韓国最後の夜
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UG電子が入っているビルは、近代的な感じのオフィスビルだった。
その6階の全フロアを借りている。
従業員は全盛期の頃は200人程いたが、だんだん減っていき、今は100人弱になっている。
トップが裏の事業に力を入れるのと反比例して、表の事業は廃れていったものと思われる。
社長の名前はパク・ジヨンといい、出自は財閥の三男だが、若い頃から無茶をしては親に尻拭いをさせてきた。
そろそろ、その親も見放す頃合いだと考えているという噂がある。
廃校襲撃のあと、パク・ジヨンの元へ報告があったのは、深夜3時頃。
側近に招集がかかり、パクのマンションに皆が集まったのは4時頃だった。
「だ、誰だ! 誰がやりやがった!」
パクは怒り心頭で側近に怒鳴り散らしていた。
側近の1人で、一番冷静なキム・ドニョンが答える。
「おそらく日本人。日本から連れてきた者たちの救助が目的だったのでしょう。
何者かは、生き残った奴がいないので不明です」
「警察に情報出させろよ!
まだそいつらも韓国にいるだろ、1人も日本に返すな!」
「手配はしています。しかし…プロの仕業と思われます。
簡単に正体がわかるとは思えません」
「くそっ…どれだけの損失かわかってるのか!」
「それよりも、今は韓国を離れる方が先かと思いますが…
いずれこちらにも警察の手が伸びてくると思われます」
「警察なんて、親父がどうにでもしてくれるだろ」
「しかし…」
キムは、その『親父』がパクを切り捨てようとしているとは、とても言えない状況に黙り込んだ。
その時だった。
「やあ、やあ、お揃いですね」
突然聞きなれない言語の知らない男が現れた。
「お、お前、何者だ! どこから入った!」
パクが怒鳴る。
側近たちはその男の異様な落ち着き、威圧感に気圧され、後ずさった。
キムだけは、その男が廃校を襲った日本人だということに思い至っていた。
「キムさん、あなたは日本語が少しお出来になるらしいですね」
男が言う。
「お察しの通り、廃校を襲ったのは我々です。
依頼があったのでね。
そして、最後の依頼を遂行するために、ここに来ました」
キムは男の言ったことを、パクに通訳した。
パクは真っ蒼になり、言葉が出てこない。
「キムさん、主犯はパク社長だとわかっています。
他の皆さんはどの程度関わっていますか」
男がキムに尋ねる。
キムは、少し逡巡してから日本語で答えた。
「我々はパク社長の指示に背けません。
しかし…だからと言って、ここで命乞いをするつもりもありません」
(潔いな)
男は…コウは感心した。
コウは、ホルダーからゆっくりと短銃を手にとり、銃口をパクに向けた。
「や、やめろ! やめてくれ!
おい、お前たち、何とかしろ!」
パクは側近たちの後ろに回り、側近を盾にして逃げ惑っている。
「まったく、往生際が悪いな」
コウは言い、容赦なく引き金を引いた。
弾丸は側近をかすめ、パクの眉間に命中した。
側近たちは身じろぎ一つしない。
その場に固まったまま、目だけで倒れたパクを見下ろしていた。
コウがキムに言う。
「もし、今後パク社長の後を継ぐ奴がいたら、また来る。
せっかく表の事業があるんだから、真面目に働けよ」
キムが他の側近に伝える。
皆がウンウンと一生懸命に頷く。
コウは最後にキムを一瞥し、それから部屋を出て行った。
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ホテルに戻り、コウはシキミとリクと合流した。
「終わったよ」
コウが言い、シキミが頷く。
「結局社長だけ殺った。側近は自発的に関わってはいない様子だったからな。
釘は刺しといたけどね」
「いいんじゃないか。
余計な殺しは気持ちいいもんじゃねぇ」
シキミが言うと、リクがシキミを見た。
「ん? 俺が言うと変か?」
シキミがリクに聞く。
「いえ、そうじゃなくて、何と言うか、みんなの方向が一致してるんだな、と改めて思って」
リクが言うと、シキミが少し照れくさそうに笑う。
「じゃ、俺は韓国最後の夜をソフィと楽しんでくるから」
そう言うと、シキミは部屋を出て行こうとする。
コウが、
「ああ、礼を言っといてくれ」
そう言うと、シキミは片手を上げて出て行った。
コウはリクと顔を見合わせて笑い、
「仕事のできる女性は、シキミのタイプだもんな」と言った。
「夜と言っても、もう明け方だな。
リク、眠いだろ」
「いえ、大丈夫です。
コウさんこそ、みんなより余計に仕事して、疲れてるんじゃ…」
「まだアドレナリンが出てるからな。少し動いた方がいい」
コウがそう言うと、
「せっかくなんで、俺も韓国最後の夜をコウさんと過ごしたいです」
リクが言い、
「じゃ、そうだな、散歩でもするか」
コウはそう言って立ち上がると、ゆっくりとリクの髪を撫でた。
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キムはコウが立ち去ったあと、他の者に警察への通報を任せ、1人で夜の街を歩いていた。
(あの男は、最後に俺を見た。
あの目には何か、メッセージがあった気がしてならない…しかし…俺にメッセージなんて)
キムはコウの最後の目を忘れることができなかった。
自分はこれからどう生きていくのか…UG電子に残るのか…それとも…。
コウが側近たちを殺らなかったのは、きっとパク社長のワンマン会社だとわかったから。
しかし、普通の殺し屋なら、顔を見られたら皆殺しにするのでは…。
他の殺し屋は知らないが、今まで仕えてきたパク社長のやり方を見ていた。
とても暴力的で、気に入らない者や不要な者はどんどん切り捨て、ゴミのように扱っていた。
しかし彼は、殺し屋だというのに、なぜか暴力的な感じがしなかった。
むしろ紳士的…いや
キムは頭を振った。
殺し屋は殺し屋だ。
それよりも
俺はこれからどうするかな…。
キムは明けていく空を見上げてふーっと息を吐いた。
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