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二話:きな臭い話

 鳥の鳴き声が聞こえる。ちらちらと朝の光が揺れ、柔らかな風が肌を撫でる。レナードは目が覚めた時、自分がどこにいるのかがすぐにわからず逡巡した。舞踏会に行って、ベランダで妙な天使に会って、キスをして、それで……。


「っ!」


 思い切り起こしたその体に、頭痛や眩暈といった症状はなかった。寧ろ元気と言えるぐらいで……。


「ん……れなーど?」


 その声の主を見れば、形のいい顔をした金髪で半裸の天使が隣で目元を擦っていた。そうだった、俺は昨晩コイツと寝たんだった。物好きな変わり者の天使、シャイン。思い出した情事の中、引っ掻いた覚えのある引っ掻き傷がシャインの腕にあって、レナードは結構やらかしたなと思った。だが仕方ないだろう、コイツ絶倫野郎だったのだから。


「ふわぁ……レナード、体調はどう?」


 レナードはぎょっとした。天使が悪魔を抱いたなんて話もぶっ飛んでるのに、この天使は相手の悪魔の体調を気にしているなんて。


「どうって……なんでそんなこと気にすんだよ。」

「だって、昨晩は顔色悪かったし、ちょっとふらついてたし……ボクの満足感を食べて少しは良くなったかなって。」


 そこまで見られていたことに驚きつつ、レナードは癪だったが、素直に言うことにした。


「……ああ、すこぶる調子がいい。不思議に思うくらいだ。」

「それは良かった。」


 そう聞こえたかと思えば、ぐい、とレナードの腕が引っ張られる。振り返るとその一瞬で口を奪われた。


「っ、おい、馴れ合いは終わりだぞ。」

「いいじゃないか。チェックアウトまで時間あるんだし、それまで、な?」

「な? じゃない。ちょっ、おいっんむ、」


 文句は聞かないとでも言うようなシャインに、レナードは抵抗する気も失せて流された。まぁどうせ、今限りの関係なのだから。




・・・・・




「よぉよぉレナードさんよぉ。朝帰りとは、ずいぶんお楽しみだったんですかねぇ? イタッ、」


 贔屓にしているビルの屋上にいた悪魔の額にデコピンする。レナードは早々に、朝見たくない顔ナンバーワンのマルバスに会った。第七階級の怠惰の悪魔の一人で、回復魔法に特化している怠惰の悪魔の中で、魔法の精度が高い部類に入るのがこのマルバス。回復魔法の精度が高いということは、すなわち治せる怪我も幅広いという意。物理的な怪我はもちろん、魔力暴走といった症状も時間をかければ治せる結構すごい奴である。だがマルバスは癖が特殊で、周囲の悪魔からはドがつくほどの変態と言われている。


「ひでぇなぁ、やっとレナードがちゃんとした食事をとったらしいってわかってホッとしてやってるのに。」

「マルバス、テメェには関係ない。それに安心したのを恩着せがましく言うな。」

「そんなことより、どんな相手だったんだよぉ、若い女か、それともイケオジか? フェアリーを誑かしたか? なんだか良い匂いのする魔力が混じってるなぁ。お前の趣味ってヤれればなんでもいいわけじゃないだろ? 今日こそ教えろよぉ。」

「教えない。迷惑だ。マルバス、いい加減諦めろ。」

「そう言われて諦める俺じゃないんだな! 絶対お前の趣味を明らかにして、俺が選りすぐりの餌をプレゼントしてやるんだ! それでどんなプレイをしているのかちょっと覗かせてもらって……」

「テメェのその覗き魔はなんとかならねぇのかよ。」


 溜息を吐きながら、レナードはウイスキーを呷る。朝から酒を飲むのかという疑問には、悪魔にとって酒は水と同等だから問題ないと答えるだろう。実際酔わず、酒臭くもならない。レナードは煙草と同じくらい酒が好きだが、酔うという現象を生で体験できないことだけが残念と思っている。


