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韓国最後の夜

*****


UG電子が入っているビルは、近代的な感じのオフィスビルだった。

その6階の全フロアを借りている。


従業員は全盛期の頃は200人程いたが、だんだん減っていき、今は100人弱になっている。

トップが裏の事業に力を入れるのと反比例して、表の事業は廃れていったものと思われる。


社長の名前はパク・ジヨンといい、出自は財閥の三男だが、若い頃から無茶をしては親に尻拭いをさせてきた。

そろそろ、その親も見放す頃合いだと考えているという噂がある。



廃校襲撃のあと、パク・ジヨンの元へ報告があったのは、深夜3時頃。

側近に招集がかかり、パクのマンションに皆が集まったのは4時頃だった。


「だ、誰だ! 誰がやりやがった!」

パクは怒り心頭で側近に怒鳴り散らしていた。


側近の1人で、一番冷静なキム・ドニョンが答える。

「おそらく日本人。日本から連れてきた者たちの救助が目的だったのでしょう。

何者かは、生き残った奴がいないので不明です」


「警察に情報出させろよ!

まだそいつらも韓国にいるだろ、1人も日本に返すな!」


「手配はしています。しかし…プロの仕業と思われます。

簡単に正体がわかるとは思えません」


「くそっ…どれだけの損失かわかってるのか!」


「それよりも、今は韓国を離れる方が先かと思いますが…

いずれこちらにも警察の手が伸びてくると思われます」


「警察なんて、親父がどうにでもしてくれるだろ」


「しかし…」

キムは、その『親父』がパクを切り捨てようとしているとは、とても言えない状況に黙り込んだ。



その時だった。

「やあ、やあ、お揃いですね」

突然聞きなれない言語の知らない男が現れた。


「お、お前、何者だ! どこから入った!」

パクが怒鳴る。


側近たちはその男の異様な落ち着き、威圧感に気圧され、後ずさった。

キムだけは、その男が廃校を襲った日本人だということに思い至っていた。


「キムさん、あなたは日本語が少しお出来になるらしいですね」

男が言う。


「お察しの通り、廃校を襲ったのは我々です。

依頼があったのでね。

そして、最後の依頼を遂行するために、ここに来ました」


キムは男の言ったことを、パクに通訳した。


パクは真っ蒼になり、言葉が出てこない。


「キムさん、主犯はパク社長だとわかっています。

他の皆さんはどの程度関わっていますか」

男がキムに尋ねる。


キムは、少し逡巡してから日本語で答えた。

「我々はパク社長の指示に背けません。

しかし…だからと言って、ここで命乞いをするつもりもありません」


(潔いな)

男は…コウは感心した。


コウは、ホルダーからゆっくりと短銃を手にとり、銃口をパクに向けた。


「や、やめろ! やめてくれ!

おい、お前たち、何とかしろ!」

パクは側近たちの後ろに回り、側近を盾にして逃げ惑っている。


「まったく、往生際が悪いな」

コウは言い、容赦なく引き金を引いた。


弾丸は側近をかすめ、パクの眉間に命中した。


側近たちは身じろぎ一つしない。

その場に固まったまま、目だけで倒れたパクを見下ろしていた。


コウがキムに言う。

「もし、今後パク社長の後を継ぐ奴がいたら、また来る。

せっかく表の事業があるんだから、真面目に働けよ」


キムが他の側近に伝える。

皆がウンウンと一生懸命に頷く。


コウは最後にキムを一瞥し、それから部屋を出て行った。



*****



ホテルに戻り、コウはシキミとリクと合流した。


「終わったよ」

コウが言い、シキミが頷く。


「結局社長だけ殺った。側近は自発的に関わってはいない様子だったからな。

釘は刺しといたけどね」


「いいんじゃないか。

余計な殺しは気持ちいいもんじゃねぇ」

シキミが言うと、リクがシキミを見た。


「ん? 俺が言うと変か?」

シキミがリクに聞く。


「いえ、そうじゃなくて、何と言うか、みんなの方向が一致してるんだな、と改めて思って」

リクが言うと、シキミが少し照れくさそうに笑う。


「じゃ、俺は韓国最後の夜をソフィと楽しんでくるから」

そう言うと、シキミは部屋を出て行こうとする。


コウが、

「ああ、礼を言っといてくれ」

そう言うと、シキミは片手を上げて出て行った。


コウはリクと顔を見合わせて笑い、

「仕事のできる女性は、シキミのタイプだもんな」と言った。


「夜と言っても、もう明け方だな。

リク、眠いだろ」


「いえ、大丈夫です。

コウさんこそ、みんなより余計に仕事して、疲れてるんじゃ…」


「まだアドレナリンが出てるからな。少し動いた方がいい」

コウがそう言うと、


「せっかくなんで、俺も韓国最後の夜をコウさんと過ごしたいです」

リクが言い、


「じゃ、そうだな、散歩でもするか」

コウはそう言って立ち上がると、ゆっくりとリクの髪を撫でた。



*****



キムはコウが立ち去ったあと、他の者に警察への通報を任せ、1人で夜の街を歩いていた。


(あの男は、最後に俺を見た。

あの目には何か、メッセージがあった気がしてならない…しかし…俺にメッセージなんて)


キムはコウの最後の目を忘れることができなかった。

自分はこれからどう生きていくのか…UG電子に残るのか…それとも…。


コウが側近たちを殺らなかったのは、きっとパク社長のワンマン会社だとわかったから。

しかし、普通の殺し屋なら、顔を見られたら皆殺しにするのでは…。


他の殺し屋は知らないが、今まで仕えてきたパク社長のやり方を見ていた。

とても暴力的で、気に入らない者や不要な者はどんどん切り捨て、ゴミのように扱っていた。


しかし彼は、殺し屋だというのに、なぜか暴力的な感じがしなかった。

むしろ紳士的…いや

キムは頭を振った。


殺し屋は殺し屋だ。


それよりも

俺はこれからどうするかな…。


キムは明けていく空を見上げてふーっと息を吐いた。


*****


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