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*****


依頼がない時、コウ、リク、ナツの3人は、相変わらずトレーニングを続けていた。

今日は会社の空き室で、ナイフの使い方をコウが教えていた。


ほとんどの殺し屋が銃を使うが、ナイフを使うものもいる。

コウは主に銃を使うが、ナイフを使えると便利な場面もあり、2人にも使えるようになってほしいと考えていた。


「コウさんが前に俺を助ける時に、ナイフを敵の足に投げましたよね。

あの時初めて見たのでびっくりしました」

リクが嬉しそうに話している。


「へー、そんなことがあったんだ」

ナツが、リクが頭に銃を突き付けられていた時のことを軽く話すので、

(こいつ、イカれてんのか)と思いながら聞いていた。


リクはただコウに助けてもらったことが嬉しかっただけなのだが。


「俺が使ってるのは2種類。スローイングとタガーだ。

銃を使えない時にすぐ投げられるのがスローイング(投げナイフ)、近接戦で相手もナイフを持ってれば、タガー(短剣)で対抗する」


机に何種類かのナイフが並んでいる。

「それぞれの手に馴染むものを選んで、どういう使い方が自分に合ってるかをじっくり試してみてくれ」

コウが言う。

「あとは練習あるのみだ」


リクとナツが思い思いにナイフを手に取っている。

2人であれやこれやと相談しながら選んでいるのを、コウがじっと見つめている。


そこへ呉が部屋へ入って来た。

「珍しいですね」

コウが話しかける。


呉が微笑みながら、

「ナイフの練習をしていると聞いてね」

と言い、続けて

「実は私はナイフだけは得意なんですよ」

と自慢げに言う。


「呉さん、殺しもやるんですか」

コウが少し驚いて尋ねる。


「うーん、積極的にはしないけど、身を守るためにはね」

ニコニコしながら話す呉は、なんとも掴みどころがない。


「じゃあ、ご指導をお願いできますか」

コウが言うと、呉も嬉しそうに頷いた。


リクとナツがそれぞれナイフを選び、コウと同じようにスローイングとタガーを使って練習を始めた。

呉が投げ方のコツなどを指導する。

2人は、とても殺しの訓練とは思えないほど、子供のように目をキラキラさせて励んでいる。


どこか間違ってる気がするが…コウは眉間に皺を寄せて2人の様子を見ていた。


*****


訓練が終わると、コウは呉を飲みに誘ってみた。

呉のことをもう少し知りたいと思ったのだ。


呉はは快く承諾し、コウと一緒に会社を出た。

コウは新しく開拓したバーへ呉を連れて行った。


以前の隠れ家的なバーは、惜しくもいろんな人に知られてしまったので、気を抜けなくなってしまったのだ。


今度開拓したバーは、以前の隠れ家的バーのバーテンダーの紹介で、ここもまたわかりにくい路地裏にあり、会員制でカードをかざして入店するという店である。


中に入ると、コウと同じ歳くらいのバーテンダーが

「いらしゃいませ、コウさん。今日はお連れ様がご一緒ですか」

と言い、感じのいい微笑みを浮かべる。


「ああ、あっちに座ってもいいかな」

と、コウがテーブル席を指す。


「もちろんです。お好きな席へ」

と、バーテンダーが答える。


テーブル席は5セットあり、1つの席に2人の客が先に座っていた。

コウたちは、そこから離れた席へ座る。

ホールスタッフの若い男性が席に来て、

「コウさんはいつものでよろしいですか?」と尋ねる。


「ああ、お願いするよ。

俺はいつも1杯目はブラントンと決めてるんですよ。呉さんは何にされますか?」

コウが呉に尋ねる。


「ほう、いいご趣味だ。では私も同じものを」

呉がそう言い、スタッフが承知して下がる。


すぐに酒が届き、乾杯する。

しばらく酒の味を堪能した後、コウが口を開く。


「呉さん、社長から聞かれましたか? 三浦のこと」


「ええ、伺いました。来週あたり、中国に行ってみようかという話になっています」

呉が答える。

「接触する前に、少し向こうで情報を得てからの方がいいかと思っているんですよ。

余計な刺激を与えない方がいいでしょうからね」


「ええ、確かに。藪蛇になりかねませんからね」

コウが苦笑し、続ける。

「俺はね、そっち方面じゃなきゃいいな、と思ってるんですよ。

そっちはそっちで、勝手に事業を続ければいい。

俺らを放っておいてくれれば、こちらも手を出す必要はない、とね」


「コウさんは優しい人ですね」

呉が言う。

「社長もタニさんも、コウさんを頼りにしている。

私もコウさんと少しお話しただけで、それが何故なのかわかります」


コウがふっと笑って

「殺し屋ですよ」

と言う。


呉も「そうでした」と言って笑う。

「しかしね…」と続ける。

「コウさんは『いち殺し屋』で終わる人ではないと私は思います。

上を目指す、というのとは違います。

どちらかと言うと、もっと裏に潜り込める、と言いますか、きっと1つの組織を潰そうと思ったらいくらでも潰せる、そんな人だと思えるんですよ」


コウは少し驚いた。

自分は呉から見たらそんなふうに見えているのか、と。

「そんな器じゃありませんよ」

コウは自嘲気味に言い、

「俺の基準は、気に入るか気に入らないか、なんです。それだけですよ」


呉はそれに対しては答えなかったが、

それが私がいうところの強者の器なんですけどね、と思った。


コウは、呉の物腰の一貫したスタンスを見て、呉が中国の裏社会に通じていることも、日本の警察に協力していることも、納得することができた。

呉はきっと三浦を相手にしても、動じずに真実を聞き出すことができるのだろう。


コウが、今日呉と話せたことが良い刺激になったと礼を述べていると、バーテンダーが席まで来て、カードを1枚、呉の前に置き、

「呉様、またお待ちしております」

と言い、お辞儀をした。


呉は、「ほう」と言い、ニコリと笑って、

「ありがとう」とカードを受け取った。


コウが連れてきた客なので、入店用のカードが発行されたのだった。


「呉さん、これで決済までできますから、なくさないように」

コウが笑って伝える。


「わかりました。ありがとう」


「あ、あと一つだけ…この店のことは社長には内緒です」

コウがイタズラっぽく言うと、呉も

「了解です」と笑った。


*****


来週か…。

きっと動く。


コウは確信していた。


*****


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