韓国にて①
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ソフィが山に向かって車を走らせる。
辺りはだんだん民家が少なくなり、廃屋のような建物が増えてきた。
砂埃を立てながら、車を走らせること1時間。
ソフィが道から外れる方へハンドルをきり、10メートル程して停車した。
「降りましょうか」
ソフィが言い、コウとシキミが車から降りる。
ソフィが、車を停めた場所から、少し傾斜のある場所を登り、身を屈めた。
「こっちです」
2人を呼び、指を指す。
コウとシキミも身を屈め、ソフィが指を指す方を見る。
大きな建物が1つあった。
元は学校か何かのような感じで、建物の前にはグランドのような広場がある。
そこに車が数台停まっている。
シキミが車から双眼鏡をとってきた。
まず自分が覗き込み、
「外に男が1人、あれが見張りかな。
中の様子はあんま見えねぇな」
と言って、双眼鏡をコウに渡した。
コウも双眼鏡を覗き込み、建物の中の様子を見ようとするが、
窓が汚れていて見えない。
「夜になって中に電気がついたら少しは見えるかもな」
コウはそう言って、シキミに双眼鏡を返す。
「どうするか」
2人で顔を見合わせる。
「中の情報はないんだよな、人数とか」
シキミがソフィに尋ねる。
「ありません。
ただ、私では無理ですが、情報を探れる人を紹介することはできます」
「紹介してもらおうか。
計画はそれからだな」
コウが言い、シキミが頷く。
コウが見つからないよう、建物の写真を撮り、3人は車へ戻った。
「少し下ってから、先方に連絡しますね」
ソフィが言い、2人が頷いた。
*****
夜、ソウル市街の鍾路3街、地元の人間しか来ないような飲食店が立ち並ぶ。
その中に1つに、麺の製造店がある。
コウとシキミは、その店の中へ入り、従業員の視線を浴びながら奥の方へ進む。
突き当りにドアが1つあり、コウがノックすると、
「どうぞ」と日本語で返事があった。
コウがドアを開けると、その部屋は普通の事務所のように机が並んでおり、
一番奥のこちらを向いた机に、男が1人座っていた。
男は2人を見ると立ち上がり、
「ソフィから聞いてますよ。どうぞこちらへ」
と言って、更に奥の部屋に続くドアを開けた。
そこは応接室になっており、ゆったりとしたソファとローテーブルのセットが置かれている。
男が2人に座るよう促し、自分はお茶を入れ始めた。
「日本語が堪能ですね」
コウが話しかけると、それまで無表情だった男が少しだけ口元を緩め、
「幼い頃は日本に住んでましてね、父の事業を継ぐために韓国へ来ました」
「お父上の事業とは、麺の製造会社というわけではないのでしょう」
コウが尋ねると、男は少し黙り込み、2人にお茶を出した。
2人の前に腰を下ろすと、男は話し始めた。
「祖父の代から、日本と韓国を行き来して情報を扱う仕事していました。
日本も韓国も、時代とともに社会情勢はだいぶ変わりましたが、まだ私のような者が必要とされる案件もありましてね」
2人は黙って聞いている。
「政治的な情報から、最近では犯罪に関わる情報が増えてきています。
韓国は財閥の力が大きく、権力の有無が生活に直結しています。
真面目に働いても報われない人々が、犯罪に走り、少し頭の回る人間は他国の人々を巻き込んで悪さをしています」
男は一息ついて、自分のお茶を飲むと続けた。
「日本では特殊詐欺っていうんですかね。
韓国のUG電子がやらせてるっていう話でしたね。」
コウが頷き、言葉を挟む。
「ええ、そのUG電子が裏の事業として、若者を割のいいアルバイトと騙して連れてき、監禁し、詐欺の電話をかけさせているんです」
「なるほど。そういうことですね。
私としては、『あそこで何かの事業をしている、こちらで大きな金が動いている』という、そういう漠然とした情報から始まるんです。
あの山間の廃校に若者たちが連れて行かれているのがそれでしたか。
若者たちは、空港で楽しそうに車に乗るんですよ。
ですから、無理矢理連れて行かれているとは、誰も気づかない。
そこで何が行われているかはわかりません。
ただ…それに関わっている連中、つまりその若者たちを車で迎えに来ている連中は、カタギではありません」
「やはりそうですか。
私たちが欲しいのは、そこにいる連中、そして連れて行かれた若者たちの人数、その廃校の図面、
UG電子のトップがこれらに関わっているのかどうか、という情報です」
コウが言う。
「どうですか」
シキミも尋ねる。
男はまた口元を緩め、答えた。
「もちろんです。2日いただけますか」
コウとシキミがニヤリと笑い、手を差し出す。
「報酬は言い値で」
コウが言い、3人は握手を交わした。
コウとシキミはホテルへ戻ると、タニに連絡し進捗を話した。
「人数次第だから、2日後には誰に来てもらうかはっきりするが、現場は結構広い。
総動員とはいかずとも、人手は必要かもな」
コウが言うと、タニは、
「承知した。ある程度の者たちには声をかけておく。
アガタ、イサ、セリ、カン、ミヤ、それとリクとナツ…いいな」
と確認するように言う。
続けて、
「タマキとイオリは他の案件にかかっている。
狙撃が必要ならクロも行かせるが」
と言う。
「いや、近接戦が主になるだろう。今言った奴らだけで十分だろう。
人数がはっきりしたらまた連絡する」
コウが言い、電話を切った。
「じゃ、俺寝るわ」
と言って、シキミが出て行った。
コウはスマホを手に取り、電話をかける。
コール1回目で相手が出た。
「まだ起きてたのか、リク」
*****
2日後、コウとシキミは再び麵製造の店を訪ねた。
男は2人が望んだ情報を手に入れていた。
「廃校にいる奴らは、30人前後、あまり違う顔の入れ替わりはありませんが、出入りはありますので。
若者たちは200人超は連れて行かれています。ただし、おそらく亡くなっている人もいるでしょうから、正確な人数はわかりません」
男は残念そうに言った。
「仕方ありません。おおよその人数でもわかれば対応できます」
コウが言う。
「そして、UG電子のトップは関係しています。
というより、そいつが全て指揮をとっています。
UG電子の表の事業は今や赤字続きで、一時は上場の噂もありましたが、すでに株価も底辺です。
おそらく裏の事業で稼ぐだけ稼いで、どこかに逃げるつもりでしょう。
すでに偽造パスポートも数名分準備しています」
「そうか、では急いだほうがいいな」
シキミが言う。
「これが図面です」
男が大きな模造紙をテーブルに広げた。
「まあ、元学校だからな、見た目通りか。
みんなが来る前に、夜、見に行っとくか」
シキミが言い、2人は男に礼を言って店を出た。
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