殺し屋の人手不足
*****
翌日。
「というわけで、今回は勝敗は決まらず」
タニが言う。
「コウ、悪かったね、面倒なことに巻き込んで」
社長がコウに謝る。
「俺は普通に依頼をこなしただけなんでね、別にいいですよ」
「さすがに向こうさんも、しばらくは言ってこないでしょう」
タニが言う。
「次はアガタに行かせてくださいよ。大喜びで行きますよ」
コウが言うと、
「そうしようか」
社長も頷く。
*****
コウは外の空気を吸おうと、図書館のロビーから公園の方へ歩いて行く。
図書館や公園には、相変わらず老人たちが屯して、将棋をしたり、囲碁をしたり、おしゃべりして余生を楽しんでいる。
コウはそれを横目で見ながら、
(ホントにただのジジィたちにしか見えねぇな)
と思いながら通り過ぎていく。
公園のベンチに座り、煙草に火をつける。
ベンチに影が落ち、人の気配がした。
「残念だったな」
コウが言った。
「さすがですね、コウさん。
改めまして、鈴木と申します」
鈴木がコウの前に立ち、頭を下げる。
「座れば」
コウが言う。
鈴木は黙ってコウの隣に腰を下ろし、自分も煙草に火をつけた。
しばらく黙って2人で煙草を吸っていると、鈴木がコウに話しかけた。
「コウさんは、ご自分が強いこと、自覚されていますか?」
コウは、ゆっくりと煙を吐き出し、
「…俺は、まだ強くないよ」と答えた。
「まだ…?」
鈴木が繰り返す。
「あんたさ、昨日冷静だったんだろ、自分の痕跡残さないようにさ、
そんなの経験積まないと、とっさにできることじゃないだろうよ」
コウが言い、煙草の火をベンチで消し、捨てた。
ロビーの方にリクの姿が見えた。
コウは立ち上がり、そちらに向かって歩き出した。
鈴木も煙草の火を消し、コウの後ろ姿に軽く礼をすると、踵を返して去って行った。
*****
リクは、コウを探して外へ出た。
公園の方で誰かと話しているコウが見えた。
コウはリクを見つけると、すぐにこちらへ歩いて来る。
途中で老人たちに声をかけられ、軽く受け答えをしながら、ゆっくりとリクのところへやって来た。
「探してた?」
コウが聞く。
「そうじゃないんですけど…あ、やっぱり探してました」
リクがへへ、と照れながら答える。
コウが笑い、2人で会社の中へ入って行った。
*****
勝負騒ぎも一旦収束し、会社に日常が戻ってきた。
殺し屋たちの日常、というわけだが…。
ただ、最近皆がなんとなく感じていることがあった。
「なんか、忙しくね? 俺だけ?」
アガタが不満を漏らす。
「いや、俺も感じてた。休みが少ない」
珍しくシキミがアガタに同調する。
確かに、コウたちも思っていた。
これは…もしかして…。
「そ、商売繁盛~」
社長がニコニコして言った。
「・・・・・」
誰も笑わない。
皆、仕事が嫌なわけではない。
これで食べているので、暇よりはよい。
しかし、殺しが繁盛って…。
「なんで?」
ナツが社長に聞く。
「ん~なんでだろう」
社長はタニを見た。
タニは目を逸らす。
コウが社長に言う。
「依頼が多いのはいい。
だが、人手不足ってのは考えもんじゃないのか」
社長の顔がぱあ~っと明るくなった。
「そう、そうなの、そうなんだよ~。
だからさ、人を集めたいんだけどさ、そう簡単に集まる職種でもないでしょ。
コウ、何かいい案がないかな?
タニと考えてたんだけど、何も浮かばなくてね」
そういうことか…最初からそう言えばいいのに。
コウたちはちりじりに部屋を出て行こうとした。
「待て! 待って!」
社長が止める。
「忙しいの、嫌なんでしょ、みんなで考えてよ~」
「それ、考えて解決策出るもんじゃないじゃん。
誰か使える奴をどこかで捕まえてくるしかないってことだろ」
コウがピシッと指摘した。
「うっ」社長は二の句が継げない。
「社長、海外でまたスカウトしてきたら」
イオリが言う。
いつの間にかみんな集まっていた。
イサが、
「俺、前関わってた奴を教えましょうか。
会社が見てみて、よかったら声をかければいいし」
セリも、
「私も1人、2人なら心当たりありますよ」
「おう、助かるよ」
社長が嬉しそうに言った。
コウはそれを見て安心し、しれっと自室に戻って行った。
少しして、シキミがコウの部屋を訪ねてきた。
「珍しいな、何かあったか」
コーヒーを淹れながらコウが尋ねると、
「いや、大したことじゃないんだが」
と前置きして、
「前、畠山って男に声かけられたろ」
「ああ、あったな」
コウが苦々しく答える。
「畠山が独立、独立ってやたら言ってたのが気になっててさ、
奴の口車に乗って、独立した者がいるんじゃねぇかって思ってるんだけど」
「ああ、いるかもな」
コウがコーヒーを淹れたカップをシキミに手渡す。
「きっと失敗してるぜ」
シキミが確信したように言う。
「そんな奴らを引っ張ってこれるかもしれねぇって思わないか」
コウは考えた。
確かに、畠山が依頼人をそれほど抱え込んでいるとは思えない。
そうすると、独立した者たちは仕事があまり回ってこないだろう。
「いいかもな」
コウが賛成する。
「タニに調べさせるか」
「だな」
2人は、これで何人増えるんだろうと考えながら、少しゆっくりできるといいが…と期待していた。
*****




