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死にたい僕と殺したい彼女  作者: 風戸輝斗
終幕

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32/33

第32話 お蔵

 電気ストーブが奏でる単調な音を聞きながら、奈子は黙々とキーボードを叩いていた。


「……ふぅ。終わった終わったー」


 グッと背中をほぐし、冷めてしまったココアを飲みつつ夜の街並みを眺望する。景色に靄がかかっているので窓が汚れているのかと思ったが、どうやら粉雪が視界を妨げていたらしい。


「ホワイトクリスマスじゃん」


 DREAMERSが解散してから三か月が経とうとしていた。


 雄策に復讐する。そう怜太が啖呵を切っていたのももう三か月も前のことだ。

 どうせ実現できずに返り討ちに遭うのだろうと、エールを送りつつも哀れに思っていたが、奈子の予想に反して怜太は本懐を遂げた。

 逮捕後、雄策の罪が公になっていく中で久留実が常に人気下位で低迷していたのは雄策の思惑によるものだと知り、奈子は殺したいほどに強い憤りを雄策に覚えた。

 一度面会を組んでもらった際に、彼が口にした言葉を奈子は今でもよく覚えている。


『人選を間違えたな。彼らではなく君を選ぶんだったよ』


 謝罪は一切なかった。鉄格子がなければ、奈子はまちがいなく雄策を殺害していた。


「……ありがと。れーくん」


 怜太があのクズを制裁してくれなければ、いつまでも久留実が苦しみを味わうことになっていた。なにかの弾みで奈子がそのことを知れば衝動のままに雄策を殺し、久留実と離れ離れになっていたことだろう。

 お礼したいんだけどなーと思いつつマグカップに口をつけると、部屋の扉が開いた。


「風呂、空いたぞ」


 バスローブを着た久留実が、濡れ髪をタオルで挟んで乾かしながら告げてくる。

 奈子はマグカップを机の上に置き、ちょいちょいと久留実を手招きする。小首を傾げつつも、久留実は律儀に近づいてきてくれた。


「どうした」

「動画できたよー。だからご褒美ちょ~だい」

「んなことだろうと思ってたよ」


 奈子の髪を耳にかけ、久留実がおもむろに唇を重ねてくる。いつもは奈子が攻め手であるため、不意を突かれて面食らってしまう。


「メリークリスマス~」


 奈子の頭をぽんぽんと撫でながら、ニッと八重歯を輝かせる久留実を見ていると、胸に強い満足感が満ちてくる。これだけあれば充分だなー、と思えてしまう。


 DREAMERSが解散してから、奈子は久留実とふたりで活動していた。

 奈子はプロデュース専門。役者は久留実だけ。


 YouTubeのチャンネルを開設したのは二カ月前だが、今では五十万人のチャンネル登録者を抱えるビッグコンテンツになっている。幽霊育成chには及ばないものの充分すぎる結果だ。


「えへへ~、あ、そういえばテレビ出演しないかって連絡届いてたよ。どうする? 出る?」

「あたりまえだろ。DREAMERSがなくなっても、彩子と千代がいなくなっても、人気ナンバーワンの最強アイドルになるっていう夢は変わらない。それに、アタシが夢を叶えないと奈子が報われないからな」

「あ~、好きすぎてやばい。もっかいして?」

「その前に動画投稿しようぜ」


 つまり、動画を投稿すればおねだりを聞いてもらえるということだ。奈子は高速で動画を投稿する。と、YouTubeのホームに再生回数が一桁しかない動画が表示されていた。


「……ふふっ」


 動画のサムネイルとチャンネル名を見て奈子は思わず微笑んでしまう。


「……おいこれって」

「うん、久留実の想像通り。……なるほど。道理で今日まで動きがなかったわけだ」


 数分後には爆発的に伸びるであろう動画を早い段階で見つけられたことに喜びつつ、サムネイルをクリックして動画を再生する。


 チャンネル名は『ゴーストアイドル』。

 タイトルは『ホワイトイルミネーション』。


 DREAMERSがまだ四人で活動していた頃、彩子が亡くなったために発表できずにお蔵入りとなった曲だ。

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