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死にたい僕と殺したい彼女  作者: 風戸輝斗
第三幕

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第18話 忠告

 久留実だけが、奈子の味方だ。奈子だけが、久留実の味方だ。

 ほかはいらない。なにもいらない。

 平澤久留実と仁羽奈子。奈子の世界は、いつだってふたりで完結している。


(ノイズは消さなきゃね)


 あの尻軽女さえいなければ、奈子の理想の世界は完成する。

 奈子が人気を落とす不祥事を起こせば、自然と久留実は一番人気になる。夢を叶えた彼女がなにを思うか、どんな表情をするのか。奈子はそれが見たくてたまらない。 凍え切った胸が、その時ばかりはやけどしそうなほどに熱を帯びる。


 久留実が離席したタイミングを見計らって、奈子は頻りに頷きながら演出と話をする千代を撮影する。


(可愛さも、トーク力も、内面も。ぜーんぶ久留実が勝ってるけど、胸についてる特大の爆弾だけはあいつが勝ってるもんねぇ~。……天然でHカップとか絶対ありえねぇだろ。ぶりっこばっかしやがってマジうぜぇ。見てるだけでイラつく。彩子みたいに死んでくれないかな)


 写真を加工して顔バレだけしないよう配慮し、裏アカウントに投稿する。フォローも、フォロワーも0の奈子のストレス発散のためのアカウントだ。奈子があの女のせいで不幸に見舞われてイラついたときは、このアカウントに投稿された画像を見て癒されている。


「なにニヤついてんだよ」


 久留実の声が聞こえて背筋が伸びる。咄嗟に別のアプリを開いて久留実に見せた。


「この猫、ちょー可愛くない? なーんかどことなくツンツンしてばっかの誰かさんに似てて」

「べつにツンツンしてねぇよ」

「ふふ、つーんつーんっ」


 頬をつつくと、久留実は剥れてそっぽを向いた。小馬鹿にされて悔しいのだろう。可愛い。

 久留実をからかって遊んでいると、スマホがぴこんと音を立てた。誰だ楽しい時間を邪魔するヤツは、と笑顔の裏で業を煮やしながら画面を見やる。

 息を呑んだ。


「どうした」

「あ、な、なんでもないよー、あははー」

「絶対なんかある」


 ジトっと瞳を鋭くして、奈子の頬をつねってくる。奈子が涙目でやめてくれと頼むと、久留実は軽快に笑った。どうやら隠しごとに興味はなく、単に奈子に意趣返ししたかっただけのようだ。


(見間違い……じゃないよね)


 先ほどの通知を確認する。やはり新規フォロワーが増えたと表示されている。

 奈子の公式アカウントではなく、裏アカウントの。

 再びスマホが震える。同じフォロワーからDMが届いていた。


【突然だけど、DREAMERSの活動を休止してくれないかしら】


「なに言ってんだこいつ」

「なに笑ってんだ」

「ん、ちょっと楽しいことがあってねー」


 訝る久留実にいつも通りの返事をし、スマホの画面に目を戻す。

 アカウント名は『シュガーちゃん』。彩子だろうか、それとも彩子を騙る誰かだろうか。

 どちらだっていい。奈子はメッセージを返した。


【するか、ばーか】

【なら残念だけど、強硬手段に乗り出すしかないわね】


(死んでからも面倒なヤツだなぁ)


 生前もそうだった。彩子がいるせいで、どれだけ久留実が辛酸を舐めたことか。

 彩子が亡くなったと聞いたとき、奈子の中で湧き上がった感情は喜びだった。あぁようやくいなくなってくれた。これでようやく久留実が報われる。彩子の夭折に、悲しみは一切感じなかった。……いや、月並みにはあったか。如何せん昔の出来事だから記憶が曖昧だ。


 先日収録があった『話題のあのヒト』は、怜太と彩子のせいでお蔵入りしてしまった。奈子は別になんとも思わないが、久留実は悲しそうにしていた。

 久留実は抱えている番組本数が少なく、地上波で放映されなければ追加分のギャラを得ることができない。奈子の報酬を分けてあげたいが、そんなワガママが通用するほど芸能界は甘くない。


 ちょうどいい機会だ。久留実の悲しみ以上に彩子を苦しませるとしよう。

 彩子は幽霊だが、奈子はその姿をはっきりと見ることができる。久留実にも見えるそうだ。千代はどうだか知らない。あのビッチとは必要最低限の話しかしたくない。

 だから、恐れるという感情は少しもない。幽霊は未知の存在だから恐怖するのであり、既知の存在となった幽霊は、死してなお未練にすがる哀れで弱い人間もどきの雑種でしかない。


 彼女は特別な力を持っている。しかし、彼女には優しさという致命的な弱点がある。これまでの動画を見る限り、彼女は今なお、そのくだらない感情を保持しているのだろう。

 であれば、奈子に勝機がある。口撃という刃物で、彩子の心を何度も突き刺し――殺す。


 彼女がなぜ命を落としたのか、どんな悲劇に見舞われたのか。奈子は雄策からすべて聞いている。古傷を広げれば、心の弱い彼女は尻尾を巻いて逃げていくだろう。


(何度だって殺してあげる)


 奈子が不敵に微笑んだ――そのときだった。


「おい、こっちのカメラもだぞ!」


 声の発生源を見やれば、ざわざわと撮影班が慌てふためいている。

 駆け寄って話を聞くと、どうやら撮影用のカメラが一斉に故障したようだ。奈子は舌打ちして顔を歪めた。


「あの女……」


 また久留実の努力を水の泡にしやがって。

 まわりを見渡しても、彩子の姿はどこにもなかった。


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