自分たちのやり方
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ユゲから会社に連絡があったのは、最初のメールから数時間後だった。
「すみません、ご心配をおかけして」
ユゲはまず謝罪の言葉を口にした。
タニが(社長では埒が明かないので)
「それは構わない。安全なところにいるのか?」
と尋ねる。
ユゲが、
「それは大丈夫。絶対見つからないところにいる」
と答えた。
「よかった。で、どういう状況?」とタニが尋ねる。
ユゲは今朝出勤してからのことを話した。
「阿部警視のことは知りません。会ったこともないはずです。
今、私が知り得た情報は、警察無線を受信したものだけですけど、
阿部警視が、昨晩深夜にナイフで胸を3か所刺されて殺害されたこと、
場所は警視の家から10kmほど離れた路上、
監査室に、何故か警視と私が仲良く映っている写真が送られてきたこと、
私に逮捕状が出ていて、私は逃亡していること、
このくらいですかね」
「動機については、まだわかってない…というかまだ決めてないってところでしょうか」
ユゲは淡々と情報を伝えた。
タニはそれを聞きながらメモをとっていた。
「ユゲからメールが来た後、おそらくその事件のことかと思って、俺も調べてみた。
阿部警視というのは、既婚者だが女にだらしないところがあったらしい。
写真が合成じゃないのであれば、ユゲに似た女を用意して撮らせたんだろうな。
まず明らかにすべきは、なぜユゲが嵌められたのか、
ただの女関係の殺しなら、わざわざユゲを嵌める必要はない。
きっと警察内部の人間が阿部警視を殺ったか、大物を庇うためにスケープゴートが必要だったか。
そんなとこだろう」
「ですね、まったく何で私がこんな目に」
ユゲは怒りをエネルギーに変えていた。
「とにかく、ユゲは動けないだろ、食料とかは大丈夫なのか?
必要なものは?」
タニが聞くと、
「ああ、タニは気が利くね、お嫁さんにしたいよ」
ユゲが言う。
「大丈夫。備蓄品があるから、しばらくはしのげる。
ヤバくなったら頼むよ」
「わかった。場所は聞かない方がいいのか」
タニが心配そうな声をしている。
「そうだね、お互いのために」
ユゲがあっさりと答える。
「無理すんな、頼れよ、社長もコウも、みんなもいる」
タニがそう言ったとき、コウが割り込んできた。
「ユゲ、タニが最近おかしいんだ。優しくてさ、こいつ死ぬかもしれない。
葬式までには解決してやるよ」
ユゲが大笑いする声が聞こえた。
「じゃ、また連絡する」
そういうとユゲは電話を切った。
タニが恨みのこもった目でコウを睨んでいた。
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ユゲの無実を晴らすためには、真犯人を見つけるしかない。
タニとコウの意見は一致していた。
しかし、捜査に関しては2人とも素人なので、ある程度推測をして怪しい人間を1人ずつ探っていくしかないだろう。
阿部警視がいなくなって得する者、弱みを握られていた者、恨みを持っていた者、
ナイフの傷が深かったのであれば男だろうし、浅かったのであれば女の可能性もある。
やはり警察内部に情報提供者がほしいところだ。
こういう時はミズキを使おう、ということで、ミズキに女性警察官御用達のカフェに潜入させることにした。
ミズキは美麗と品と言葉の魔術により、いろいろな情報を引き出してきた。
まず、ナイフの傷は深い。
殺害された場所は見つかった場所と思われる。
そこは阿部警視が行きそうにないと思われるため、車で連れて行かれたか、一緒にドライブしていたか。
一方で、ユゲを犯人に仕立て上げるべく動いている検事と監察官も探る。
これら3人は出世のために、大物を庇うくらいしそうに見える。
そういう話をユゲとしていると、ユゲが意外なことを言った。
「カモクはそうじゃないかもしれない。
検事とひょろは、すごくイヤな感じがしたけど、カモクはそうでもなかった、というか何も知らされてないように見えた」
「カモクに近づいてみるか」
