依頼人と実行犯の処遇
*****
女は狙撃の準備をしている時に、背後から近づいたシキミによって拘束された。
かなり暴れたが、シキミにかなうはずがなかった。
「男はもう捕らえているぞ。観念しろ」
シキミが言うと、大人しくなり車に乗った。
その間、弓岡の行動はいつも通りで、工場の事務所で仕事をしていた。
男を拘束している部屋へ女も入れる。
2人は顔を見合わせ、互いに苦い顔をしているが、明らかにホッとしているようだ。
「さて、話してもらおうか」
社長が2人に語り掛ける。
「弓岡さんはどうして一瀬会長を殺させた?」
2人は最初黙っていたが、もう逃げられないことはわかっている。
男があきらめたように話し出した。
「弓岡は一瀬会長に弱みを握られていた。
おそらく横領…他にも、こっちの会社に依頼できない汚い仕事は、俺たちのようなもんに依頼してきていた。
それを一瀬会長に知られた。
一瀬会長だけだと、調べたら自分が疑われるから、この会社の他の顧客も狙うことにしたようだ。
まず自分をターゲットにしたが、守ってもらえることには自信があったようだ。
思ったとおりだった、というわけだ」
社長は少なからずショックを受けていた。
まさか自分が選んだ顧客が他の顧客に危害を加えるなど…全て自分の責任なのだ。
「どうしますか」
タニが聞く。
しばらく考え、社長が判断を下す。
「弓岡を連れて来てくれ」
弓岡の護衛についていたコウとリクが弓岡を連れてきた。
弓岡は何か気づいていたようで、なんとか行くまいと言い訳をしていたが、
最後はコウに言いくるめられ、会社へと連れてこられた。
社長が言う。
「弓岡さん、実行犯を2人捕らえましてね」
弓岡は、
「ああ、それはよかった。さすがですな。これで皆安心します」
と、とぼけた顔で言う。
「弓岡さん、そいつらが誰に依頼されて一瀬会長を殺し、あなたや私の会社の者を狙ったのか、わかったんですよ」
社長が言うと、弓岡はさすがに顔が青くなる。
社長は続けて、
「信用していましたよ。顧客の皆さんのことは。まさか身内に敵がいようとは…残念で仕方ありません。
私も腹を切る覚悟ですよ」
弓岡はさすがにバレていることに気づいていた。
「社長、す…すみません…こんなはずじゃなかった…一瀬会長に知られなければ…」
言い訳にもなっていない。
社長はそれ以上何も言わず、コウに目で合図をした。
コウは弓岡を立たせて、どこかへ連れて行く。
リクが後をついて行った。
弓岡は、助けてくれだの、申し訳なかっただのと言い続けながらコウに引きずられて言った。
社長は他の顧客に連絡をとり、一人一人にことの真相を話し、謝罪していった。
そして実行犯をどうするか、皆に問うた。
皆、社長に任せる、ということで一致した。
社長は、その場に残ったタニとシキミに尋ねた。
「あの2人、どうすべきかな」
タニとシキミはしばらく黙りこむ。
ややあって、シキミが口を開く。
「あいつらが仲間を裏切ったわけじゃねぇ。
あいつらは依頼を実行しただけだ」
タニが言う。
「だから助ける…と?」
シキミが言う。
「そうだな、制約つきなら」
社長は、実行犯を拘束している部屋へ入って行く。
本当は一瀬会長を殺した罪を償わせねばならない。
しかし…依頼されて殺した奴らに罪を償わせるということは、自分の会社の者たちにも同じことをさせるということに繋がる。
社長は2人に聞いた。
「もし今君たちを解放したら、どうするつもりだね」
2人は俯いていたが、男はゆっくりと顔を上げ、
「こいつは解放してやってくれ。もう足を洗わせる。
俺は許してもらわなくていい。今までも善人、悪人問わず殺ってきたんだ」
女は男を見て、
「馬鹿なの? そんなの望んでないわよ」
そう言い、今度は社長に向かって、
「2人とも殺して。生きていてもこんな生き方しかできないし、こんな生き方しかできない人間をそのままにしておけないでしょ」
社長は黙って聞いていたが、少し困った顔をした。
「いや、殺すつもりがないから聞いたんだがね。
しかし足を洗うつもりがないなら、そのままにもしておけないしね。
うちのもんに相談したら、制約付きで生かしたらどうか、と言ってるんだよね」
「制約?」
2人は社長が何を言っているのかわからず、聞き返した。
「ああ、例えばうちで、うちのルールに従ってやっていく、とかさ」
社長が言い、2人がこのことを頭に浸透させるのを待った。
しばらくして、男が確認するようにゆっくりと聞いてきた。
「俺たちを、雇ってくれる、と? そういうことか?」
「ああ、そうだ。あくまでうちのルールを守れるのであれば、な。
どうかな」
2人は顔を見合わせたあと、頭を下げ、
「ありがとうございます、ありがとうございます…」
と、何度も繰り返した。
男の名はイサ、女はセリという。
2人は一旦シキミに預け、会社のルールや何やらを教え込んでもらうことになった。
一件落着したかに思えたが、社長の胸の内は複雑だった。
弓岡が一瀬会長を殺させたのは、結局私情によるものだったが、他の顧客が巻き込まれたことには違いない。
今後同じようなことが起こらないよう、対策を講じなければならない。
「ふーっ」
大きなため息をつき、社長は椅子に深く座った。
*****




