勝負の行方
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コウたちの会社の他にも同業者がいくつかある。
その中の1つ、田中という男が社長を務める会社が、最近頭角を現しているという。
コウらは、競争に興味はないし、顧客からの依頼は途切れることなく入ってくる。
信用が第一なので、それでいいという考えだ。
これは社長が作り上げた理念であり、コウらそこに所属する者たちは、日頃はあまり考えないが、いざという時はきちんと理解して行動している。
しかし、弱い奴ほどよく吠える、というのは昔から決まっていることで、田中社長の下にいる殺し屋たちは、自分たちこそ最強と言いふらしているらしい。
というのも、コウたちの会社の顧客が誰かと言うのは当然機密事項であり、外部に漏れることはない。
ということは偶然であろう、田中社長が営業をかけた先が、たまたまこちらの会社の顧客であり、その客に向かって、自分たちの会社が最強であるという自信を覗かせていた、という話が耳に入ってきたのだ。
それはいい、言うのは勝手だし、顧客がそれで離れていくのであれば仕方がない。
信用が足りなかったのだろうと反省はする。
しかし、残念ながらそれで離れていくような浅い関係ではないのだ。
なので、特に問題はないし、勝手に吠えさせておくつもりだった。
以前ソリマチがリクを誘拐するという、宇宙最大の過ち的なことを起こさなければ、だ。
面白いことに、何故かコウはいつも標的にされる。
本人は目立つことを嫌い、ただ飄々と生きているつもりのようだが、持って生まれた存在感が、
「殺し屋コウ、ここに見参!」と幟を掲げて歩いているように見えるのだろう。
「なんでだよ」
コウが怒っている。
「仕方ないよね、そういう宿命なんじゃない」
タニが言う。
「コウさんは、強いから噂になりやすいんですよ」
リクがフォローする。
「デカいからじゃねぇか」
ナツがどうでもいいように言う。
「デカい奴なら他にもいるだろうがよ」
コウがますます切れる。
社長がすまなそうな顔をして話を続ける。
「ごめんて、コウ…田中社長がきかないんだよ、
向こうの鈴木っていう奴が、コウよりも自分の方が仕事ができるって証明したいんだってさ」
「証明してどうなんのさ、てか、どうやって証明すんの?
そんな暇じゃないよ、俺」
「わかってるって、だから、依頼をこなす過程でやってもらうからさ、
コウはいつものようにターゲットを殺ってくれればいいから」
「わかんねぇな、なんで張り合うかなー」
コウはそう言うが、強者は弱者の気持ちなんてわかんないんだろうな、と皆心の中で思っていた。
とは言っても、この会社の者たちは「張り合う」ことをする者はいない。
なぜなら、皆、自分中心だからだ。
そもそも、誰もコウと、はなから張り合おうと思うものはいない。
アガタだけは、自分が一番だと思っているのだが。
タニは思う。だからここの平和は保たれてるんだろうな、と。
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結局、コウは説得され、普通に仕事をするだけなら、ということで承諾した。
勝敗の決め方はこうだ。
互いにそれぞれの会社が受託した依頼を1つ遂行する。
ターゲットは1人。
その仕事にポイントをつけていく。
・計画性 1ポイント
・正確さ(銃を撃った数) 1ポイント
・依頼完了の速さ 1ポイント
・芸術性 3ポイント
※芸術性とは、ピッキングなどの侵入方法、目撃者の有無など、いかにスマートにやったかということらしい。
「これ、誰がポイントつけるの?」
ナツが聞く。
誰も答えない。
誰も知らないのだ。
「意味あんのかよ」
ナツがあおる。
「ま、向こうは1回やっとけば気が済むんじゃないの、
別にこっちは勝っても負けてもなんのメリットもデメリットもないんだし」
タニが言う。
「まったく、かまちょかよ」
