ズタボロにする
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会社。コウの自室。
リクとナツがソファに座っている。
「ご存知、ナツが狙われている」
コウが話し始めると、リクは心配そうな、ナツは不満そうな顔をする。
「で、ナツもタニたちに向こうの内部事情を話しただろうが、ナツを知ってる者たちに絞って殺るってことになってる。
それまでは普段通り他の依頼をこなしていくが、基本俺たち3人で動く」
オッケー? とコウが2人に聞くと、
「はい」と返事が来る。
「依頼自体が罠ってことも考慮して、必ず見張りをつけてもらうが、
まあ、やることはいつもと一緒だ」
「あのさ」ナツがぼそっと言う。
「仕事以外の時も、あんまり気づかないけど見張られてるっていうか、監視されてるっていうか…
…されてんだよな、俺」
「ああ、監視してる」
コウが言う。
「…なんか、悪いじゃん、俺なんかのために…。
俺を狙ってる奴らをやるのだって、依頼があるわけじゃないのに…1円にもならねぇのに…」
ナツはずっと思っていたのだろう、言いにくそうに話す。
コウはナツをじっと見て、徐に口を開いた。
「ああ、その通りだ。1円にもならねぇ」
リクがコウを見上げる。
「でもさ、ナツが狙われてるってわかった時にさ、『どうする?』ってならなかったんだよな。
みんなが当然、どうやって相手をやるかって結論以外なかったの。
何故かって、言葉では言えないかな、理屈じゃないから。
仲間だから、とかナツが可愛いから、だとか、会社のメンツとか、そういうの全部ひっくるめてかもしれないし、そういうのじゃないのかもしれない。
けど結局みんな、『ナツを守る』の一択だったわけよ」
ナツはずっと下を向いている。
「まあ、俺の理由は違うんだけどね」
コウの声が少し厳しくなった。
ナツは顔を上げた。
「俺はね、ただ許せないんだよね。ムカつくんだよ。
あんな奴らにナツを持っていかれるって考えただけで反吐がでる。私情だよ。
だから…ズタボロにしてやるよ。安心しろ」
ナツは黙ってコウの顔を見ていたが、
プッと吹き出した。
コウも吹き出し、つられてリクも笑った。
「何だよ、それ、ズタボロって何だよ」
ナツが笑いながら言う。
「は? そこかよ。ズタボロってのは、こう、相手をボロ雑巾みたいに…」
コウがズタボロを説明し、リクは横で笑っていた。
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新しい依頼がきた。
タニがモニターを見ながら説明する。
「事件自体は単純だ。
あおり運転で相手を事故らせて死亡させた。
その時逃げたが、その後出頭した男は別人だった。
カメラに映ってはいたが、それが別人とまでは判定できなかった。
しかし、出頭した男は真犯人と思われる奴に弱みを握られているだの、いつも言いなりになってるだのという証言がいくつもある。
ただし、警察がクロとする証拠まではなかった」
「しかし、本当にそいつが真犯人なのか?」
コウが尋ねる。
「確証はない。
依頼人は、確証をもって殺してほしい、とのことだ。
もちろん調査部で引き続き調べるが、周囲の証言だけじゃ弱いんだよな」
「本人の自白が欲しいってことか」
コウが確認する。
「ああ、まあ、そうなんだが…」
「他に何かあるのか?」
コウが聞く。
「死亡した人の遺族自らが本人から聞き出すって言ってる」
「じゃあ、そうしてください。待ってます」
そう言ってコウが通話を終わらせようとすると、タニが慌てて
「ちょ待てって。
そういうわけにはいかないじゃん。ミスればこっちにも火の粉が飛んでくる」
面倒臭いなーという顔を隠さず、コウが
「こっちは殺し屋なんだからさ、殺しだけさせてよ」
「ですよねー」
タニは困ったように同意して、黙る。
口を割らせる方法はいくつかある。
脅し、金、そして拷問…
「騙せばいいじゃん」コウが言う。
「弁護士から、お前がやったっていう証拠が出たけど、警察を黙らせる方法がある、とか言って、金を出させる。金を出して来たら決定ってことで」
「そんな単純な方法でうまくいくかな」
タニが言う。
「知るか。演技次第だろ」
コウが言うと、タニも「うーん」と頷き、
「やってみるか、ダメ元で」
「人に案を出させといて、ダメ元ってあるかよ」
まあ、確率は低いがな、とコウも思ってはいた。
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弁護士役は呉秀英。
中国籍で、最近加入した。日本名は『ご しゅうえい』
中国人相手の依頼も増えてきたので、ユゲの紹介で加入することになった。
身はきれいだが、裏社会にも通じているとのことで警察の協力もしているらしい。
日本語もネイティブで話せるが、一見怪しげに見えることも強みの一つである。
会社のコネを使い、真犯人と思われる男、門脇拓馬の父親に呉を紹介させる。
父親も、琢磨の仕業かと思いながらも、息子可愛さに目を瞑ろうと思っているところで、弁護士が接触してきたものだから、慌てて息子と2人で会うことにする。
待ち合わせた喫茶店で、挨拶を合した後、呉は開口一番、
「警察が壊れた車載カメラを解析して、どうも逮捕した男と服装が違うらしいということに気づいて、再捜査をすることになったらしいでのですよ」
と言う。
「私は警察にもコネがありますから、そこらへんの情報はすぐに入ってきます。
現在逮捕されている者が誤認逮捕ということになれば、警察の信用も失墜しますからね、できればこのまま逮捕しておきたい、というのが心情でしょう」
「そ、そうなんですか。しかし、うちの息子とどういう関係が…」
父親が焦りを隠して言う。
拓馬の方は、すっかり血の気が引いている。
「いえね、琢磨さんが関係ないのであれば、全く問題はありません。
もちろん、私の出る幕ではない。
しかし…」
ここで間をおいて、じっと向かいに座っている親子を見つめる。
「周囲の噂で、琢磨さんが真犯人では、と広まっています。
噂が広まっているということは、警察もまず調べるのは琢磨さんでしょう。
拓馬さんに当日のアリバイがあり、服装が車載カメラのものとは違う、ということが証明されればいいのですが、もし…」
「あの、もしそれが証明されなければ、自分が逮捕されるんでしょうか」
拓馬が堪えきれずに、呉の言葉を遮った。
「されます」
呉は静かに言った。
親子は黙ってしまった。
(やはり息子がやっていたのか)
父親は無念そうな顔を隠すこともできずにいた。
呉が静かに続ける。
「私には警察にコネがある、と言いましたでしょう」
親子がはっと顔を上げる。
「捜査を指揮するのは一課と交通捜査課、車載カメラの解析は交通捜査課でしょう。
そのカメラのデータが紛失、または消失することがないとは言い切れません」
ここで、また一呼吸置く。
「金ですか?」
父親が小声で聞いてきた。
呉はかすかに頷く。
「いくらくらい準備すれば…」
呉は指を1本立てる。
これを100万ととるか、1000万ととるか、どちらでも構わない。
父親は、拓馬に
「いいか?」と確認する。
拓馬は「頼む」と呟く。
「では、3日後ご連絡します。
それまでにもし警察から事情聴取に来いと言われたら、弁護士に相談すると言ってください」
呉が立ち上がり、帰る時、親子は深々と頭を下げていた。
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