韓国へ
*****
ナツが泣いている。
リクはそばにいない。
「ナツ、何で泣いてる? リクはどこだ」
「リクは…リクは…」ナツが指さす。
リクが遠くからこちらを見ている。その後ろに誰かの影が見える。
何か変だ。なぜリクはここにいない…。
何だ…何だ…何だ……
頭がボーっとしている。
コウは気づくと天井を見ていた。
(ここは…)
ゆっくりと頭が動き出す。
ああ、そうかホテルの一室だ。
バーで知り合った女と一緒に…。
寝てたのか、俺…今、何時だ。
コウは枕もとのサイドボードに置いてある自分の腕時計で時間を確かめる。
そんなに時間は経っていない。
眠っていたのは5分かせいぜい10分程だ。
嫌な夢を見た。
隣には女も眠っている。
コウはそっとベッドを出るとシャワーを浴びに浴室へ行く。
よほど疲れていたのか、こんなところで眠り込むなんて…。
コウは熱いシャワーを浴びると、すぐに身支度をして部屋を出た。
女はまだ眠っていた。
*****
一旦自宅マンションへ帰り、自分のベッドで眠った。
3時間程眠ると少しすっきりした。
ゆっくりと身支度をし会社へ行くと、すぐにリクとナツの部屋を覗く。
2人とも部屋にいて、コウが覗くと、リクがすぐに近づいてきた。
「コウさん、おはようございます」
リクが言うと、
「もう昼だっての」
とナツが突っ込む。
「そうか、もう昼か…」コウが苦笑すると、リクが心配そうな顔をする。
コウはその顔を見ると、
「大丈夫だよ」と言い、自室へ行った。
すぐにタニから連絡が入った。
「なあ、前に半グレ上がりの集団をやったことがあったろ、あん時のスポンサーって覚えてるか」
「ああ、なんとか電気…だったか…そんな名前」
コウが答える。
「『UG電子』だ。韓国の企業」
タニが言う。
「あー、それそれ」
コウが適当に相槌を打ち、
「そこがまた何かやったのか」と聞く。
「ああ、あの時も闇バイトとかに関わってることはわかってたが、そっちは特に依頼もなかったんで放っておいたんだが。
最近、よく待遇のいいバイトを装って、アジアの田舎の方に監禁して詐欺電話かけまくらせてるってのがあるだろ。
あれに関わってるらしい」
タニが説明する。
「なんでITの会社がそんなのに関わるんだ」
コウが聞く。
「もともとそんなのは隠れ蓑なんだろ、表では知らずに働いてる人間もいるんだろうが、裏の方が本業だと思うぞ」
タニが苦々しい口調で言う。
「それで?」
「ああ、それで、そいつらに連れて行かれた日本人の中に、顧客と親しい人の息子がいるんだと」
「救出か?」
コウが眉間に皺を寄せて問う。
「あーなんというか、救出ついでにやっつけてほしいんだと。
いや、殺るついでに救出か…」
「どっちでもいいわ。韓国でか?
言葉わかんないぞ」
「いや、そこじゃないだろ。
他にも問題がある。武器の調達、場所の確定、相手の人数」
「そのくらい、手配できんだろうが」
その気になれば、タニは何でも手配できる男なのだ。
「何人必要かまだ分からんが、どうせ一斉に行くと目立つからな。
まずはお前とリク、ナツの3人で言ってもらおうと思ってる」
コウは考えた。
妥当な線だろうが、先ほどの夢が気になっていた。
たかが夢だが、嫌な気分に変わりはない。
「ああ、そうだな」
コウはとりあえず答え、「いつから行く?」と聞く。
「来週までにはある程度手配ができるだろう」
「わかった」
気がかりを隠し、コウは返事をして通話を終えた。
*****
「お前、リクとナツにまだ話してなかったのか」
数日後、タニがコウに詰め寄った。
「ああ」
コウが答える。
「なんで、何かあるのか」
タニがコウらしくないと察し、声を落とした。
「この仕事、アガタとかシキミとかが向いてないか」
コウが言う。
タニは少し考え、
「そう言われてみれば、そうかもしれないが…。
それより2人に行かせたくない理由があるんだろ」
「なら、まず俺とシキミが行く。
状況次第でアガタを投入すればいい」
コウがタニの質問を無視して言う。
コウが言うのだから、その方がいいのだろう。
とは思うが、コウの煮え切らない態度が気になって仕方がない。
すっきりしない気持ちを抱えつつも、タニは了承し、コウとシキミの韓国行きの計画を進めていった。
*****
コウとシキミがビジネスマンを装って、韓国の金浦国際空港に降り立った。
タクシーに乗り、ソウル市内のホテルへ向かう。
部屋に荷物を置き、ロビーに降りる。
ソファに座りコーヒーを飲んでいると、女が1人近づいてきて、向かいのソファに腰を下ろした。
「こんにちは。コウさん、シキミさん。ソフィといいます。
日本人です」
ソフィはニコリと笑い、自己紹介をした。
「こちらはいつでも案内できますよ」
ソフィが言う。
「じゃ、まず下見といくか」
コウが言い、シキミが頷く。
3人で席を立ち、ソフィが乗って来た車に乗り込む。
シキミがソフィに尋ねる。
「タニと知り合い?」
「はい、私が日本にいた頃、一緒に仕事をしていました。
私は韓国が好きで移住してきたんですよ。
久しぶりに連絡があったと思ったら、こんな物騒な話でびっくりですよ」
笑いながら、ソフィが言う。
「もう足を洗ったのに?」
コウが聞くと、
「うーん、でもまだ半々ですかね。
やっぱりこんな風に声かけられることもあるんで」
ソフィはいかにも気軽な仕事を引き受けてるような素振りで話す。
危険だろうに、頼まれれば断れないタチなのだろう。
「まず武器屋に行きますね」
ソフィは言うと、右側に車を停めた。
3人は車を降り、食堂のような店に入っていった。
そのまま店の奥の方へ行き、店主とソフィが話している。
店主は頷き、更に奥に3人を通す。
4人も入ると一杯になるほどの狭い部屋の中で、店主が壁を動かした。
壁が動き、反転した。
反転した壁には、一面に武器が並んでいた。
「どれでも好きなのを」
ソフィが言い、コウとシキミは自分たちのなじみの銃をまず手にとる。
それからライフルと中距離用のマシンガンをそれぞれ選び、弾丸を多めにもらった。
店主に礼を言い、ビジネスバッグに銃を収めると、車に戻る。
「すごいな、アンタ御用達か」
シキミがソフィに尋ねる。
「ふふっ、あの店主、私が好きみたいでね、何でも調達してくれるの」
ソフィがいたずらっぽく笑う。
「やるじゃねぇか」
シキミが感心し、コウが苦笑した。
「じゃ、次はいよいよ現地ね。
見つからないように少し遠めに見るから」
ソフィが言い、車を走らせた。
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