夢見る羊は何をする
「やっぱり才能なんですかね」
それは、零れ落ちるように出てきた言葉だった。
「それはあるかもね」
「でも、才能ってあってないようなものだと思うわよ」
その言葉にハテナが顔に浮かぶ。
「才能って歩幅を広げるものであっても、進み続けるための力とは違うと思うわ」
「たとえばコートと冬靴を身に着けた人なら、雪道を歩くには適しているわよね。でも、その格好で夏場の道を歩くには暑くて、適していないでしょ?」
「じゃあ、適しているところじゃなくちゃ、歩いていけないってことなんですか?」
「それも違うわね。薄着で雪道を歩く人も居れば、厚着をしていても歩きたくないという人も居る。そもそも外に出たくないとかね」
「つまり、適しているかどうかと、できるできないは別物なのよ。」
「じゃあ」
徐々に、喉が閉めつけられる感覚が強まる。
「歩いている途中で、やっぱりダメだって思ったとき、雨宮さんならどうするんですか」
「うーん」
少し悩んだ後——
「助けを呼ぶわね」
「助けて貰ってでも歩く。そう思えるものだけ私はやるわ。そうでもないと私、続かないもの。私はそう考えちゃうわ」
「だから、望月ちゃんが何か助けてほしいって思っているなら、私を頼ってほしいって思うの」
その言葉で、喉を締め付ける苦しさが、溶けていくように消える。
今は、自然に話題が出せる。
「実は私、漫画家目指しているんです。」
「そんな気はしていたわ」
「えっ」
「だって、漫画の話になると、反応明るいんだもの」
照れくさくて、顔が熱い。
「んーっと、えっと、まあ、漫画家目指してて、で、出版社に持ち込み何回もしているんですど、ダメだって言われてて……」
「なるほどね。何かしらのダメ出しは貰った?」
「はい…。物語が単純だって」
「なるほどね。望月ちゃん、その時の原稿はあるかしら?」
「はい。一応、スマホにもデータ残してるので」
そうして、私の原稿を読む雨宮さん。
しばらくして、
「これは、修行が必要ね」
「やっぱり、ダメですかね…」
「ダメと言うより、場面の構図と、表現を工夫するだけで、十分よくなると思うわ。特にこの場面!見開きで贅沢に2ページ使って書いたりするレベルのものよ!」
「そうなんですかね……。」
「あとは、物語の順序ね。ウサギと亀が、喧嘩の末に恋心を抱いたけど、これじゃどこに惚れたのかが分かりずらいわ。もうちょっとはっきり描いてもいいわ。あとは——」
そうして、雨宮さんのアドバイスは1時間を超えていた。
「そういえば、どこの出版社に持ち込んでいるのかしら?」
「いまは、有名どころのここに持ち込んでいるんですけど」
「あー、ここはだめね。ジャンル絞ってるから、望月ちゃんの書いているようなのだと、はじき返されるわ。」
そうだったのかと思い返すと、確かに今まで書いてきた恋愛もののようなジャンルはひとつもなかった。
「そうだわ!もしよかったら、私から会社に推薦してあげよっか?きっと目に留まってくれるわよ。」
「えっ!いいんですか?」
「もちろんいいわよ。私も漫画のネタ、思いつけたからね」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お願いします!」
「ふふっ。お姉さんに任せなさい」
そうして、会計を済ませて、今日は解散した。
——一週間後。
望月さんの紹介のおかげで、すぐに連絡が来た。
有給休暇を利用して、出版社に向かう。
初めて出版社に行くときのような胸の高鳴りを感じつつ、担当の人に会った。
原稿を見せ、返された返事は——
「いまいちですかね」
その言葉に、先ほどまで感じていた希望がボロボロと崩れるように感じた。
「でも、」
「磨けば光るようにも感じます。もしよろしければ、当社の研修プログラムに参加してみませんか?作品の添削なども講師の先生方に行ってもらえますし、費用はこちらで全額負担いたしますので。」
「……!ぜひ参加させてください!」
今回も、出版社への持ち込みが通ることはなかった。
しかし、それ以上に自分が受け入れられた事実が、今までの頑張りが無駄ではなかったと、思わせてくれた。
そう思いながら乗る電車は、どこか優しい揺れに感じた。
「さーてと、お昼はどうしよっかな~」
そんなことを考えながら、山のすぐそばにある駅へ向かうのだった。




