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夢見る羊は何を知る  作者: 藤本レン


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5/6

夢見る羊は何を摂る

「よく分かったね!!今日は甘めのコーヒー豆をブレンドしたんだ~!!」


「君いい鼻してるよ!!名前は?」


「望月 つばめって言います。」


「へ~!!じゃあつばちゃんだね!!」


「つばちゃん!?」


「この子、すぐにあだ名付けたがるのよ。許してあげてちょうだい」


「んな失敬な!?これは親しさの証なの」


「呼び方はお任せしますよ。特にこだわりはないので」


「ほーら見たことか!これが親しさの証よ」


「むっ。まあ望月ちゃんがいいなら良いけど、嫌なら私に言うのよ」


なんだか妹ポジションになったようで嬉しさと小恥ずかしい気持ちになった。


「とりあえず、コーヒーいただきます」


「もちろん!冷めないうちにどうぞ~!」


コップを鼻に近づけるほどに、果物のようなフルーティーさも感じる。


「いただきます」


口に含むと、苦みが少なく、コーヒーが持つ風味が、鼻を抜けるように広がる。


市販のコーヒーよりも圧倒的にコクがあり、喉を取通った後の風味もまろやかである。


「このコーヒー美味しいですね!雨宮さ……」


横を見ると、ミルクと砂糖を足し続ける雨宮さんが居た。


「そんな甘くしたら、健康に悪いぞ~。その美貌が崩れるかもな」


「おだまり!私は甘党なの。コーヒーの風味は好きだけど苦いのは嫌なんだもの」


「もう何百回聞いたかわっかんないよ、そのセリフ」


ようやく手を止めた雨宮さんが勢いよく、飲み干す。


「ふぅ。やっぱりこばちゃんはいい仕事するわね。特にこの甘めの風味がいい感じだわ」


私と小林さんで風味を理解しているのかと、疑いの目を向ける。


「まあいいや。ふたりともお昼どうすんの?なんか食べるなら今作るけど」


「んーそうねぇ、今日はオムライスの気分だわ。望月ちゃんは?」


そう聞かれ、メニューを開く。


(ん~牛すじ煮込みカレーも美味しそう…でもこっちのも……うーん)


悩んだ挙句、選んだものは、


「ハンバーグ定食にします。」


「はいよ~。あいちゃんがオムライスで、つばちゃんがハンバーグ定食ね~」


確認を取ると、厨房へ戻っていった。


「ご飯できるまで、暇になっちゃったわね」


「望月ちゃんは最近悩みとかない?」


(実は漫画家をめざ……)


その時、喉を締められるような感覚が現れる。


話題に出すことが許されないかの如く、話そうとするほどに苦しさが増していく。


「大丈夫ですよ!今は特に悩み無いですし」


その話題に触れないよう意識すると、苦しさはスッと弱まっていった。


「うーん、そうなのね」


「私は、悩みいっぱいあるわよ。人間関係に、健康、漫画のことだってね」


「有名漫画家ですもんね。いろいろありますよね」


「実は今日、望月ちゃんを誘ったのはね、漫画のネタを見つけるためでもあったの。一般的にはスランプっていうのかしらね……。」


「もう5日はかけてないの。締め切り、あと1週間もないのだけれどもね。」


そんな状況でも元気そうに振舞う雨宮さんに、自分自身を重ねてしまった。


「実は、私——」


「はいよ~。オムライスにハンバーグ定食いっちょ上がり!!」


「あら、望月ちゃんに何か言ったかしら?」


「いっいえ……。」


「とりあえず、ご飯食べましょ!もうペコペコなの」


「そうですね。食べましょう!」


ナイフとフォークを手に取る。


しっかりとした肉厚感で、ナイフの刃に抵抗を感じた。


切った部分から輝く肉汁があふれ出す。


その感動的な美しさに、思わず息を飲む。


「いただきます」


——旨い。


「つばちゃーん?大丈夫?」


「えっ、あっ、はい。だっだいじょうぶです」


「分かるわよ。本当に美味しいものね。」


そう、美味しすぎるのだ。


肉のボリュームと重厚な旨味を感じつつ、さらりとした肉の油で、全く重くない。


「昔から料理のセンスはピカイチよねぇ。この店も、広めたら高級店になるくらいなのに」


「私は、高級店とか嫌だもんね~。自分のペースでゆるーく営業するスタイルがあってんの」


「こんな料理、どうやって作るんですか」


「お、好奇心旺盛だねぇ。でも教えないよん。企業秘密だからね」


「じゃ私、仕事あるから。なんかあったらベルで呼んでね~」


そう言って、後ろに戻っていってしまった。


「小林さんって一体何者なんですか?こんな美味しい料理作れるなんて」


「こばちゃん、若手の世界大会で優勝してるからね。普通の料理人とは比べものにならないわよ」


「あの人、そんな経歴持ってるんですか!?」


とっさに、メニュー表を手に取る。


しかしながら、どれも2000円台のメニューばかり。


「そうね、しかもフリーランスで働きながらこの店の営業してるから、本当に化け物よ。」


小林さん、恐るべしである。


小林 彗華 (30代)


一般的なIT企業に勤めながら、24歳で若手の世界的料理大会にて優勝、その後30代手前で独立を果たす。


現在は、フリーランスとして、仕事をしながら、隠れた店「Korld」を経営している。


雨宮 愛莉とは高校時代からの親友で、当時から変人コンビとして、学校中に名が知れていた。

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