------------------------

 

 昼休み。

 

 雨宮は今日は教室から逃げず、自分の席で小さなパンを食べていた。

 俺が昨日と同じ三段の弁当を持って隣の席へ移動すると、露骨に嫌そうな顔をされる。

 

「どうしてこっちに来るんですか?」

 

「お前を一人にするなって、俺が昨日俺と契約したから」

 

「知らない契約を増やさないでください」

 

「一つ食べる?」

 

「いりません」

 

「この肉、絶対高いよ~?」

 

「値段が分からない物で誘惑しないでください」

 

 雨宮はパンの袋を畳み、小さく息を吐いた。

 

「・・・みんながどうしても怪しく見えます」

 

「だろうね」

 

「同じ制服を着てる人を見るたびに、あの人かもしれないって」

 

「なら、しばらく俺だけ見てればいい」

 

「はい?」

 

「俺はズボンだから、映像の女ではない。今のところ一番安全だろ?」

 

「そういう言い方をすると、ものすごく気持ち悪いです」

 

「せっかく格好いいこと言ったのに」

 

「どこがですか」

 

 俺が弁当の肉を口へ運ぼうとしたとき、机の上に置いていた雨宮のスマートフォンが震えた。

 

 雨宮の手が止まった。昨日から、知らない番号の通知が来るたびにこうなるようになった。

 

「俺が見ようか?」

 

「・・・大丈夫です」

 

 雨宮がスマートフォンを手に取り、届いたメッセージを開いた。次の瞬間、雨宮は顔を上げ、教室の中を見回した。

 

「どうしたんだ?」

 

「これ・・・」

 

 差し出された画面には、一枚の写真が表示されていた。写真に写っているのは、数分前まで俺たちが話していた特別教室の前。

 

 そこから一人で出てくる俺と、少し遅れて扉を開けた雨宮。廊下の反対側から、俺たち二人を撮影した写真だった。

 

 その下には、一言だけ添えられている。

 

『その女を探すな』

 

 俺は写真と、教室にいる生徒たちを順番に見た。病院の次は、学校の中。

 

 どうやら相手は、俺たちが思っていたよりもずっと近くにいるらしい。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




第一章は完結してるので、毎日2話投稿します!人気あったら第2章書きますので。




「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけたら、作品のフォローや評価、感想をもらえると嬉しいです。




執筆の励みになります!








次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。