夢見る羊は何を嗅ぐ
土曜日:8時55分、待ち合わせ五分前。
私は今、カエルの前に居ます。
——数日前、FINEにて
{ご飯行く場所だけど、望月ちゃん行きたい場所ある?}
{特にないですね~}
{お恥ずかしながら外食する友達も少ないので……}
{あらまぁ…}
{じゃあ私のおすすめに連れてってあげる!!}
そうして雨宮さんのおすすめの店に行くことになったのだ。
しかし、
「なにここ……」
送られてきた場所に来ても店らしき建物は無い。
山がすぐそこにあるため、空気は澄んでいるが、
住所の場所には——
「等身大のカエルのオブジェクトって何!!??」
変なオブジェクトだけが存在していた。
「マップで検索しても何も出てこないし……」
騙されたのかと思い始めた頃、
「望月ちゃーん!!」
「この声は……!」
ついこの間初めて聞いたゆったりとしていて、色気のある声。
「雨宮さーん!!」
そう、私の憧れ、雨宮さんだ。
「お待たせしちゃったかしら?」
「いえいえ。私もさっきついたばっかりなので」
(この前のホームセンターはカジュアル寄りの服装だったけど……)
(今日は革ジャンでかっこいいよりなのちょーイケてる!!!てか、胸でか!!)
そんなオタク節で脳内が独り言をマシンガントークしてると、
「それじゃ、中に入りましょ」
「でも、それらしい建物はどこにもなくないですか?」
「ちゃんとあるわよ~」
そう言った雨宮さんの目線の先には、
「もしかして……」
「そう……」
山があった。
(この山登るの!?)
「ここよ~。入口」
「ふぇ?」
そこは草の生い茂る、山肌に見える。
「実はね、ここドアなの」
「ん~??」
近づいてみるとわかった。
扉が周りの色味に会うように、緑色や茶色になっている。
加えて、その上にツタが生い茂っているため、遠目では全く気づけない。
「さっ、開けてみて」
言われるがままに、扉を開ける。
すると中から、どこか心が安らぐ香りが鼻をくすぐる。
どこかで嗅いだ覚えがあるようなゆったりとした懐かしさも感じる香り。
扉の奥は、さらに驚きであった。
ヴィンテージ風とでもいうべき、渋みすら感じる木々で飾られた店内。
レトロな電球によるオレンジ味がかった照明が、ゆったりとした落ち着きのある空間を作り出している。
この美しい空間に、つい言葉を失ってしまっていた。
「驚いたかしら?いいお店でしょ?」
「こんなにおしゃれなお店、生まれて初めてです!!」
「そうでしょ~。ささっ、カウンター席に座りましょ」
そうして、横並びでカウンター席に座る。
「望月ちゃん何飲む?」
「そうですね……」
そばにあるメニュー表を開くと様々なドリンクがあるようだった。
炭酸飲料にお茶、果汁飲料やスポーツ飲料、さらにアルコール類など、かなり品揃えが多い。
そのなかでひときわ、目を引いたのが——
「じゃあコーヒーにします」
「お目が高いわね。いいわよ~」
チーーン
「はーい」
奥から出てきたのは鉢巻にエプロンといういかにもエネルギッシュと分かる女性であった。
「あっ!あいちゃんじゃん!!隣はお友達!?」
「そうよ~。この前迷惑かけちゃったから、お詫びにってご飯食べに来たのよ」
「えっと……お二人はお知り合い何ですか?」
「ああ、ごめんなさいね。紹介するわ。このお店のオーナーのこばちゃん。高校からのお友達なの」
「小林 彗華でーす!!気兼ねなく、こばちゃんって呼んでね!!」
「んで、注文はなんだい?」
「とりあえずコーヒーを二つお願いね」
「はいはーい!少々お待ちを!!」
居るだけで場の空気を明るくしてくれるような人のようだ。
「とても元気な方ですね」
「ふふっ。そうね。こばちゃんは好きなことになると、とことん元気になるからね」
「それにしても、こんなお店があるなんて知らなかったですよ」
「それはしょうがないわね。このお店、見つけづらいからねぇ」
「そのうえ、広告もなにも出してないから、私見たいな親しい人しか今のところ来てないわね」
どうりで、マップを調べてもお店が出てこないんだと理解した。
「はーい、コーヒー二つお待たせ—」
軽く話しているうちに、テーブルへ出されたコーヒーからは、ふわりと湯気が立ち昇る。
そこからは、香ばしさよりも香るものがあった。
「このコーヒー、なんだか甘い匂いがします」
隠れた店。「Korld」
地図上にもない、看板もない、そして、入口が分かりずらい。
お店が掲げるコンセプトは、自由な安らぎ。




