それぞれの道
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コウとリクは、弓岡を自身の工場の事務所へ連れて行った。
もうすでに工員たちは帰宅して誰一人おらず、真っ暗である。
事務所のデスクの灯りだけ灯し、弓岡を椅子に座らせた。
「銃は持っているか?」
コウが弓岡に尋ねる。
弓岡は震えながら、首を横に振る。
コウは自分の銃ではないものを1丁出す。
弓岡は最後の抵抗で、
「頼む、許してくれ、お願いだ、助けてくれ…」と呪文のように言い続けている。
コウは、もう抵抗する力もない弓岡の右手に無理矢理銃を掴ませ、こめかみに当て、容赦なく発射させた。
弓岡はそのまま机に倒れ込んだ。
「終わりだ」
コウはそばで見ていたリクに言うと、工場をあとにした。
帰りの車はリクが運転した。
助手席でコウはふーっと息を吐いた。
嫌な仕事だった…そう思っていると、
リクが「お疲れ様でした」とそっと声をかける。
コウは運転の邪魔にならないよう、リクの後頭部を2、3度撫で、
「うん」と答えた。
柔らかな髪を指に纏わせる。
リクはわかっているのだろうか…リクの存在がどんなに俺を癒してくれているのか…。
コウだけではない…2人にとって、殺しのあとの殺伐とした気持ちを癒してくれる、そんな時間だった。
*****
リクが自宅マンションで車を降り、コウが運転して自宅へ帰った。
さすがにもう会社へ戻る気力はなかった。
コウは自室のドアの鍵を開けた途端、異変に気付いた。
いつもの空気ではない。
侵入者がいる。
コウは確信した。
(勘弁してくれよ…こんな日に…)
コウは心の中で毒づき、グロックを手にする。
そのまま5分ほど待ち、相手の出方を待つ。
相手も動かない。
只者でないことがわかる。
コウは声をかけた。
「誰? 俺疲れてるんだけど」
相手がふっと息を吐くのがわかる。
「すまない、お疲れのところ、勝手におじゃまして」
相手もコウに合わせて気軽なしゃべり方をしてきた。
「私は一人で丸腰だ。こちらへ入ってきてくれないか」
コウは信じてはいなかったが、どちらにせよこのままでは埒が明かない。
グロックを構えたまま、ゆっくりとリビングに入って行く。
50代くらいの男が一人、ソファにどっかりと座っていた。
いかにも高級そうなスーツを着ている。
そして、その姿はその場にそぐわないほどリラックスしているように見えた。
「誰?」もう一度コウが尋ねる。
「畠山と申します」
男は名乗った。
続けて、
「誰にも邪魔されずにコウさんと1対1でお話したくて、こんな失礼な真似をしました。
お詫びします」
と丁寧に頭を下げる。
その仕草がコウは気に入らなかった。
芝居じみている。
「で?」
グロックを持つ手を下して、コウが尋ねる。
「単刀直入に申し上げます。
コウさん、独立しませんか」
直球だった。
が、コウは予想通りの内容に驚きもしない。
自分に接触してくるのは、こういう話の他には考えられない。
コウが口を開きかけた時、畠山が続けた。
「もちろん、お断りでしょうね。
見ず知らずの人間にこんな話をいきなり持ち掛けられて、ホイホイ乗ってくる人はいません」
「今日は、ご挨拶だけです」
畠山は立ち上がると、コウの横を通り出口へ向かって歩いていく。
「いずれまた」と言い、出て行った。
コウは畠山が座っていたソファと違うソファに座り込んだ。
「何なんだよ、まったく…
殺し屋は俺だけじゃないっての…他当たれよ」
ブツブツと一人で毒づきながら、コウは考えた。
自分は今のまま、この会社でこの仕事を続けていくつもりなのか…。
以前のように一人でもできることはできる。しかし…
転職? まさか…。
転籍? いや、ない。
独立? ないな。
引退? ウケる…。
やはり今のところはこのままが一番いい、という考えに落ち着く。
明日社長に報告しとくかな…面倒だな…どうするかな…。
コウはのんびりとそんなことを考えていたが、畠山はそう簡単に諦める相手ではなかったことが
わかるのは、少しあとになってからだった。
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シキミがイサとセリを教育し始めてから2週間が経とうとしていた。
もともと殺し屋としての腕はあったので、会社のルールを教え込み、それに従うという考え方を叩き込んだ。
そしてその成果を試すべく、依頼を引き受けることとなる。
ターゲットの1人は連続放火魔。
名前は西岡トシエ、女だ。
西岡は放火の罪で長い間刑務所に入っていたが、出てきてホームレスのような生活をしていたが、
すぐにまたやった。
しかし、アリバイがあり、今回は逮捕にいたらなかった。
アリバイを証明したのはホームレス仲間である。
信憑性は低いものの、具体的な話であり、警察はアリバイを崩すことができなかった。
なのに、なぜ西岡が犯人として殺しのターゲットになったか。
依頼人はもちろん顧客だが、元の依頼主はなんと西岡のアリバイを証明したホームレスだった。
本来ならホームレスが会社の顧客と面識があるはずもなく、当然殺しの依頼をしてくるはずもないのだが、このホームレスの男は以前はかなり羽振りがよかったということで、案外顔が広かった。
しかし、西岡にアリバイづくりを頼まれた時、男は西岡に弱みを握られていた。
男には児童愛癖があった。
その日も公園で小学生の女の子にちょっかいを出そうとしたところを西岡に目撃され脅されていた。
自分は刑務所には行きたくない。児童愛癖のある男が刑務所でどんな目に遭わされるか、噂で知っている。
男は西岡の言うとおりにアリバイを証明したのだった。
タニの説明を聞き、セリが聞いた。
「女だけでいいの? 児童愛癖のある男も野放しにしちゃダメでしょ」
「その通りだ」
タニが言う。
「ということで、そのホームレスも殺ってくれ、という顧客の依頼だ。
まさか依頼した本人が自分も殺られるとは思ってないだろうがな」
容赦なくタニが言う。
当然、とばかりにセリが頷く。
その会話を聞いて、シキミが満足げに頷いた。
「良識のある殺し」をわかってきたじゃないか、と。
実行は簡単だった。
夜中にターゲットの「家」を訪問し、鼻と口を塞ぐだけ。
イサとセリがそれぞれ1人ずつ。
数分で終わった。
シキミが運転する車内で、シキミは2人に聞いた。
「やっていけそうか」
セリが「続けたい」と言い、イサも頷いた。
会社に戻り、報告書を書かせながら、シキミは社長に言った。
「頼もしい仲間が増えたよ」
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