表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

狙撃

*****


それから1週間、リクは毎日バイクで當間学の尾行をした。

バイクとヘルメットは毎日替え、気づかれないよう気を付けた。


深夜はコウが交代し、車で張り込みをした。


そうしてわかったことは、調査部がまとめた行動パターンとほぼ変わるところはないということ。ただ1つを除いては。

當間は一度だけ、郊外の「ひまわりの家」という児童養護施設を訪問していた。


調査部に「ひまわりの家」と當間との関係を調べるようオーダーすると、コウは狙撃の場所の選定を始めた。


会社や自宅周辺は警戒が強いだろう。

週に1度は通っている、クラブ「エルザ」の周辺に狙える場所があれば、と考えていた。


コウは電力会社の制服を着て、周辺のビルの屋上を確認して回った。

防犯カメラが少なく、いろんな種類の人間の出入りがあり、複数の逃げ道がある雑居ビルが理想的である。


条件をクリアするビルをみつけ、双眼鏡でクラブ「エルザ」の入口を見る。

手前のビルが少し邪魔だが、狙えないことはない。決まった。


そろそろ調査部の報告が来る頃だろう。

コウは会社へ戻り、自室のパソコンを立ち上げる。案の定報告書が送られてきていた。


「ひまわりの家」に當間の5歳の息子が預けられていた。


當間は2度結婚し、2度とも離婚している。

跡取りはいない、ということだったので子供はいないはずだった。

どこかの女に産ませたのだろう。児童養護施設に預けているのは、面倒臭いからか、それとも危険から遠ざけるためか。


いずれにしても當間亡きあと、後見人がいればその子が當間の跡を継ぐ可能性が出てきた。

社長に回線をつなぎ、「ひまわりの家」は様子見をすると告げた。社長も了解した。


まずは予定通り當間を片付ける。


當間がクラブ「エルザ」にいつ行くか、はっきりわからないので、翌日からコウは狙撃を実行する場所で待機することにした。


リクが相変わらず尾行を続け、クラブ「エルザ」の方向に當間が向かったら、コウに連絡をする、という段取りである。


*****


待機し始めてから3日目、リクから連絡が入った。


時間を見計らい、コウが双眼鏡を除く。

黒塗りのセンチュリーが近づいてくる。


ここから目標まで約400メートル。

使用するライフルはロシア製VSS。消音性に優れ、このくらいの距離ならば十分な威力がある。


コウがVSSを構え、スコープを覗く。


車がクラブ「エルザ」の前にゆっくり停車する。


すぐにボディガードが降りてきて左の後部座席のドアを開ける。


當間が降りてきた。


當間はもう1人のボディガードを待っているのか、そのまま立ち止まっている。


コウは機を逃さず、當間の頭部に狙いを定め引き金を引いた。


「バン」


乾いた音がする。

當間がゆっくりと倒れる。

慌ててボディガードが當間の体を支える。


そこにいる誰もが、何が起きたのかわからなかった。

ボディガードが當間の様子を見ている間に、當間の頭の周辺に血だまりができる。


やっと状況が把握できたボディガードが、顔を見合わせて口々に叫ぶ。


「狙撃か! どこから? 音がしたか」

周辺が騒然となっていく。


一方、コウは當間の頭に弾が命中したことを確認すると、すぐにVSSを分解しビジネスバックへ押し込む。


そっと屋上から中へ入り、ゆっくりと階段を降りる。

ビルの外に出ると左へ歩き、次の角をまた左へ曲がる。

少し行くと、リクがバイクにまたがったまま、コウにヘルメットを手渡す。

コウはヘルメットをかぶり、ビジネスバックをリュックにして背に回すと、バイクにまたがった。


バイクはゆっくり走り出すと、すぐに左へ曲がり大通りへ出る。

そのままスピードを上げて他の車にまぎれると、誰もそのバイクのことを気にするものはいなかった。


*****


会社へ戻り、報告は明日することにしてコウはソファへ身を投げ出す。

連日の張り込みと待機で、心身ともに疲れていた。


リクはソファの端に膝を抱えて座っている。


「疲れたでしょ」

コウがリクに労いの言葉をかける。


「いいえ」リクが答える。

じゃあ、とコウが少し身を起こしてリクに

「コーヒーを入れてもらっていいかな」と頼む。


「はい」と答え、リクがデスク横のキャビネットの上にあるコーヒーメーカーのところへ行ってコーヒーをセットする。


その間、コウはしばらく目を閉じて、心地よい静けさとコーヒーの香りを感じている。

コーヒーができる間、そばでじっと立っていたリクが、カップにコーヒーを入れてコウのところに戻ってくる。


コウはカップを受け取り、そのままサイドテーブルに置くと、少しかがんでいるリクの髪をすく。

リクは流れでその場に正座する格好になる。

コウは両手でリクの両頬にやさしく触れる。


しばらく無言でいると、リクは少しだけ耳を赤くしじっとしている。


こいつ…コウは思う。

犬みたいだな…尻尾ブンブン振ってんじゃん。

顎も撫でたい…『ワン』て言わせたい…。

いや、それは絶対パワハラだろ…。我慢しよう。


コウはじっとリクの頬に触れたまま、想いを巡らせた。

しばらくして、やっと満足しそっと手を離し、

「お疲れ様、次の仕事までゆっくりしな」


と言うと、リクは立ち上がり頭を下げて部屋を出ていった。


コウは煙草に火をつけると、肺一杯に吸い込み、ふーっと煙を吐き出した。

そしてコーヒーのカップを持ち上げ一口飲むと、うまい、と満足そうにつぶやいた。


*****


リクはコウの部屋を出ると、ふーっと息を吐き出した。

コウに触れられた両頬を手で押さえる。


コウの前ではなんとか耐えていたが、今更ながらに真っ赤になる。

「コウさんは、なぜ俺の髪を撫でてくれるんだろう…なぜ頬に触れるんだろう…じっと見つめてくれる時、何を考えているんだろう…」


身内からも他人からも、あんなに優しく触れられたことはなかった。


戸惑ったし、どういう反応をするのが正解なのかわからずじっとしていた。

ただ…温かかった。

触れられている間、ふわふわした気持ちになった。


ずっと触れていてほしかった。でも…

「社長が言うように、コウさんはきっと男の人みんなに優しいんだろうな」


リクは自分に言い聞かせ、今回も殺しはコウさんがやったんだな、と改めて考えながら帰路についた。


*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