「で? マルバスはなんでここに来たんだよ。なんかあったのか?」

「おお聞いてくれるか。いいぜぇ答えてやるよ。どうやら三ヶ月後にプレアデス会議があるらしいぞ。」


 悪魔は七つの大罪の名で七種に区分されており、それぞれのトップが集まって会議をするプレアデス会議と呼ばれる会議が不定期に開催される。レナードも度々アスモデウスに連れられて行っているが、たまに緊急性のある議題が上がる以外は基本井戸端会議だ。今回だってそうだろう。だが何故その話をこんな朝早くからしに来たのか。


「そんな話の何がそんなにテメェを興奮させてんだ?」

「聞いて驚け、どうやらその会議でだな……アスモデウス様の後任を決めるらしいぞ。」

「後任?」

「正確にはアスモデウス様が転生して安定するまでの中継ぎをする奴を決めるらしい。ほら、アスモデウス様も結構なお年だろう?だから一回死んで体をリセットしたいんだそうだ。」

「へぇ。」

「へぇ、じゃないぞ! わからないのか! このビッグウェーブが!」

「わからない。」

「なんでだよ! 後任つったら、できるだけ信頼できる奴に任せたいだろう? 自分が認めてる奴を任命するだろう。つまり……」

「つまり?」

「お前が選ばれるかもしれないってこと! なんでここまで言わないとわからないんだよ!」

「そんなもの興味ない。」

「これだから出世に興味ないボンボンは!」

「俺別にボンボンじゃねぇんだけど。」


 なるほどマルバスが興奮している理由がわかったが……レナードは他人事だった。確かにアスモデウス様に気に入られている自覚はあるが、俺は中継ぎを任せようと思われる人材ではないように思う。俺は少々他より魔法の扱いが上手いだけだ。それだけでトップの座に腰を下ろせるなんて思うわけがない。アスモデウス様の洞察力や瞬発力、行動力を考えたら俺は足元にも及ばない。それはアスモデウス様を隣で見てきた自分が誰よりわかっている。


「俺は後任にはならねぇよ。アスモデウス様から言われたら多少は考えるが、俺には力不足としか思えない。」

「謙虚すぎるぜレナードぉ。まぁそう言うお前だから気に入られてんだろうけどさぁ。」

「話は終わりだ。寝るから帰ってくれ。」

「あらまぁやっぱり昨晩は相当お楽しみだったようですねぇ。」

「おい。」

「ケケケッ! はいはい帰りますよぉっと。」



・・・・・



 レナードにとって、あの天使との夜は食事だった。空腹だったのが影響してかなり事を急いてしまった気はするが、それくらい。これまでの食事と対して違いはないように思えた。それなのに、


「なぁんでこんなに気にしちまうんかなぁ……」


 シャイン。ウリエルの補佐で、笑わない天使で……キスが上手い奴。確かにアイツのキスはよかった。タイミングも息継ぎの間合いも完璧だった。それにあの夜は……。


「……」


 あの夜、シャインがレナードに煽られて余裕がない表情を見せる様は愉悦だったが、レナードは物足りなさを感じていた。結局シャインは一度も笑わなかった。それが妙に、心に引っかかっていて。


「……はは、何考えてんだか。」


 レナードは『停留所』の東端にある建物のドアを開けた。ジャズ調の曲が流れている店内は酒瓶が壁を埋め尽くしており、通るのもやっとな通路とカウンターが見える。そのカウンター席に座れば、店主のアザゼルが笑って出迎えた。


「やぁレナード、顔色がいいね。ちゃんと食べれたの?」

「まぁな。スコッチをロックで。」

「はいよ。」


 アザゼルが奥に引っ込むのを見て、レナードの思考は嫌でもシャインのことを考えていた。いや、基本天使は笑わないものだ。この数百年生きてきて天使には何度も会っている。ただ夜の相手にしたのは初めてだっただけで。他もあんな感じなんだろう。


「はいどうぞ。それにしても……元気そうで機嫌が悪そうね。なんかあったの?」

「なんかあったというか、なかったというか……」

「話してごらん。笑い飛ばしてあげるから。」

「そういう話じゃねぇんだけど。」


 けらけらとアザゼルは笑う。笑い終えると「冗談よ。まぁとりあえず言ってみな。聞いてあげるから。」と言うから。


「なら……なぁ、アザゼルは天使と寝たことあるか?」

「天使と? まぁ……なくはない。」

「その時の天使って……やっぱり笑わねぇのか?」

「笑う奴とそうじゃない奴がいたね。まぁ笑う奴は、天使の微笑みの力が弱い子が多かったかも。力が強くて加減が難しい子は徹底してたよ、笑ったところを見たことがないくらいにね。」


