第22話 補填
明日の予定が定まった後、怜太はひとりで都内にある高層マンションに足を運んでいた。
「超売れっ子アイドルともなるとこんないい場所に住めるのか」
「お兄さんのせいでこの先住めるか怪しいけどね」
そう毒づいてくるのは奈子だ。
「で、なんの用があって来たわけ」
腕を組み、憮然とした態度で訊ねてくる。彩子の呪いが解けてすっかり元気になったようだ。
ここは奈子の家。案内された部屋は、怜太の作業部屋兼リビング兼寝室(彩子と千代も含む)の倍以上の面積を持ち、しかしリビングと私室は別にあるというのだから羨ましい限りである。
「家族は?」
「違うとこに住んでる」
「そうか」
そこで会話を切り上げた。
奈子が家族とどういった関係にあるのか。家の至るところにペアルックのものが置かれているが、さては彼氏でもいるのか。気になることはいくつかあるが、無理してまで聞きたいことでもない。
「で、用件は。早くしてくんない」
「寝室で眠ってる久留実とじゃれ合いたいからか」
「そ。早くして」
はったりがすんなり肯定されて怜太は面食らった。やはりふたりはそういう関係なのか。
「なら端的に。まず明日雄策に復讐する」
「私たちに邪魔するなってことでしょ。しないしない。彩子の隠し撮りのせいで、DREAMERSとして活動するのはもう無理そうだし。ほんとうぜぇあいつ」
相変わらず機転の利く子だ。そして性悪がすぎる。
「話が早くて助かる。で、その後の話になるんだが、俺には君たちからDREAMERSという居場所を奪った責任がある。さっき冗談めかして言っていたが、仮に君や久留実が――」
「久留実ちゃんね。呼び捨てしていいのは私だけだから。次、呼び捨てにしたら殺すよ」
本気の目だった。
「……奈子ちゃんや久留実ちゃんが持ち家を手離すような事態に陥ったなら俺に連絡してほしい。惜しまず援助金を送ろう」
奈子はこれ見よがしにため息をついた。
「彩子も同じようなこと言ってたけどさー、そんな闇金信用できるかっつーの。どうせ利息代わりに私たちを利用するんでしょ」
「いいや、しないよ。支援に専念する」
「証拠」
「俺は親父とは違う」
強く言い切る。ぱちぱちと瞬きし、奈子は大声をあげて笑った。
「そっかそっかー。そういえばお兄さん、さくさくの隠し子だったねー。けどそっか。マジなんだ。ま、一貫性はあるし信じるよ。YouTubeのコメント欄を見る限り、信じてる人は極少数だけど」
奈子の言う通り、怜太が雄策の息子であるという情報を鵜呑みにしている視聴者は少ない。動画が削除されたり、相手が名誉棄損だと言って動けば風向きが変わるのだが、雄策はなにもアクションを起こさない。それ故に、怜太の暴露は言わば都市伝説のような扱いをされていた。
「これで俺の要件は済んだ。奈子ちゃんのほうはなにかあるか」
「ふたつある」
腕を組んだまま、奈子は親指と人差し指を立てた。変わった指の立て方だ。
「ひとつ目、お兄さんがほんとーに死ぬ気なのか。ふたつ目、お兄さんがどうしてそこまで復讐心を燃やしているのか。私をいきなり不幸のどん底に落として重傷を負わせたんだもの。不幸の蜜で癒してよ」
まったくいい性格をしている。怜太はため息をついて語ることにした。
「ひとつ目の質問に対する答えはイエスだ。演出プロデューサーの阿久井怜太は死ぬ」
「うわ、ずっる。今のネットに拡散していい?」
「やめろ」
やはり奈子は賢い。もっと言葉を濁すべきだったと遅れながらに後悔した。
「しないよ。久留実も割と好きだし幽霊育成ch。終わっちゃうの寂しいなー」
「正確には久留実といっしょに動画を見る時間がなくなるのが寂しいんだろう」
「わかってんじゃん。ひとりなら絶対見ない。彩子と千代がカメラに視線を送るたびに殺したくなる」
彩子より殺したがり屋の奈子だった。
「二つ目の質問は……ショートか、ロングか。どちらをご所望かな」
「ベリーベリーロングで」
「さっきは急かしてたくせに都合のいいヤツだな」
ぺろっとあざとく舌を出す奈子にため息をつくと、部屋の扉が開いた。
「おはよ奈子。なんか起きたらすげぇ身体が軽く……あ、阿久井怜太! なんでおまえがいんだよ!」
「おはよ久留実! ナイスタイミング! 今からお兄さんの不幸話がはじまるよ! こっちこっち~」
「……えと、状況が掴めねぇんだけど」
眉を顰めつつも久留実が奈子の隣に座ったところで怜太は話をはじめた。




