光
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社長のところへ呉が情報を持ってきた。
久しぶりに染谷の情報だった。
中国に渡り、人身売買の元を断つ、そういう意思を持って行動をしていた染谷だが、一旦身を隠していた。
その間も同胞と暗躍していたと思われるが、こちらに情報は入ってこなかったし、こちらとしても積極的に収集もしていなかった。
染谷の考えは一貫して立派だが、会社として協力は考えておらず、何かしらの依頼があれば引き受けるというスタンスである。
ただ、染谷はリクとナツが幼い頃に関わりがあり、社長やコウとしても気にはなっていた。
そもそも染谷が人身売買を徹底して叩こうというのも、若い頃にリクやコウのような子供たちが被害に遭っていたのを目の当たりにしており、その時の自分の無力さを後悔しているからに他ならないのだ。
今回、呉が社長にもたらした情報とは、染谷が日本へ帰って来るらしい、ということだった。
染谷は以前よりコーディネーターとして、密輸や密出入国などの手配をしていたので、こっそり日本へ戻ってくるというのは簡単なことだろう。
おそらく、日本へ帰ってきたら、コウに接触するだろうと考えられる。
社長はタニとコウを呼んだ。
「染谷が日本へ戻ってくるらしい」
社長が開口一番にそう言うと、タニが
「帰ってきて何をするんでしょうかね」と言う。
コウは黙って考えている。
「さあ、何をするのか…中国での仕事はどうなったのか…全く不明だ。それに」
社長は続ける。
「染谷が何をしようと、基本的にこちらには関係はないからな」
「そうですね…ただ…」
タニがコウを見る。
「ああ」社長も頷く。
「コウに接触してくるのは間違いないな」
コウは相変わらず黙っている。
「どうした、コウ、歯でも痛いのか」
社長が心配そうに尋ねる。
「アホか、俺が考え事をしてたらそんなに変か」
コウが心外そうに言う。
「あ、いや、だって何も言わないから…」
コウが苦笑し、
「俺より先にリクやナツに会わなければいいな、って考えてたんだよ。
悪い奴ではないとわかってはいるが、なんとなく、な」
社長とタニも同意するように頷く。
「ま、様子みるしかないか」
コウはそう言うと自室に戻って行った。
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しばらくの間、日常の仕事をそれぞれがこなし、特別なことがない日が続いた。
そして、ついにその時が来た。
染谷からコウに連絡がきた。
日本へ帰ってきた、と。
染谷が宿泊しているホテルへコウが尋ねることになった。
コウは全く気が進まなかった。
会ってどうする、何か依頼があるのか、リクやナツの様子なら電話でも聞ける。
気に入らない。
しかし、避けていてもどうにもならない。
仕方なく、コウは染谷の部屋のドアをノックした。
染谷はかなり痩せていた。
だいぶ苦労したのだろう。
「コウさん、本当に申し訳ありません。こんなところにお呼びたてして」
染谷は丁寧に頭を下げた。
以前のような、人を煙に巻くような態度は鳴りを潜めていた。
「もう向こうには行かないのか」
コウが尋ねた。
一時的な帰国かどうかを知りたかった。
染谷は少し考えるような素振りを見せた後、
「ええ、もう日本で生活をしたいと考えています」
「仕事は?」
コウが尋ねる。
「『染谷』という名前はもう使えません。
今は『矢代』と名乗っています。
今後はこの名前でビジネスをやっていこうかと…」
「ビジネス? 以前のような?」
「実はね、できればコウさんの会社のような事業をやりたいんですよ」
染谷、いや矢代はそう言うと、コウの顔を真っすぐに見た。
コウは思った。
(嫌な感じはこれだったのか…)
「全く…食えねぇな」
コウは苦笑し、矢代の顔を見返した。
「中国の仕事は終わったのか?」
矢代は、今日初めて暗い顔を見せた。
「いえ、情けないですが、終わりは見えませんでした。
諦めたとか、投げ出したとか…他人から見たらそう見えるでしょうけど…。
でもね、結果が全ての世界で、結果は出せませんでしたけど、少しだけ、ほんの少しだけ救えた命があったんですよ。
それを誇りにするつもりはありません。あまりにも中途半端すぎる。
でも、でも、その人たちは、私の光です。
リクやナツを、私の力で救うことができなかったけど、でも彼らは今、輝いている。
あなた方のお陰で彼らも…」
矢代の目が潤んでいるのがわかる。
コウは思った。
(こいつはきっと、何かを成し遂げたいんだな。誰かのための何かを)
「そうか、じゃこれからは商売敵だな」
コウが言う。
「しかし、引き抜きはご法度だぞ。
もしうちのもんに手を出したら、俺がお前を殺す」
コウは『うちのもん』に力を込めてそう言い放った。
矢代は真面目な顔をして言った。
「そんな不義理な真似はしません。一から立ち上げます。
時間はかかるでしょうが。
今度社長さんにもご挨拶に伺いますよ」
律義なもんだ。
コウは少しだけ矢代のことが気に障らなくなっていた。
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会社に戻り、社長とタニに染谷改め矢代のことを報告した。
2人とも驚いていた。
当然だろう。商売敵が増えたのだ。
まあ、そうそうこの会社に勝てる人材は見つからないだろうが。
コウは、リクとナツの部屋を訪ねた。
2人ともまだ会社にいた。
「こんな時間まで何してたんだ」
コウが尋ねると、
「リクがコウさんが帰ってくるまで待つって言うからさ、しょうがねぇから付き合ってたんだよ」
ナツが不満そうに言う。
「だってコウさんは忙しいからさ、誰かが待っててあげないと寂しいじゃん」
リクが言い返す。
コウは嬉しかった。
正直、涙が出るほど嬉しかった。
ナツがいるのでおくびにも出さなかったが。
「ちょうどよかった。2人に話があるんだ」
コウが言うと、2人は揃ってコウに顔を向けた。
「染谷、リクとナツにとってはリュウさん、だな。
彼が日本に帰ってきた」
リクとナツは顔を見合わせた。
何と言ったらいいのかわからない、複雑な顔をしている。
「会いたいか?」
コウが聞く。
2人ともしばらく考え、
「いや、会わなくてもいいかな」
ナツが答えた。
「あの時のお礼はリクが言ってくれたし、今は別の道を行ってるし、会って何を話せばいいのかもわかんなしな」
ナツがそう言うと、リクも頷いた。
「そうだね。元気ならそれでいいや」
コウは少しほっとした。
そして、今後は矢代と名乗ること、うちと同じビジネスを始めることなどを話すと、
「じゃ、負けないようにもっと強くならないと」
リクがそう言うと、ナツが少しうんざりした顔をした。
コウは、
「ナツはもっと鍛えないとな。
明日は2人とも空いてるんだろ、久しぶりに走りに行くか」
2人は揃って顔をほころばせた。
2人にとっては遊びのようなものなのだ。
新しいメンバーが増え、新しいライバルができる。
そのたびに自分たちはもっと強くなろうと思う。
もっと、もっと、強く、素早く、華麗に、殺しができるように。
第三章 おわり
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いつもお読みくださり、ありがとうございます。
第三章が終わりました。
続けて第四章も、と思います。
何よりも私はコウ、リク、ナツ、タニ、アガタ・・・・たち殺し屋が大好きなもんで。
この人たちのことを好きに作り上げるこの場が私の癒しの場となっておりますもんで。
ということで、引き続きよろしくお願いいたします。