 アザゼルは所謂堕天使。元々天使だったのが、天使のやり方に嫌気がさして反旗を翻したところ、悪魔に堕とされた。だから天使の内情もよく知っている。

 だがそうなると……やはりシャインは、天使の微笑みの力が強いんだろうか。だから笑わないというのが順当な気はするが……。


「なに、まさか天使と寝たんじゃないだろうね。」

「いや、ちょっと天使と会っただけだ。気になったから聞いただけ。」

「ふぅん。」


 天使と悪魔の関係について、アザゼルは和平反対派だ。天魔大戦の時に決着をつければ良かったのにと何度もぼやいている。そういえば天使が負けてくれればよかったのにとか言ってたと思い出して、レナードは別の話題に移ろうとした。


「それより、プレアデス会議があるって?」

「ああ、さっきまでいた客がその話をしてたよ。どうせまたおしゃべりして終わるんだろうけど。」

「その話なんだが……アスモデウス様が転生するまでの中継ぎを選ぶらしい。」

「ええ? あー、まぁそうか、アスモデウス様ももう二千歳ぐらいだもんねぇ。体にガタが来るか……あれ? じゃあレナード、あんたが中継ぎに?」

「いやいや、俺はならねぇよ。俺はただ手先が器用なだけだ。そんなんでトップ張れるなら誰だってなれる。」

「ふふ、謙遜も行くところまで行くと清々しいね。とはいえ、気をつけた方がいいのは確かよ。」

「というと?」


 アザゼルは他の客が誰もいないことを確認するようなそぶりをすると、声のトーンを落として言った。


「なんでも、レヴィアタン様が部下の強化に勤しんでるらしいよ。まるでこれから戦争でも仕掛けるかのような勢いで。」


 レヴィアタン……第四階級の嫉妬の悪魔、そのトップだ。天魔大戦の火付け役になったと言われており、天使を特に嫌っている。部下を強化しているということは……また戦争を始める気なのだろうか。


「少なくとも、アスモデウス様の後任の話で、レナード、あんたの名前は確実に出る。厄介事に巻き込まれないよう願っとくよ。」


 アザゼルがコップを布巾で拭き始めて、レナードはスコッチを一口飲んだ。これは厄介なことになりそうな予感……と、思っていたら店のドアが開いた。「いらっしゃーい。」とアザゼルが言うから、誰か客が来たんだろうと思った。だが香った魔力の匂い。蜂蜜の。ばっと振り向いたら、そこにいたのはシャインだった。


「シャイン……?」

「あれ、レナード? どうしてここに?」

「どうしてって……俺の行きつけだ、ここは。」

「そうなのか? ボクも結構頻繁に来てるけど……」

「嘘言いなさんな! 最近全然来てくれなくなったじゃないの! シャイン、仕事が忙しいからって休息取ってないんじゃないでしょうね。」

「そんなことは……あー、ないと言えないこともない、」

「全く……注文は?」

「ジントニックで。」

「はいよ。」


 不服そうだったアザゼルがグラスにトニックを注いでいく。レナードは思った以上にアザゼルがシャインに好意的なことに驚いていた。心配して嗜めてもいた。シャインは天使なのに……どういう関係なんだ?


「シャイン……アザゼルとは付き合い長いのか?」

「ん? ああ……アザゼルが天使だった時からの仲だよ。本当はアザゼルに会いに来てるのは周りからいい顔されないんだけど……心配だからね、どうしても来ちゃうんだ。」

「へぇ。」


 アザゼルがジントニックをシャインの前に置く。レナードはシャインがごくりと一口飲む姿をじっと見てしまって、ハッとして視線を逸らした。それに気づいていないシャインが言う。


