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死にたい僕と殺したい彼女  作者: 風戸輝斗
第二幕

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第13話 嘆願

 では、どうして辞めることができないのか。


 簡潔に言ってしまえば、雄策さんには多大な恩があり背くことができないのです。

私の母は、ここ数年で急成長した企業の社長です。母は起業前、資金繰りの面で頭を悩ませていました。そんな母に資本金を投資してくれたのが雄策さんでした。


 彼は莫大な金額を母の会社に投資してくれました。基本的に起業は複数の相手からの投資を得てするものなのですが、私の母は雄策さんからの資本金だけで会社を立ち上げることができました。

 結果は大成功。母の努力もありますが、なにより大きかったのは雄策さんがコネクションを作ってくれたことでしょう。


 援助の対価として彼が求めたのは、私をDREAMERSに所属させることでした。

 その当時、私は子役事務所に所属していましたが、メインの仕事は一本もありませんでした。せいぜいエキストラとして出演する程度です。

 ですので、雄策さんの誘いは私としても母としても願ったり叶ったりのものでした。私は迷いなく子役事務所を辞め、雄策さんの事務所に所属しました。


 それからは夢のような日々でした。アイドルとして大成して、たくさんのファンがついて。

 あぁこの時間がずっと続けばいいのになぁ、と何度も思いました。楽しい時間でした。


 ですが、彩子が脱退してから、輝きはどんどんくすんでいきました。

 雄策さんは私を新しいスターにするべく、様々な業界に売り出しました。ドラマに、モデルに、ラジオパーソナリティーに。その中で、私は月並み以上に演技の能力が秀でていると判明しました。


 目がまわる日々でした。学業はどんどん遅れて、久留実さんや奈子さんと顔を合わせる機会が徐々に減っていって。

 それでも嫌な気はしませんでした。これから自分はこの業界で生きていく。そう考えれば、この日々に慣れるように頑張らなくちゃと勇気を奮い起こすことができました。


 ですが、グラビアだけは嫌だと断固拒否しました。高校一年の頃でした。肌を晒すのが恥ずかしいというよりも、そういった目で見られることに私は恐怖を感じたんです。

 私の懇願を、雄策さんはあっさりと聞き入れてくれました。無理を言って悪かったねって。あ、よかったってホッとしました。


 気分を高揚させたまま家に帰ると母に思い切り叩かれました。

 どうして雄策さんに反抗したんだって。おかげで契約先がひとつなくなったって。

あの時は母の言っていることがうまく理解できませんでしたが、今ならわかります。あの人は、私の牢獄を既に完成させていたのです。


 結局、グラビア撮影を回避することはできませんでした。私の水着が表紙を飾る雑誌が大ヒットすると、母はよく頑張ったねと頭を撫でてくれました。これで先月分の赤字を取り返せると喜んでいました。


 気づけば、私の母はお金の奴隷として生まれ変わっていました。

 片桐さん以前の担当マネージャーに強姦されそうになったときも、母はまず私がアイドル活動を辞めないかどうかを懸念していました。私が辞めないよと答えると、母は喜んで私を抱き締めてくれました。

 いつからか、母に抱擁されることを寂しく思う自分がいました。昔は好きだったその時間を、今はとても疎ましく思っています。


 私が拒絶するたびに、母が損害を被る。そのシステムが盤石なものになってしまっているため、私は雄策さんに恨みを抱いてもなにもできません。私は彼の奴隷になるしかないんです。

 先日、雄策さんは私を年明け前にDREAMERSから引退させて、アダルト女優に転身させるつもりでいるのだと片桐さんから聞きました。超人気アイドルからアダルト女優に電撃転身。今の私なら、アダルト業界の頂点を獲ることができると雄策さんは確信しているそうです。


 ……どう思っているのかって?

 嫌ですよ。絶対嫌。

 けど、私には彼の決定に従う以外の選択がないんです。


 ……すいません、ひとつ訂正させてください。私はアイドルとして活動する時間が好きです。けど、あの人の手足となってアイドル活動をする時間は大嫌いです。こんな自分がダサくて気持ち悪くて仕方ないです。……死んじゃいたいくらい情けないです。


 全部全部、投げ出して、まぶしかったあの頃に戻りたい。久留実さんや奈子さんだって、昔はもっと優しい方だったんです。おふたりも、きっとなにかしらの弱みを握られて私の母と同じように洗脳されてしまったんです。


 ……ねぇ阿久井さん、私のことを助けてくれるって本当ですか?

 私はもう、誰を信じればいいのかわかりません。でも、ひとりではどうすることもできないから、誰かを信じることしかできないんです。


 私にできることならなんでもします。

 だから、どうか、私と母を助けてください。お願いします。


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