「だな」
ナツとタニの会話がみんなの気持ちを代弁していた。
コウと鈴木はスタンバイしており、それぞれの服にはカメラが取り付けられている。
午前0時、田中社長が合図を出した。
「ゴー」
コウのターゲットは5年前にホームレスをナイフで何度も刺して殺した男だ。
当時は犯人がわからなかったが、目撃していたホームレス仲間が時間をかけ、諦めずに調べていた。
その甲斐あって、犯人と思われる男を見つけた。
警察に訴え、警察も男を拘留して取り調べたが、確固たる証拠が出てこなかった。
しかし、目撃者のホームレスが男と対峙した時、男は言ったのだ。
「今度はお前をやってやろうか、あいつのように、足、顔、首、最後に胸、の順番だったよな、ふふふ…」と。
犯人しか知らないことだ。
決定的だった。
ホームレスは伝手という伝手を頼って、会社に依頼してきたのだった。
一方、鈴木のターゲットは女だった。
酒癖が悪く、酔っては同居している男を殴る蹴るの暴行を繰り返していた。
見かねたアパートの隣の男が止めに入った時、運悪くアパートの階段から転げ落ちて頭を強く打ち、意識不明の状態になった。
すでに半年間その状態だ。
その息子からの依頼だという。
コウは男が住む一戸建ての家のベランダに上がった。
男には家族がおり、男の寝室はそのベランダのある部屋らしい。
部屋には男の他に、その妻もいる確率が高い。
子供は小学生なので、もう寝ている時間だろう。
カーテンの隙間からはまだ灯りが漏れている。
コウはベランダから降りると、リビングと思われる部屋の窓から中の様子を窺う。
リビングにも灯りがついており、テレビの音が聞こえる。
サッカーの試合を見ているようだ。
男がサッカー好きなのは調べがついている。
リビングにいるのが男の方だと当たりをつける。
コウは玄関のドアをピッキングで開ける。
そっと中へ入ると、リビングのドアの外から気配を窺う。
サッカーの実況の声が聞こえる。
ドアを開ける。
ドアを背にしてソファに座り、男がテレビを観ている。
コウはゆっくりと回り込み、男の顔を確認した。
男はいきなり現れたコウに驚き、ソファから立ち上がろうとした。
が、遅かった。
ターゲットと確認すると同時に、コウはグロックの引き金を引いた。
サイレンサーを装着しているので、家の者は誰も気づかないだろう。
男は目を見開いたまま、眉間に穴を開けて、そのままソファに座り込んだ。
後ろから見ると、サッカーの試合を見ているようにしか見えない。
コウはそのまま玄関から出ると、去っていった。
鈴木は女の住むアパートの前にいた。
女は相変わらず、気の弱い男と同居し、懲りずに酔っては暴力を振るっている。
隣の家族は引っ越していて、今は空き部屋になっている。
鈴木は女の部屋の前で、中の様子を窺う。
女が部屋にいることは確認していた。
物音一つ聞こえない。
2人とも寝ているのか。
鈴木もピッキングで鍵を開けると、そっとドアのノブを回した。
3cmほど開けて中を覗く。
誰もいないかのように静まり返っている。
寝ているようだ。
しめしめ…楽勝だ。
鈴木は足音を立てないように、靴のままそっと部屋に入って行く。
しかし、鈴木は嫌な気配を感じた。
匂いだ。
この匂いは…。
そこで、鈴木は息を吞んだ。
部屋の中は暗くてもわかるほど血の海と化していた。
血の海の中に、男女2人がうつ伏せで浮かんでいる。
鈴木は胃の中からこみ上げてくるものを押さえるのに必死だった。
行かなければ…すぐにこの場を離れなければ…。
鈴木は出て行こうとして、自分の靴に気づいた。
血を踏んでいる。
鈴木は靴を脱ぐと、足跡を靴の裏で消した。
手袋はしているので指紋は心配ない。
他にないか、自分の痕跡は…鈴木は頭をフル回転させ考えた。
よし大丈夫だ。
こうして鈴木はその場所を去ったのだった。
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