コウが言い、ユゲも賛成した。
「で、カモクの名前は?」
「・・・・・」
「お前なー」
いま一つ緊張感がない3人だった。
翌日、コウが言った。
「あのさ、あれから考えたんだが、捜査なんてやっぱり俺たちには無理なんじゃないか」
「じゃあ、諦めるのかよ」
タニがむっとして言う。
「いや、俺たちのやり方でやるってことさ。
今、殺しの依頼、少しは来てんだろ」
「ああ、そりゃな」
「よし、1つ俺に回せ」
コウはニヤリと、悪い顔をして言った。
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コウの殺しのターゲットは相原茂という元記者だ。
会社を辞めてもネットに記事を書いて投稿していたが、フェイクニュースを流しては世間を騒がしていた。
騒がしているだけならまだよかったが、ある時、心無い記事のために自殺者が出た。
依頼は遺族からのものだ。
コウは相原に、面白いネタがあるといって呼び出した。
呼び出した先は、ある高級マンションだった。
ユゲの事件の担当検事の名前は阿比留と言う。
阿比留は独身で、なかなかいいマンションに住んでいる。
コウは阿比留の留守中に相原を呼び出し、中に入れ、ソファに座らせると一気にナイフを胸に突き刺した。
事件の最中にも関わらず、阿比留は毎日同じ時間にマンションに帰ってくる。
阿比留はマンションの鍵を開け、中に入ると、知らない男がソファに座っているのを見て驚いた。
しかもナイフが胸に刺さっている…。
「し、死んでいるのか…」
阿比留は恐る恐るソファに近づいていく。
その時、後ろから腕を回され、首を締めあげられた。
阿比留はそのまま意識を失った。
阿比留が目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。
それでも自分の手にナイフがあることはわかった。慌てて投げ捨てる。
暗闇に少しずつ目が慣れてくると、ソファには相変わらず男が死んでいるのが見えた。
何が何だかわからずうろたえていると、男の声がした。
「阿比留さん、その男、殺したんですか」
「いや、俺じゃない、俺はやってない。帰って来た時にはもう死んでいた」
「本当に? でもナイフにはあなたの指紋、服にはその男の血がついてますよ」
「お、俺じゃない、俺じゃない、俺じゃ…」
阿比留はパニックになって叫んでいる。
「まあ、落ち着きましょうよ、阿比留さん。
私は知ってますよ。阿比留さんが殺したんじゃないってこと。
でも…私が黙ってたら、阿比留さんが犯人ってことになりますね」
「あああああ、頼む、何でもするから、証言してくれ、俺がやったんじゃないって…」
「ほう、何でも、してくれるんですね」
コウはニヤリとして続けた。
「じゃあ、阿部警視、殺したのって誰なのか、教えてください」
「え…? 阿部…警視…」
「そう、知ってますよね、真犯人」
「あ、いや、俺は知らない、そんなこと…」
「そうですか、じゃあ、その男のこと教えておきますね。
知らない男を殺したってことないですもんね。
その男は相原…」
「待て! 待ってくれ!
し、真犯人を聞いて、どうするつもりなんだ。
そ、それよりお前は誰だ」
今さらかよ、と思い無視した。
「もちろん逮捕してもらいますよ、ケイサツに」
「犯人は弓削という警察官だ、痴情のもつれで…」
バン!
コウがテーブルを拳で思い切り殴りつけた。
ガラスのテーブルが粉々になる。
「ひぃ…」
阿比留は声も出せず震えている。
「もう一度だけ、聞きますね。
阿部警視を殺した真犯人は、誰ですか?」
コウはゆっくりと噛んで含めるように聞いた。
阿比留は観念したように、小さな声で
「阿部警視の上司の部長、鴨川警視正…」
「動機は?」
「鴨川警視正が未成年者とホテルへ行ったことで脅していたらしい」
「明日、逮捕しますよね。
それまではこの死体とナイフ、このままにしておきますから」
そう言うとコウは、待機していたザビと交代し、部屋を出て行った。
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