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ズタボロにする

*****


会社。コウの自室。

リクとナツがソファに座っている。


「ご存知、ナツが狙われている」

コウが話し始めると、リクは心配そうな、ナツは不満そうな顔をする。


「で、ナツもタニたちに向こうの内部事情を話しただろうが、ナツを知ってる者たちに絞って殺るってことになってる。

それまでは普段通り他の依頼をこなしていくが、基本俺たち3人で動く」


オッケー? とコウが2人に聞くと、

「はい」と返事が来る。


「依頼自体が罠ってことも考慮して、必ず見張りをつけてもらうが、

まあ、やることはいつもと一緒だ」


「あのさ」ナツがぼそっと言う。

「仕事以外の時も、あんまり気づかないけど見張られてるっていうか、監視されてるっていうか…

…されてんだよな、俺」


「ああ、監視してる」

コウが言う。


「…なんか、悪いじゃん、俺なんかのために…。

俺を狙ってる奴らをやるのだって、依頼があるわけじゃないのに…1円にもならねぇのに…」

ナツはずっと思っていたのだろう、言いにくそうに話す。


コウはナツをじっと見て、徐に口を開いた。

「ああ、その通りだ。1円にもならねぇ」


リクがコウを見上げる。


「でもさ、ナツが狙われてるってわかった時にさ、『どうする?』ってならなかったんだよな。

みんなが当然、どうやって相手をやるかって結論以外なかったの。

何故かって、言葉では言えないかな、理屈じゃないから。


仲間だから、とかナツが可愛いから、だとか、会社のメンツとか、そういうの全部ひっくるめてかもしれないし、そういうのじゃないのかもしれない。

けど結局みんな、『ナツを守る』の一択だったわけよ」


ナツはずっと下を向いている。


「まあ、俺の理由は違うんだけどね」

コウの声が少し厳しくなった。


ナツは顔を上げた。


「俺はね、ただ許せないんだよね。ムカつくんだよ。

あんな奴らにナツを持っていかれるって考えただけで反吐がでる。私情だよ。


だから…ズタボロにしてやるよ。安心しろ」


ナツは黙ってコウの顔を見ていたが、

プッと吹き出した。

コウも吹き出し、つられてリクも笑った。


「何だよ、それ、ズタボロって何だよ」

ナツが笑いながら言う。


「は? そこかよ。ズタボロってのは、こう、相手をボロ雑巾みたいに…」

コウがズタボロを説明し、リクは横で笑っていた。



*****



新しい依頼がきた。


タニがモニターを見ながら説明する。

「事件自体は単純だ。

あおり運転で相手を事故らせて死亡させた。

その時逃げたが、その後出頭した男は別人だった。

カメラに映ってはいたが、それが別人とまでは判定できなかった。


しかし、出頭した男は真犯人と思われる奴に弱みを握られているだの、いつも言いなりになってるだのという証言がいくつもある。

ただし、警察がクロとする証拠まではなかった」


「しかし、本当にそいつが真犯人なのか?」

コウが尋ねる。


「確証はない。

依頼人は、確証をもって殺してほしい、とのことだ。

もちろん調査部で引き続き調べるが、周囲の証言だけじゃ弱いんだよな」


「本人の自白が欲しいってことか」

コウが確認する。


「ああ、まあ、そうなんだが…」


「他に何かあるのか?」

コウが聞く。


「死亡した人の遺族自らが本人から聞き出すって言ってる」


「じゃあ、そうしてください。待ってます」

そう言ってコウが通話を終わらせようとすると、タニが慌てて


「ちょ待てって。

そういうわけにはいかないじゃん。ミスればこっちにも火の粉が飛んでくる」


面倒臭いなーという顔を隠さず、コウが

「こっちは殺し屋なんだからさ、殺しだけさせてよ」


「ですよねー」

タニは困ったように同意して、黙る。


口を割らせる方法はいくつかある。

脅し、金、そして拷問…


「騙せばいいじゃん」コウが言う。

「弁護士から、お前がやったっていう証拠が出たけど、警察を黙らせる方法がある、とか言って、金を出させる。金を出して来たら決定ってことで」


「そんな単純な方法でうまくいくかな」

タニが言う。


「知るか。演技次第だろ」

コウが言うと、タニも「うーん」と頷き、

「やってみるか、ダメ元で」


「人に案を出させといて、ダメ元ってあるかよ」

まあ、確率は低いがな、とコウも思ってはいた。


*****


弁護士役は呉秀英(ウー・シウイン)

中国籍で、最近加入した。日本名は『ご しゅうえい』

中国人相手の依頼も増えてきたので、ユゲの紹介で加入することになった。


身はきれいだが、裏社会にも通じているとのことで警察の協力もしているらしい。

日本語もネイティブで話せるが、一見怪しげに見えることも強みの一つである。


会社のコネを使い、真犯人と思われる男、門脇拓馬の父親に呉を紹介させる。

父親も、琢磨の仕業かと思いながらも、息子可愛さに目を瞑ろうと思っているところで、弁護士が接触してきたものだから、慌てて息子と2人で会うことにする。


待ち合わせた喫茶店で、挨拶を合した後、呉は開口一番、

「警察が壊れた車載カメラを解析して、どうも逮捕した男と服装が違うらしいということに気づいて、再捜査をすることになったらしいでのですよ」

と言う。

「私は警察にもコネがありますから、そこらへんの情報はすぐに入ってきます。

現在逮捕されている者が誤認逮捕ということになれば、警察の信用も失墜しますからね、できればこのまま逮捕しておきたい、というのが心情でしょう」


「そ、そうなんですか。しかし、うちの息子とどういう関係が…」

父親が焦りを隠して言う。

拓馬の方は、すっかり血の気が引いている。


「いえね、琢磨さんが関係ないのであれば、全く問題はありません。

もちろん、私の出る幕ではない。

しかし…」


ここで間をおいて、じっと向かいに座っている親子を見つめる。


「周囲の噂で、琢磨さんが真犯人では、と広まっています。

噂が広まっているということは、警察もまず調べるのは琢磨さんでしょう。

拓馬さんに当日のアリバイがあり、服装が車載カメラのものとは違う、ということが証明されればいいのですが、もし…」


「あの、もしそれが証明されなければ、自分が逮捕されるんでしょうか」

拓馬が堪えきれずに、呉の言葉を遮った。


「されます」

呉は静かに言った。


親子は黙ってしまった。

(やはり息子がやっていたのか)

父親は無念そうな顔を隠すこともできずにいた。


呉が静かに続ける。

「私には警察にコネがある、と言いましたでしょう」


親子がはっと顔を上げる。


「捜査を指揮するのは一課と交通捜査課、車載カメラの解析は交通捜査課でしょう。

そのカメラのデータが紛失、または消失することがないとは言い切れません」


ここで、また一呼吸置く。


「金ですか?」

父親が小声で聞いてきた。


呉はかすかに頷く。


「いくらくらい準備すれば…」


呉は指を1本立てる。

これを100万ととるか、1000万ととるか、どちらでも構わない。


父親は、拓馬に

「いいか?」と確認する。


拓馬は「頼む」と呟く。


「では、3日後ご連絡します。

それまでにもし警察から事情聴取に来いと言われたら、弁護士に相談すると言ってください」


呉が立ち上がり、帰る時、親子は深々と頭を下げていた。


*****

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