「レナードもお酒好きなのか?」

「……ああ、まぁな。『も』ってことは、アンタも?」

「うん。ボクもお酒は好き。酔えないけど……」

「……味わってる時間が楽しい?」

「そう。それでウイスキーの飲み比べもしてみたり、」

「ストレートで飲んだり加水したり、」

「年代違いで飲んでみたり、」

「限定ボトルを試飲させてもらうのもいいよな。」

「うん。よくわかるね。」

「俺もそう思うからな。」

「そっか……なんだか嬉しいね。」


 全く嬉しそうに見えない顔だったが、シャインが表情を緩めているような様子なのはレナードにもわかった。そこでふと、妙案を思いついた。


「……なぁ、酔ってみたいか?」

「え? そりゃ、一度は経験してみたいと思うけど……できないだろ? そんな薬も、魔法も、存在しないんじゃ、」

「それができるんだなぁ。試してみるか?」


 シャインが目を瞬かせる。そうしてコクコクと頷くから、レナードは指を一振りした後にシャインの額を突いた。


「っ! 今のは……?」

「幻覚魔法の応用だ。とりあえず飲んでみろ。」


 シャインがジントニックを飲む。この魔法は仕組みとしては単純だ。接種したアルコールの量に合わせて体の反応を段階的に組み込んでいくだけだ。その段階的というのが他の奴らたちにはわからないらしく、今のところこの魔法を使えるのはレナードしかいない。

 そりゃあすぐに変化は出ないだろうが……と思っていれば、シャインが感動するように。


「わぁ……すごい、体がぽかぽかするよ!」

「それがほろ酔いってやつだ。」

「じゃあ、もっと飲めばもっと酔えるのか?」

「まぁそうだが……あっおい、」

「んっ、アザゼル、おかわり!」


 ジントニックを一気に飲み干して、シャインはアザゼルに追加を要求していた。まぁ手のつけられなくなるラインは越えないように制御してあるから大丈夫だろうが。そう思っていたのだが。


「レナードぉ、こぉんなにいい気分になったのは久しぶりらよぉ! いつぶり? いつぶりだろ、わかんらいけどぉ!」

「はいはい、よぉござんすね。」


 既にジントニックを三杯、ウイスキーのロックを二杯飲んでこの出来上がりようである。もう少し限界を下げておくべきだったか。


「人間はいいなぁ! いつでもこんな体験がれきるなんてぇ!  ぐすっ、それに引き換え天使は仕事仕事その次も仕事、酔って息抜きなんてのもれきないしぃ! ブラック! ブラック企業反対! 有給くれ!」

「天使に有給もクソもないだろ……あ、」


 シャインがガタンとグラスを倒してしまい、酒がこぼれる。「あらやだちょっと待って、すぐタオル取ってくるから。」と言うアザゼルが奥に消えた辺りで、シャインが机に突っ伏してぐずぐず言ってるのが聞こえた。


「うー……みんなウリエルウリエルってぇ……ボクにはちゃんとソルって名前がぁ……あるのにぃ……」


 ソル……? 聞こえた言葉が気になったが、レナードはそろそろいいだろうとシャインにかけた魔法を解除した。


「う……ん? あれ?」

「起きたか。」

「お待たせタオルよーってあれ? シャイン気がついた?」

「あ、ごめんアザゼル!」


 アザゼルが持ってきたタオルを受け取って、シャインが溢れた酒を拭く。それでもまだ意識がふわふわしているようで、「うーん、んー?」と言いながら。


「酔うってすごく変な感じなんだな……自分なのに自分じゃないみたいな……あ、ボクなんか変なこと言ってなかったか? 大丈夫だった?」

「変なことは……特に言ってねぇ気がするけど、」

「そう? 途中から記憶が朧気なんだよな。でもそっか……酔う経験ができて嬉しかったよ、ありがとう、レナード。」


 本当に嬉しそうなのかが表情からはわからないが、声色は明るかった。まぁ、本人が良かったんなら良かった。レナードは笑ってスコッチを飲み干した。



・・・・・



「じゃあなレナード! また会おう!」


 だから、天使が悪魔にそんなことを言うのはおかしいんだぞって誰か突っ込んでくれないか。レナードは頭が痛い思いがした。その背が見えなくなった辺りで、キンいう音が耳元でした。魔術回路を一部外部接続に切り替えて〈なんだ?〉と頭の中で問えば。


