双子の潜入
*****
カンとミヤが1つの仕事を成し遂げたことを、シキミが我がことのように喜んでいる。
「シキミって、こんな奴だっけ」
コウがタニに言う。
「誰かさんの影響だろ」
タニが言い、コウが首を捻る。
「ま、いいや、新しい仕事?」
コウがタニに尋ねる。
「ああ、また車がらみだな。
潰してほしい暴走族があるんだとさ」
タニがだるそうに言う。
コウが、
「確かに、たるいな…ガキ相手じゃねぇか」
「ああ、しかし中には大人もいる。
暴走族っていってもバイクじゃない。車だ」
「あー山道なんかでドリフト走行してる奴らか」
「そうだ。それで1つのグループがルール無視のやりたい放題、誰かれ構わずひき逃げ、当て逃げ、
警察も手を焼いてるらしい。
ある程度捕まえてもぶっ潰すことはできないんだと」
「なんでだ、人数の問題か」
コウが聞く。
「それもあるが、リーダーが誰かわかんなくて、どうしても捕まらないんだってさ」
「へー」コウが考え込む。
「誰か潜り込ませればいいんじゃないか」
「それは俺も考えた。
しかし、誰を行かせる? 年齢的にはリクやナツだろ、お前嫌だろ」
コウはそれをスルーし、
「イオリとタマキはどうだ」と提案する。
「うーん、まあギリかな。
一応打診してみるか」
タニが言い、タマキに連絡する。
双子は当然行くと言い、張り切って部屋へ入ってきた。
「面白そー! 思いっきりドリフトできるんだよね」
イオリが言うと、タマキが
「ほどほどにな」と窘める。
もともとサバゲーにはまっていた2人だ。
このくらいの潜入はお手のものだろう。
「リーダーを割り出せばいいの?
そのまま殺っちゃってもいい感じ?」
イオリがタニに確認する。
「殺ってもいいが、リーダー以外の者たちは線引きした方がいいだろうからな。
とりあえずリーダーの確定と未成年がどれくらいいるか調べてくれるか」
タニが言い、
「オッケー」と双子が言い出て行った。
*****
深夜、ある埠頭に車高の低い車が約50代集結している。
その中にはイオリとタマキも混じっていた。
その日の日中、イオリが以前警察に捕まったことのある暴走族の1人に接触し、
ドリフト走行に興味があるという話を仕掛けた。
すると、今日の深夜にやるから来てみれば、ということで、来てみた、というわけだ。
初めましての挨拶とか必要かと思っていたが、他の車に続いて入り込んでいたら、すんなり潜り込めた。
走りたい奴が来ればいいだけのものらしい。
確かに、これではリーダーが誰かわかりにくい。
そもそもリーダーという存在がいるのかどうかも怪しい。
誰かが今日やろうと言い、それが口コミで広がり、集まる。
それだけなのかもしれない。
イオリとタマキは車から降り、1台1台、運転席に座っている者たちを何気なく見て回った。
そうすると、向こうの方から、イオリに今日のことを教えた男が声をかけてきた。
「おーい、来たんだな、どうだ、すごいだろ。
ちょっと声をかけただけで、これだけ集まるんだぜ」
男は得意げに言う。
「アンタが声をかけたのか、すごいな」
イオリが言うと、
「俺じゃねぇよ、加賀美さんだよ。
いつも加賀美さんが声をかける。
じゃないと、こんなに集まらんだろ」
「へー、加賀美さんてすごい人なんだな」
無邪気にイオリが言う。
「まあな、この界隈じゃ知らない人はいない。
ただし、名前しか出てこないんだ。不思議だよな。みんな顔を知らないんだ」
「謎だな、見て見たくないのか」
イオリが煽る。
「いや、知らねぇ方がいいってこともある」
男は割と慎重な奴のようだ。
「ふーん」
イオリが言い、話を終わらせる。
あまりしつこいと怪しまれるかもしれない。
それにしても、名前が有名なのに誰も顔を知らないなんてことあるのか…。
イオリとタマキは顔を見合わせる。
「どうやって割り出すか…」
2人で考えていると、タマキが思いついたように言い出した。
「ユゲさん、今日暇かな」
イオリもすぐに察した。
タマキがすぐにタニに連絡する。
あと30分ほどで最初の車が走り出すらしい。
ルートは、埠頭から出て、海沿いを走り、環状線を横切って戻ってくるらしいが、
海沿いのカーブや環状線を横切る時に、他の車との接触を避けることができる奴がどのくらいいるのか。
そして今日も加賀美は捕まらないのか…。
「加賀美って、本名かな」
イオリがボソッと呟く。
「違うだろうな」タマキが答える。
「だな」
そうこうしているうちに、先頭の車が走り出した。
次々に後に続いていく。
イオリとタマキも「やるしかねぇな」と、お互いグータッチして
それぞれの車に乗り込んだ。
イオリの前にいる車が走り出した。
イオリもそれに続く。
前の車はタイヤを軋らせ、音を立ててブレーキをかけ、エンジンをふかし、大回りしながらカーブを曲がっていく。
イオリとタマキの運転技術は高いので、ドリフト走行をしても大回りせずにカーブを曲がることができる。
しばらく行くと、空にチカッと光るものが見えた。
「きたー!」
イオリが満面の笑みを浮かべる。
ユゲの操作するドローンだ。
ドローンに搭載されたカメラで、運転手の顔を拾っていく。
あとで調査部に照合してもらえば、身元が判明するだろう。
イオリはドローンに向かって、親指を立ててニカッと笑う。
おそらくカメラの向こうでユゲが苦笑していることだろう。
1周して埠頭に戻ると、車の台数が極端に減っていた。
途中、パトカーのサイレンが追ってくる音が聞こえたいたし、事故った奴もいるのだろう。
イオリに声をかけてきた男は残っていた。
「よお、お前たち無事だったか」
男は煙草に火をつけながら、イオリたちに近づいてきて声をかける。
「いつもこんなに減るのか?」
タマキが尋ねた。
「ああ、今日はまだマシなほうだな。
腕が未熟な奴はすぐに捕まる。って言っても、俺もあるけどな」
と言って、ハッハッと笑う。
「加賀美さんていう人は捕まらないんだろうな」
タマキが言うと、
「だろうな、そんな話は聞かねぇし…
それにしても、あのドローンなんだろうな、運転中も見たぞ」
男は思ったより目ざとかった。
2人は、
「ドローン? どこ?」と惚けていた。
*****




