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殺し屋の誘拐

*****


誘拐当日。


事前に調査済みのアオの自宅マンション、アオが寝ているであろう時間帯。

黒のワンボックスカーの中に3人はいた。


まずザビが侵入し、アオが寝ているか確認する。

寝ていれば2人に合図を送り中へ入れる。

寝ていなければ、大人しく寝るまで待つ。


ザビはいつものように、まずパソコンを使ってマンションの防犯カメラを無効にした。

次にスマホを使ってマンションのオートロックを解除する。


マンションの中に入るとエレベーターの横に階段がある。

階段を6階まで上がり、アオの部屋の前に立つ。


音を立てないよう鍵を破る。こんないいマンションはピッキングしにくい鍵を使っているが…。

「ピンシリンダーでよかった。ロイヤルガーディアンだったら5分はかかったかも」

そう考えながらザビが難なく鍵を開けた。


音を出さないようそーっとドアを開け、中の様子を窺う。

テレビの音や音楽は聞こえない。

シャワーなどの水音も聞こえないことを確認し、靴のまま侵入を始める。


玄関を入ると廊下があり、廊下の左右にドアがいくつかある。

突き当たりはガラスが嵌められたドアで、ここはリビングだろう。

右側はトイレとバスルームらしい。寝室は左のドアか…。


あたりをつけて、そっと左のドアの外から中の音を窺う。

何の気配もないため、そっとドアを開ける。

やはり寝室だった。アオが無防備に寝ている。


「やった、チャンスだ」

ザビは車で待機する2人にスマホで合図を送る。


1分で2人が到着する。音を立てないよう玄関のドアを開いてアガタが中を覗く。

ザビが手招きし、アガタとリクはそっとザビに近づいた。


ザビが薬を染み込ませた布を片手に持ち、ベッドに近づく。

そして、口を押えようとしたその時だった。


突然アオがカッと目を見開き、ザビの首に両手をかけてきた。

その顔にはにやけた笑みが張り付いている。

最初から気づかれていたのだ。


ザビとて油断していたわけではない。

それでもさすがに殺し屋の行動は素早かった。

ザビが一瞬で意識を失う。


アガタがドアから顔を覗かせていたため、アオはアガタの存在にすぐに気づき突進してきた。

アガタは腰を落とし、突進してきたアオの足をはたいてひっくり返した…はずだった。

アオはビクともせずアガタの頭をつかんで後ろに捻る。

アガタは「アウッ」と言ったまま、仰向けに倒れこみ動けなくなった。頸椎をやられたようだ。


目だけを泳がせ、アオがまたくるのではないかという表情を浮かべている。

アオは更にリクの存在に気付いた。


リクは他の2人と比べると、すごく頼りなく弱く見えた。

アオは薄笑いを浮かべながらリクに近づく。


リクは無表情のまま廊下に立っている。

何の構えもせず、アオの攻撃をただ受け入れる覚悟をしているようにも見えた。


「逃げろよ」

アオが薄笑いを顔に貼り付けたままリクに向かって言う。


「逃がさんけどな」

ハッハッハと豪快に笑いながら、更にリクに近づく。


アオの右手がリクの首を狙っている。

あと数センチというところまで手が伸びてきたところで、リクが動いた。


アオの右手を両手で掴み、グンと下へ引き下ろす。

そのままアオの胸に背中を預け、投げ飛ばした。

背負い投げ、一本である。


驚きで一瞬アオが固まった隙に、リクは手刀をアオの首の後ろに落とした。

アオは気を失った。


さて、とリクは仲間の2人を見下ろした。

アオは巨漢とまではいかないが、割といい体格をしている。

自分1人で運ぶのは難しいし、途中で意識が戻れば面倒臭い。


アガタは意識はあるが、首をやられて全く動けないでいる。

応援を呼ばなきゃかな、と考えていたその時、鍵を開けたままの玄関が音もなく開いた。

一瞬警戒したリクだったが、入ってきた男をみて力が抜けた。


「コウさん…」

リクがつぶやくと、コウがニヤニヤしながらあたりを見回している。


「リクがやったの?」

倒れているアオを指さし、リクに尋ねる。


「あ、はい」とリクが答えると、コウはリクの髪をワシャワシャとかき回した。

それから倒れている仲間の2人を見下ろし、「ざまぁねえな」と一言漏らす。


「じゃ、運ぼうか」と言って、アオを壁にもたれかけさせた。


「リク左お願い」

コウはアオの右側の脇に自分の肩を入れる。

リクは左に回り込み、同じようにアオの脇に自分の右肩を入れた。


2人でアオを支えながら、エレベーターを使い1階まで降りる。

ワンボックスカーにアオを押し込み、コウはザビの荷物から薬のビンと布を取り出し、布に薬を染み込ませてから、青の鼻と口に押し付けた。


「これでしばらく大丈夫だろ」

コウはそう言って運転席に座る。


リクは、どうすればいいのかわからず、コウを見ていると、コウが助手席をポンポンと叩いた。

リクは助手席に乗り込み、

「あの…お二人はあのままで…?」と尋ねる。


コウは愉快そうに笑うと、

「タニに連絡してお掃除屋さんにきてもらおう」と言った。


リクは何から聞いていいかわからず、黙ったまま前を見ていた。

コウは運転しながらタニに連絡すると、アオの監禁場所を聞き、そこに向かっている。


車で1時間ほどの、会社が保有するマンションの一室らしい。

「あと一仕事な」

コウが言うと、

「はい」とリクが答える。


目的のマンションまでアオを運び、ベッドの上に寝かせると、手錠で手足を拘束し、ガムテープで口を塞いだ。

「せめてもの優しさだね」

アオをベッドの上に寝かせたことを自慢げにそう言うと、コウは笑った。


ワンボックスカーに戻ると、リクが、

「運転…しましょうか…」と聞いてきた。


コウは、

「じゃ、お願い」と言って、助手席に座る。

リクは運転席に座り、シートやバックミラーを調整すると、するりと車を発進させた。


しばらくして、リクがやっと尋ねる。

「コウさん、どうしてあそこに…?」


コウがリクの横顔を見ながら答える。

「通りがかった」


リクは、そんなはずはないとわかっていたが、何と言っていいのかわからず、

「え…」とだけ発する。


2人ともしばらく黙っていたが、コウが口を開いた。

「社長がさ、リクの経験値を増やすためにアガタにつけたって言うからさ。

念のため、近くで様子見てた。暇だったから。


そしたら部屋から誰も出てこないから、何遊んでんだろうと思って覗いたら、迷子のワンコがいたから、拾った。ついでにワルモノも」


「ワンコ…」リクがつぶやく。

その後、会社に着くまで2人とも黙っていた。


*****


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