〈レナードちゃん、ちゃんと食べてる?〉

〈なんで最近の連中は俺の食事事情を最初に気にしてくるんだ。〉


 第五階級の暴食の悪魔、シャックスだ。暴食の悪魔は五感を操る魔法に特化しているのだが、シャックスは魔法がてんでダメで、唯一『聞き取る』魔法だけずば抜けているというアンバランス加減。しかしそのお陰で情報が欲しいならまずはシャックスに聞けと言われるほどの、魔界一の情報通、地獄耳と呼ばれている。


〈それだけ心配かけてるってことでしょぉ? アタシまじで心配してるのよ! はぁ……アタシの伴侶になってくれたらいつだってとびっきりの餌を食べさせてあげられるのに……〉

〈お前のプロポーズは断ったはずだが?〉

〈もう! 冷たいわね! このアタシを袖に振ったこと後悔させてあげるんだから!〉

〈俺と比べられねぇほど魔法が下手な奴が何言ってんだ。〉

〈聞き耳に特化してるだけですぅ。いやそんなことはいいのよ。聞いた? 三ヶ月後のプレアデス会議の件。〉

〈どこもその話で持ちきりだな。アスモデウス様の件だろう?〉

〈それはそれ。これはこれ。聞いたらびっくりするわよ。レナードちゃんだってね。〉


 俺でも驚く? なんの話だろうと思えば、〈いーい? よく聞いて?〉と。


〈次のプレアデス会議、天使も参加するって話よ。〉

〈天使が……?〉

〈預言者達がこそこそ囁いてるのを漏れ聞いたの。びっくりしたわよ。〉

〈預言者って……大天使ガブリエルが統率する第二階級の天使達のことだろ? シャックス、そんな奴らの話を盗み聞いたのか?〉

〈盗み聞いたなんて悪魔聞きの悪いこと言わないで? 聞こえてきたのよ。それ以上はノイズがかかって聞けなかったわ。かなり保護魔法をかけてたから、かなり深刻な内容なのは確かね。平癒者達も最近かなり活発に動いてるし、何か起きるのは確実ね。〉


 預言者は神やミカエルの言葉を直接天使達に伝える役割をもつ天使達。平癒者とは、大天使ラファエルが統率する、世界の異常点を正常に戻す役割をもつ第三階級の天使達のことだ。天使が悪魔の会議とも称される集まりに参加するのも謎だが……平癒者達は伝導者たちほどではないが、世界のあらゆる場所に飛び回って異常点を癒している、忙しい集団として有名だ。その天使達が今まで以上に活発化している……確かに、何かある。


〈もう最近きな臭い話ばかりだわ。預言者達や平癒者達はそうやってざわついてるし、嫉妬の悪魔達は揃って戦闘訓練してるし、ドワーフの国で魔力暴走を操る薬ができたとかなんとか……それからアタシのリップがなくなるし……〉

〈リップは関係ねぇだろ。〉

〈アタシには大問題なの! とにかく、アスモデウス様の件もあるし、レナードちゃんも無関係ではいられないわ。最近シャインと連んでるようだけど、気をつけなさいよ。シャインはウリエルの右腕なんだから、何を探られるかわからないわよ。〉


 シャインのことバレてるのかと。流石地獄耳と思いながら、レナードはシャインのことを頭に浮かべた。アイツが、俺相手に何かを探ってくる? はは、あり得ないな、と思ったが、警戒はしておくに越したことはないと意識を改めた。


〈それじゃ、ちゃんと食べて寝るのよ。〉

〈お前は俺のマリアかよ。〉

〈なれるものならなりたいわ。その方が話聞いてくれそうだし。じゃあね。〉

〈あ、そうだ、ソルって言葉に心当たりはねぇか?〉

〈ソル? ラテン語で太陽って意味があるけど……それが何?〉

〈いや、なんでもねぇ、じゃあな。〉

〈ふぅん。じゃあね。〉


 思念伝達が途切れて、ふぅと息を吐く。シャックスもきな臭いと言っていたが、怪しいニュースばかりだ。レナードにはその渦中に巻き込まれているような気分だった。俺はカスミを食って生きられるならそれでいいんだがな。そうは思えど、悪魔である以上そんなこと言ってられない。次の餌を、探さなければ……。


 それなのに、あの蜂蜜の匂いを思い出すのは、どうしてだろうな。

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