狙撃
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それから1週間、リクは毎日バイクで當間学の尾行をした。
バイクとヘルメットは毎日替え、気づかれないよう気を付けた。
深夜はコウが交代し、車で張り込みをした。
そうしてわかったことは、調査部がまとめた行動パターンとほぼ変わるところはないということ。ただ1つを除いては。
當間は一度だけ、郊外の「ひまわりの家」という児童養護施設を訪問していた。
調査部に「ひまわりの家」と當間との関係を調べるようオーダーすると、コウは狙撃の場所の選定を始めた。
会社や自宅周辺は警戒が強いだろう。
週に1度は通っている、クラブ「エルザ」の周辺に狙える場所があれば、と考えていた。
コウは電力会社の制服を着て、周辺のビルの屋上を確認して回った。
防犯カメラが少なく、いろんな種類の人間の出入りがあり、複数の逃げ道がある雑居ビルが理想的である。
条件をクリアするビルをみつけ、双眼鏡でクラブ「エルザ」の入口を見る。
手前のビルが少し邪魔だが、狙えないことはない。決まった。
そろそろ調査部の報告が来る頃だろう。
コウは会社へ戻り、自室のパソコンを立ち上げる。案の定報告書が送られてきていた。
「ひまわりの家」に當間の5歳の息子が預けられていた。
當間は2度結婚し、2度とも離婚している。
跡取りはいない、ということだったので子供はいないはずだった。
どこかの女に産ませたのだろう。児童養護施設に預けているのは、面倒臭いからか、それとも危険から遠ざけるためか。
いずれにしても當間亡きあと、後見人がいればその子が當間の跡を継ぐ可能性が出てきた。
社長に回線をつなぎ、「ひまわりの家」は様子見をすると告げた。社長も了解した。
まずは予定通り當間を片付ける。
當間がクラブ「エルザ」にいつ行くか、はっきりわからないので、翌日からコウは狙撃を実行する場所で待機することにした。
リクが相変わらず尾行を続け、クラブ「エルザ」の方向に當間が向かったら、コウに連絡をする、という段取りである。
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待機し始めてから3日目、リクから連絡が入った。
時間を見計らい、コウが双眼鏡を除く。
黒塗りのセンチュリーが近づいてくる。
ここから目標まで約400メートル。
使用するライフルはロシア製VSS。消音性に優れ、このくらいの距離ならば十分な威力がある。
コウがVSSを構え、スコープを覗く。
車がクラブ「エルザ」の前にゆっくり停車する。
すぐにボディガードが降りてきて左の後部座席のドアを開ける。
當間が降りてきた。
當間はもう1人のボディガードを待っているのか、そのまま立ち止まっている。
コウは機を逃さず、當間の頭部に狙いを定め引き金を引いた。
「バン」
乾いた音がする。
當間がゆっくりと倒れる。
慌ててボディガードが當間の体を支える。
そこにいる誰もが、何が起きたのかわからなかった。
ボディガードが當間の様子を見ている間に、當間の頭の周辺に血だまりができる。
やっと状況が把握できたボディガードが、顔を見合わせて口々に叫ぶ。
「狙撃か! どこから? 音がしたか」
周辺が騒然となっていく。
一方、コウは當間の頭に弾が命中したことを確認すると、すぐにVSSを分解しビジネスバックへ押し込む。
そっと屋上から中へ入り、ゆっくりと階段を降りる。
ビルの外に出ると左へ歩き、次の角をまた左へ曲がる。
少し行くと、リクがバイクにまたがったまま、コウにヘルメットを手渡す。
コウはヘルメットをかぶり、ビジネスバックをリュックにして背に回すと、バイクにまたがった。
バイクはゆっくり走り出すと、すぐに左へ曲がり大通りへ出る。
そのままスピードを上げて他の車にまぎれると、誰もそのバイクのことを気にするものはいなかった。
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会社へ戻り、報告は明日することにしてコウはソファへ身を投げ出す。
連日の張り込みと待機で、心身ともに疲れていた。
リクはソファの端に膝を抱えて座っている。
「疲れたでしょ」
コウがリクに労いの言葉をかける。
「いいえ」リクが答える。
じゃあ、とコウが少し身を起こしてリクに
「コーヒーを入れてもらっていいかな」と頼む。
「はい」と答え、リクがデスク横のキャビネットの上にあるコーヒーメーカーのところへ行ってコーヒーをセットする。
その間、コウはしばらく目を閉じて、心地よい静けさとコーヒーの香りを感じている。
コーヒーができる間、そばでじっと立っていたリクが、カップにコーヒーを入れてコウのところに戻ってくる。
コウはカップを受け取り、そのままサイドテーブルに置くと、少しかがんでいるリクの髪をすく。
リクは流れでその場に正座する格好になる。
コウは両手でリクの両頬にやさしく触れる。
しばらく無言でいると、リクは少しだけ耳を赤くしじっとしている。
こいつ…コウは思う。
犬みたいだな…尻尾ブンブン振ってんじゃん。
顎も撫でたい…『ワン』て言わせたい…。
いや、それは絶対パワハラだろ…。我慢しよう。
コウはじっとリクの頬に触れたまま、想いを巡らせた。
しばらくして、やっと満足しそっと手を離し、
「お疲れ様、次の仕事までゆっくりしな」
と言うと、リクは立ち上がり頭を下げて部屋を出ていった。
コウは煙草に火をつけると、肺一杯に吸い込み、ふーっと煙を吐き出した。
そしてコーヒーのカップを持ち上げ一口飲むと、うまい、と満足そうにつぶやいた。
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リクはコウの部屋を出ると、ふーっと息を吐き出した。
コウに触れられた両頬を手で押さえる。
コウの前ではなんとか耐えていたが、今更ながらに真っ赤になる。
「コウさんは、なぜ俺の髪を撫でてくれるんだろう…なぜ頬に触れるんだろう…じっと見つめてくれる時、何を考えているんだろう…」
身内からも他人からも、あんなに優しく触れられたことはなかった。
戸惑ったし、どういう反応をするのが正解なのかわからずじっとしていた。
ただ…温かかった。
触れられている間、ふわふわした気持ちになった。
ずっと触れていてほしかった。でも…
「社長が言うように、コウさんはきっと男の人みんなに優しいんだろうな」
リクは自分に言い聞かせ、今回も殺しはコウさんがやったんだな、と改めて考えながら帰路についた。
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