韓国にて③
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リクにはわかっていた。
ナツが「怖い」という気持ち。
幼い頃に売り飛ばされ、アジアの各所を転々と移動させられた。
きれいな顔をしていたナツは、そのたびに残酷な目に遭わされてきた。
リクと再会してからのナツは、やっと自我が出せるようになってきていたが、日本以外の国へ、特にアジアの国へ行くのは相当な勇気が必要だろう。
その勇気が出るには、まだ日が浅い。
もっともっと長い年月が必要に決まっている。
リクを宥めてから、自分の部屋へ戻った時、スマホの着信があった。
「まだ起きてた? リク」
今、いや、いつでも一番に聞きたい声だった。
「コウさん…コウさん…」
リクが泣きそうな声を出すので、コウが言う。
「なんだよ、まだ韓国に来て1日目だぞ。
そんなに俺に会いたいのかよ」
明るく、しかし優しい声だ。
「会いたいです…コウさんに、今すぐ」
こんなリクの素直さが、コウは好きだった。
「何かあった?」
コウが優しく聞いてくれる。
リクはナツの気持ちを話した。
「そうか、すまん、気が回らなかった」
コウは自分の無神経さに腹が立った。
ナツは口が悪くて、いつも子供っぽいので、すっかり忘れてしまっていた。
ナツにさせてはいけないことを。
「俺のミスだ。悪かったな、リク。
ナツは大丈夫か?」
コウが尋ねる。
「大丈夫です、俺がいるので。
それに、コウさんのせいじゃないです」
リクがはっきりと答える。
「ありがとう、リク…」
コウが言い、リクに尋ねる。
「リク1人で来るか? それともナツと一緒にいた方がいいか?」
「俺は行きたいです。
ナツは会社にいれば1人でも大丈夫です」
リクが答える。
「ああ、頼もしいな。
リクは心配なことはないか?」
コウが聞くと、リクは、
「えっと、韓国語がわかりません。
それと、自分でホテルとか集合場所とか行ける気もしません」
リクは、待ってましたとばかりに、早口で一気に言った。
コウは笑い、
「俺も韓国語はわからん。
移動はタクシーを使え。ホテルの名前と集合場所の住所をタニに書いてもらっとけ。
それでも迷ったら、俺に電話しろ」
というと、リクは少し安心したように「はい」と答えた。
*****
コウとシキミが韓国へ来て4日目、リク、イサ、セリの3人が韓国へ来た。
タニの計らいで、リクはコウとシキミと同じホテルをとってもらっていた。
イサとセリ2人が、一緒に別のホテルだ。
リクがホテルに着くと、ロビーでコウが待っていた。
リクはわかりやすく、ほっとした顔をすると、コウの元へ飛んできた。
フロントでチェックインを済ませ、部屋に荷物を置くと、リクはコウの部屋へ来た。
そこへシキミも合流し、別のホテルへ行ったイサとセリに会議用の通信を繋げた。
「お疲れさん、問題ないか?」
コウが2人に尋ねる。
「はい、大丈夫です。
イサが現地の人間に間違われて、日本人に2回道を聞かれるほど馴染んでます」
セリが笑いながら答え、イサが得意げにピースをする。
「そりゃ、いいな。その調子で溶け込んでくれ」
コウたちも笑う。
「明日、アガタたちがそれぞれホテルに入ったら、その後各自集合場所まで来てもらう。
場所、わかりそう?」
コウが聞く。
「大丈夫だと思います。現地人がいるので」
セリが答え、またイサがピースをする。
「よし、よし。
武器はそこで渡す。詳しい段取りもそこでやる。複雑じゃないから大丈夫だろう」
コウが「質問あるか?」と聞くと、
「じゃ、明日までは自由行動ってことでいいですか?」
イサが言う。
「ああ、『観光客』だからな、せいぜい楽しみな」
コウが言い、お互いに手を振って通信を切った。
シキミがこれからソフィと武器屋に行く予定があるといい、スキップの勢いで出て行ったので、コウとリクはソウル市街を散策してみることにした。
コウは何度か韓国へは来ているが、いつも1人だったので外出はほとんどしたことがなかった。
リクは初めてなので、ガイドブックを見て行きたい場所をいくつかピックアップしていた。
「観光する気満々だったろ」
コウが揶揄うと、リクは満面の笑みで「はい!」と答える。
「コウさんとこんな風に出かけられる機会なんて、次はいつあるかわかりませんから」
コウはリクが行きたい場所に一緒に行き、美味しいものを食べ、ソウルを満喫した。
「最後はここです」
リクが言い、やって来たのはNソウルタワーだった。
ソウルの中心に聳え立つランドマークで、展望台から夜景が楽しめる。
2人は展望台からの夜景を見ながら黙り込んだ。
ただ、美しかった。
しかしこの光の中には、ナツを傷つけ、詐欺の手伝いをさせ、権力を笠に着る悪党たちも確かにいる。
ここだけではない。
世界中のあらゆる美しい光の中に、不純物の混ざった宝石のような光も存在しているのだ。
俺も汚れているがな…しかし…
しかし…目の前にある美しいものたちを汚す奴らは必ず排除する。
きれいだな…ナツのようだ…
ナツの光を消さないように…コウさんと俺で守るよ。
2人の想いが重なり、顔を見合わせる。
お互い、ふっと微笑み合う。
「さ、降りてメシ食おう」
コウが言い、リクが「辛い物がいいです」と言って、先に行く。
つかの間の休息がもうすぐ終わる。
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