殺し屋の誘拐
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誘拐当日。
事前に調査済みのアオの自宅マンション、アオが寝ているであろう時間帯。
黒のワンボックスカーの中に3人はいた。
まずザビが侵入し、アオが寝ているか確認する。
寝ていれば2人に合図を送り中へ入れる。
寝ていなければ、大人しく寝るまで待つ。
ザビはいつものように、まずパソコンを使ってマンションの防犯カメラを無効にした。
次にスマホを使ってマンションのオートロックを解除する。
マンションの中に入るとエレベーターの横に階段がある。
階段を6階まで上がり、アオの部屋の前に立つ。
音を立てないよう鍵を破る。こんないいマンションはピッキングしにくい鍵を使っているが…。
「ピンシリンダーでよかった。ロイヤルガーディアンだったら5分はかかったかも」
そう考えながらザビが難なく鍵を開けた。
音を出さないようそーっとドアを開け、中の様子を窺う。
テレビの音や音楽は聞こえない。
シャワーなどの水音も聞こえないことを確認し、靴のまま侵入を始める。
玄関を入ると廊下があり、廊下の左右にドアがいくつかある。
突き当たりはガラスが嵌められたドアで、ここはリビングだろう。
右側はトイレとバスルームらしい。寝室は左のドアか…。
あたりをつけて、そっと左のドアの外から中の音を窺う。
何の気配もないため、そっとドアを開ける。
やはり寝室だった。アオが無防備に寝ている。
「やった、チャンスだ」
ザビは車で待機する2人にスマホで合図を送る。
1分で2人が到着する。音を立てないよう玄関のドアを開いてアガタが中を覗く。
ザビが手招きし、アガタとリクはそっとザビに近づいた。
ザビが薬を染み込ませた布を片手に持ち、ベッドに近づく。
そして、口を押えようとしたその時だった。
突然アオがカッと目を見開き、ザビの首に両手をかけてきた。
その顔にはにやけた笑みが張り付いている。
最初から気づかれていたのだ。
ザビとて油断していたわけではない。
それでもさすがに殺し屋の行動は素早かった。
ザビが一瞬で意識を失う。
アガタがドアから顔を覗かせていたため、アオはアガタの存在にすぐに気づき突進してきた。
アガタは腰を落とし、突進してきたアオの足をはたいてひっくり返した…はずだった。
アオはビクともせずアガタの頭をつかんで後ろに捻る。
アガタは「アウッ」と言ったまま、仰向けに倒れこみ動けなくなった。頸椎をやられたようだ。
目だけを泳がせ、アオがまたくるのではないかという表情を浮かべている。
アオは更にリクの存在に気付いた。
リクは他の2人と比べると、すごく頼りなく弱く見えた。
アオは薄笑いを浮かべながらリクに近づく。
リクは無表情のまま廊下に立っている。
何の構えもせず、アオの攻撃をただ受け入れる覚悟をしているようにも見えた。
「逃げろよ」
アオが薄笑いを顔に貼り付けたままリクに向かって言う。
「逃がさんけどな」
ハッハッハと豪快に笑いながら、更にリクに近づく。
アオの右手がリクの首を狙っている。
あと数センチというところまで手が伸びてきたところで、リクが動いた。
アオの右手を両手で掴み、グンと下へ引き下ろす。
そのままアオの胸に背中を預け、投げ飛ばした。
背負い投げ、一本である。
驚きで一瞬アオが固まった隙に、リクは手刀をアオの首の後ろに落とした。
アオは気を失った。
さて、とリクは仲間の2人を見下ろした。
アオは巨漢とまではいかないが、割といい体格をしている。
自分1人で運ぶのは難しいし、途中で意識が戻れば面倒臭い。
アガタは意識はあるが、首をやられて全く動けないでいる。
応援を呼ばなきゃかな、と考えていたその時、鍵を開けたままの玄関が音もなく開いた。
一瞬警戒したリクだったが、入ってきた男をみて力が抜けた。
「コウさん…」
リクがつぶやくと、コウがニヤニヤしながらあたりを見回している。
「リクがやったの?」
倒れているアオを指さし、リクに尋ねる。
「あ、はい」とリクが答えると、コウはリクの髪をワシャワシャとかき回した。
それから倒れている仲間の2人を見下ろし、「ざまぁねえな」と一言漏らす。
「じゃ、運ぼうか」と言って、アオを壁にもたれかけさせた。
「リク左お願い」
コウはアオの右側の脇に自分の肩を入れる。
リクは左に回り込み、同じようにアオの脇に自分の右肩を入れた。
2人でアオを支えながら、エレベーターを使い1階まで降りる。
ワンボックスカーにアオを押し込み、コウはザビの荷物から薬のビンと布を取り出し、布に薬を染み込ませてから、青の鼻と口に押し付けた。
「これでしばらく大丈夫だろ」
コウはそう言って運転席に座る。
リクは、どうすればいいのかわからず、コウを見ていると、コウが助手席をポンポンと叩いた。
リクは助手席に乗り込み、
「あの…お二人はあのままで…?」と尋ねる。
コウは愉快そうに笑うと、
「タニに連絡してお掃除屋さんにきてもらおう」と言った。
リクは何から聞いていいかわからず、黙ったまま前を見ていた。
コウは運転しながらタニに連絡すると、アオの監禁場所を聞き、そこに向かっている。
車で1時間ほどの、会社が保有するマンションの一室らしい。
「あと一仕事な」
コウが言うと、
「はい」とリクが答える。
目的のマンションまでアオを運び、ベッドの上に寝かせると、手錠で手足を拘束し、ガムテープで口を塞いだ。
「せめてもの優しさだね」
アオをベッドの上に寝かせたことを自慢げにそう言うと、コウは笑った。
ワンボックスカーに戻ると、リクが、
「運転…しましょうか…」と聞いてきた。
コウは、
「じゃ、お願い」と言って、助手席に座る。
リクは運転席に座り、シートやバックミラーを調整すると、するりと車を発進させた。
しばらくして、リクがやっと尋ねる。
「コウさん、どうしてあそこに…?」
コウがリクの横顔を見ながら答える。
「通りがかった」
リクは、そんなはずはないとわかっていたが、何と言っていいのかわからず、
「え…」とだけ発する。
2人ともしばらく黙っていたが、コウが口を開いた。
「社長がさ、リクの経験値を増やすためにアガタにつけたって言うからさ。
念のため、近くで様子見てた。暇だったから。
そしたら部屋から誰も出てこないから、何遊んでんだろうと思って覗いたら、迷子のワンコがいたから、拾った。ついでにワルモノも」
「ワンコ…」リクがつぶやく。
その後、会社に着くまで2人とも黙っていた。
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