一話
彼岸ライです。
この話が、誰かの中に少しでも残れば嬉しいです。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
こんなにチャイムで青ざめたのは初めてかもしれない。
私、高梨凜夏は、一回も遅刻したことがないという記録を
まさに今変えてしまった。
「本当にすみません……遅れました」
扉を開けると、クラスの人の視線が刺さる。
その時やっと、自分の格好に気付いた。
制服も髪もビッショリ濡れている。
「高梨、遅れるなんて初めてだな。
次から気をつけろよ。まあ座れ」
「はい……すみません」
椅子に座ると、濡れたスカートがさっきよりも冷たかった。
「今日どうしたん?大丈夫?」
と、隣の黒澤君が小声で話しかけてきた。
「え、あ、うん。一応大丈夫だよ。」
濡れてることよりも、
さっきのことしか考えられなかった。
✻
あの人、何をしているんだろう。
【県立林明高校まであと500m】
その看板の横に傘もささずに立っている人がいた。
こんな変な人避けなければいけないのに。
何かに引っ張れれるように、惹かれるように、その人に近づいていった。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけても、反応はなかった。
視線の先には、私の学校があった。
「学校遅れるんじゃ、ないですか」
「え?」
学生、とも言っていないのに。
「その制服、林明高校だと思います」
その人は、こちらを見ないで言った。
「もうすぐ、始業時間です」
なぜ、始業時間を知っているのだろう。
確かに始業時間はそろそろだ。
でも余計に、この人のことが気になってしょうがなかった。
「あの――何を」
「眺めているだけです」
言いたかったことを、読まれた。
思わず、言葉を失ってしまった。
「何か、疑問なことありますか?」
「……あの、なんで言いたいこと分かるんですか?」
その人は、一瞬目を見張った。
「どうでしょうね」
その人は、軽く笑みを作った。
どこか、今にも消えそうだった。
「早くしないと、本当に間に合わなくなります」
行かないといけない、それでも、せめて名前だけは聞いておきたかった。
「……あの、名前、教えてもらえますか?」
その人は、左目を細くした。
「……名前、ですか」
「それは…言えません」
「え、でも――」
「また、いつか、会えると思います」
「え?」
また、会える?
会いたい、なんて言っていないのに…
「では」
「ちょ、待って――」
そう引き止めたが、彼はそのまま学校から離れるように
行ってしまった。
その時、さしていたはずの傘が地面に落ちているのに気がついた。
そのせいで、制服もびっしょり濡れている。
そしてなぜか、知っているような感覚だけが残った。
✻
読んでくれて、ありがとうございました。
また、お会いできたら嬉しいです。




