夢見る羊は何を聞く
「えっ、この名前って」
驚きで、とっさに顔を上げると、雨宮さんからこっそりウインクが飛んできた。
「それじゃあ案内お願いしま~す」
そのまま彼女らは、エスカレーターの方へ行ってしまった。
「うそでしょ……」
静かになったこの場所で、一人ポカーンとする。
カチカチと針の音でハッと意識が戻る。
スマホを確認すると外出時間は──
「あと30分しかないじゃん!急いで帰らないと!」
すぐさま近くに居た男性店員を捕まえ、会計を終える。
「もしよろければ、お車に商品、お積みいたしましょうか?」
(ラッキー!!こんな重いの積み込むだけで10分かかるもん!)
「じゃあ、お願いします」
そうして車のところへカートを持って行った。
しかし——
「フン!!あれ?ふんぬ!!はぁはぁ……」
(この店員、力無ぇ!!)
てっきり、力があると思っていたばかりに、がっかり感が強い。
「あのー、手伝いましょうか……?」
「すみません……お願いします……」
そうして二人で協力し、なんとか荷物を積み込んだ。
「ほんとに、すみません……ありがとう、ござい、ました、」
息切れを起こす店員さんを見ていると、なんだか可哀そうになってくる。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
「またの、ご来、店を、おまち、して、おります……」
そうして、ちょっとしたトラブルもありつつ、会社へと急いで帰ってきた。
買ってきた椅子を台車に載せ、部屋まで運ぶ。
「課長、戻りました」
そうして、パイプ椅子に座る悲しい課長へ台車を運ぶ。
無言で立ち上がり、椅子の型式を確認すると、
「間違えてこなかったようだな。帰ってくるのが遅いが……まあいいだろう。仕事に戻れ」
(買ってきてやったのになんだその言い方!?こんのクソ課長が)
「それでは失礼します。」
そうして自分のデスクに戻った。
「おかえり、災難だったな」
隣の席の静奈が声をかけてくれた。
「ほんとにな、あのクソ課長まじ嫌い」
「はっはっはっ!あの課長、わけわからんところでキレるもんな!」
「笑い事じゃないって~」
プルルルル!!!
「おっと、お互い仕事戻るか」
固定電話からの着信音にて、それぞれの仕事に戻った。
キーン コーン カーン コーン。
「ふぃーー!!疲れた~。」
「そういえば、お前、今日戻るの遅かったな。迷子にでもなったか?」
「えっ」
突然、有名漫画家と出会った衝撃を思い出す。
「どうした?」
「いやっ、なんでもないよ。椅子重いじゃん!?それで運ぶの時間かかったんだよ!?」
言い訳を並べ出した、その時、スマホが震える。
着信の相手は——
(雨宮さん!?)
「お前、まさか……」
「男と仲良くなってたのか~。ふ~ん。なかなかやるようになったじゃないか~。」
「待って違うって!これお母さんからの電話だから!」
「まっ、そういうことにしといてやるよ」
にやにやとする静奈を置いて、一足先に会社の外へ出る。
「もしもし?雨宮さん?」
「もしも~し。雨宮ですよ~。あなた望月ちゃんって言うのね!名前通りのかわいらしい子だったわね~。」
憧れの有名人にそんなことを言ってもらえて、少しにんまりしてしまう。
「今日は本当にごめんなさいね。」
「いえいえ!こんなにすごい方とお知り合いになれて光栄ですよ!」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ。それでね、やっぱりお礼にご飯でもと思ってね。望月ちゃん、空いてる日にちある?」
「えーっと、ちょっと確認しますね。んーっと、今週の土曜日なら空いてます!」
「あら偶然ね!私もその日ちょうど予定がないの!その日にしましょ!」
そうして私は、来たる土曜日に胸を躍らせながら、帰路に着くのだった。
雨宮 愛莉 (30代)
4年前にヒット作を生み出し、今も連載している有名漫画家。
巷では、女性漫画家という点と、その内容の独自性から根強い支持層を獲得している。
三上 静奈 (27歳)
つばめの高校時代からの友人。
就職先で困っていた時に、現在の会社を紹介してくれた。
冷やかし上手で、つばめの夢は知っているが、現在の活動は知らない。
婚活中でマッチングアプリは3個持ち。




