第15話 結託
「――というわけだ」
怜太がどうして雄策にここまで強い憎悪を抱いているのか。どうして多額の借金を背負っているのか。
その全容を聞き、彩子と千代は絶句していた。
「全部本当の話なの?」
「あぁ。一切脚色はしていないよ」
「……人間の所業とは思えないわ」
彩子の呟きに、千代も頷いて同意を示す。怜太は端から〝あいつ〟が――〝白窪雄策〟が人間だとは思っていない。あの男は、エンターテイメントに取り憑かれた悪魔だ。
「どうする。今ならまだ引き返せるぞ」
入念な計画をしているものの、怜太の計画が必ずしも奏功する保証はない。返り討ちに遭う可能性は充分にある。そうなればふたりはただでは済まないだろう。
「……えっと」
「やるわ」
煮え切らない千代の声を、芯の通った彩子の声がかき消す。
「私は社長にお父さんとお母さんを奪われた。これ以上、私の宝ものを奪わせはしない」
「彩子……」
今まで何度も酷いことをしてきたのに、彩子は怜太を家族同様に扱ってくれている。その事実が胸をあたたかくして、危うく演じることを放棄してしまうところだった。
「……いいのか。また俺の指示に従うことになるんだぞ」
「まかせなさい。今度こそ貴方の理想の演者になってみせるわ」
にっこりと笑う。
その笑顔を見て怜太は固く誓う。この子に雄策を殺させはしないと。
「わ、私もやります!」
上ずった声をあげたのは千代だ。握られた両こぶしは震えている。
「後悔しないか」
「しません!」
迷いのない声。怜太は微笑をたたえた。
「ありがとう」
彩子と千代はぱちぱちと瞬きし、怜太に微笑みを返した。
「あいつに復讐するために、まずはDREAMERSの活動を休止させる」
怜太の宣言に、彩子は真剣なまなざしで、千代はこくりと軽く頷いて応える。
「あいつの管轄下にあるアイドルは無数にいる。が、一枚岩というわけではない。これが証拠だ」
パソコンの画面をふたりに見せる。表示されているのは、怜太が元弥と共に集めたアイドルの裏垢の呟きだ。雄策を悪しざまにいう内容のものは頻繁に散見された。
「DREAMERSはあいつにとって特別だ。潰せば必ずなにかしらのアクションを起こす」
雄策を引っ張り出すため。それがDREAMERSを活動休止に追い込む理由のひとつ。
「久留実さんと奈子さんはどうなるの?」
彩子が訊ねてくる。間髪容れずに怜太は応えた。
「異なる事務所で新たなふたり組グループとして発足するだろう」
「ふたり? それって久留実さんと奈子さんだけってこと?」
「あぁ」
短く返事をして別の画面をみせる。説明するよりも、実際に見てもらったほうがわかりやすい。
「……これって」
「久留実と奈子の裏垢だ」
先程と異なり、雄策を毒づく呟きはない。
しかし、代わりとなる標的はいる。
「そんな……嘘よ。だって、ふたりは私たちを可愛がって――」
「変わってしまったんです」
哀愁の漂う笑みをたたえて千代は言う。画面を見るのはつらいだろうに、それでも彼女は目を逸らさない。
「……あのふたりは、彩子がいない間に変わって……いえ、洗脳されてしまったんです」
「千代……」
久留実と奈子が千代に向けて放った暴言の数々。――消えろ。ビッチ。シリコン女。それが彼女たちの本性なのではないかと怜太は勘繰ってしまうが、彩子と千代の反応を見るにそうではないのだろう。彩子がいっときは復讐したいと願った彼女たちも被害者側のようだ。
「許さない」
ハンカチを念動力で浮かせ、千代の涙を拭って彩子はハリのある声で言う。
「私の家族を、私の友だちを、私の仲間を。全部全部、傷つけたあの男を、私は絶対に許さない」
これまで希薄だった雄策に復讐するという彩子の意思。
その意思が今は熱く火を灯している。
「やっぱり怜太は美香さんの血を引いていたのね」
千代が尿意を催して離席するなり、彩子が話題を切り出した。
「幻滅したか?」
「いいえ。だから最初から信頼できたんだって腑に落ちたわ」
怜太をビシッと指差し、彩子はにっこりと笑った。
「復讐を終えたら、次は私のプロデュースだからね。約束しなさい」
「……善処する」
「はい、言質取ったから」
濁したのに、彩子は純度百パーセントの肯定と解釈する。不満を口にしようと思ったが、くすくすと楽しそうに笑う彩子の顔を見ていると、その気持ちは失せてしまう。
「……もうどこにもいくなよ」
「ん、なにか言った?」
「昼飯、作らないのか」
「ふふ、作ってほしいなら素直に言えばいいのに」
それから、彩子が作った料理を千代とふたりで食べた。
ここ一週間食べた料理の中で一番おいしかった。




