特殊部隊出身クロ
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今日はリクが1人で仕事に行っている。
2日前、タニからコウに打診があった。
「これ、リクにできる仕事だと思うんだけど」
タニはそう言うと、情報をモニターに映し出した。
モニターにはターゲットの写真が何枚かと、どういう人間かが出ている。
写真は、いかにもホスト然としており、どの写真にもニヤけた笑みが張り付いている。
ただ1枚だけ、鋭い目をした写真があり、タニはこの写真について説明する。
「見ての通り、職業はホストだ。ナンバーワンでも何でもない、売れないホストってとこだな。
この写真は、副業をしている時の写真だ。目つきが悪いだろう」
「副業ねぇ」
コウが納得したように頷く。
「ま、お察しの通り、女を売っている、ヤク漬けにしてな。
依頼人はヤクの元締めだ。ご存知、佐藤組。
こいつは…あ、名前は日比野真一、源氏名はシンね。
こいつは自分でもヤクをやって、そのための金を使い込んでる」
「ふーん、路地裏で殺れば簡単ってとこか」
コウが言う。
「だな」
タニが同意する。
「しかし、なんだかなー、佐藤組がやらせてるシノギだろ。
そのシノギ自体気に食わないんだがな」
コウが渋る。
「まあ、そう言うな。世の中の仕組みだ、俺たちがどうこう言うことじゃねぇ」
タニが諫める。
「ああ、わかってるさ」
コウも頷く。
「じゃ、コウからリクに伝えてくれるか」
「わかった」
そう言って、2人は通信を切った。
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ナツはまだ研修中の身なので、基本コウとリクと一緒に動く。
簡単な仕事はリク1人でやることもあるが、ナツはまだ1人では動かせない。
というわけで、自然とコウがナツを守ることになる。
それはいい。
それはいいが、リクがいない時の、このナツの態度はどうだ。
ナツはリクの言うことはよく聞く。甘えているくらいだ。
だが、その他の者に対しては態度がデカい。超デカい。
コウに対してはリクの教育もあって、それほどでもないが…。
今日はナツの訓練で射撃場に来ている。
ライフルの訓練をするつもりで、ライフルに詳しいクロに来てもらった。
クロは40代前半、長身で細身だが、フランスの特殊部隊に所属していたこともあり、銃全般に詳しい。
殺し屋としての仕事はあまり請け負っていないが、こういう時に声をかけると必ず来てくれる。
コウはクロに、ナツに合うライフルを選んでもらいたいと頼む。
クロはナツを上から下まで見て、
「うん」と頷く。
それを見て、ナツが
「うん、ってなんだよ。見ただけでわかるのかよ」
といつものように毒づく。
クロは驚いて、ナツを見る。
そんな言葉遣いをする新人に会ったことがなかったのだろう。
コウは黙って見ている。
人間性の教育は任されていない。
クロはナツの言葉を無視して、1つのライフルを渡した。
「撃ってみろ」
と言って、使い方の説明を始める。
ナツは、
「これ小さくね? 俺もっとデカいのが撃ちたいんだけど」
と言っている。
クロは構わず説明を続ける。
ナツは仕方なくそのライフルを手に取ると、説明が終わるか終わらないかのうちに、的に向けてぶっ放した。
途端、衝撃で後ろに跳ね飛ばされた。
「そうなるんだ、この大きさでもな」
クロはそう言うと、もう一度撃ち方の説明をしてやる。
ナツは面白くなさそうな顔で、しかしちゃんと聞いている。
説明が終わると、ナツは今度は姿勢に気を付けて撃ってみる。
衝撃は相変わらずだが、跳ね飛ばされずに踏ん張ることができた。
まだ的には当たらない。
コウがクロに聞く。
「他のはどう?」
クロが「うーん」と考え、
「あとは、これかな」
と言い、もう1つを掴む。
「ナツ、こっちも試してみな」
コウが言い、ナツが素直に従う。
ナツが言われたように撃つと、的の端に当たった。
「どっちがよさそう?」
コウがナツに聞くと、
「断然こっちだな」
と言って、2台目の方を掲げた。
「じゃ、あとは練習あるのみだな」
コウはそう言うと、クロに頼むよ、と言って席を外した。
リクの仕事が終わった頃合いかと思い、タニにメールする。
すぐに返信が届く。
「終わった」と。
コウはリクに電話した。
「リク、お疲れ様。今ナツと射撃場にいるから来ないか」
「行きます」
二つ返事でリクが答え、30分ほどで到着した。
ナツもリクを見て、肩の力が抜けた感じで、訓練も上々だ。
だいぶ出来上がってきたので、今日の訓練は終わりにして4人で食事に行く。
食事が終わり、リクとナツをマンションへ送っていくと、コウはクロを飲みに誘った。
めったにない組み合わせだが、コウはクロのことを尊敬していた。
コウは会社の中ではトップであり、複数で仕事をするときには指揮をとる立場だ。
しかしクロは特殊部隊出身ということもあり、現場の経験が豊富で、コウもよく相談をしていた。
今回飲みに誘ったのは、ナツのことを相談したかったから、でもある。
「ナツが狙われてるって聞いてますか?」
コウが尋ねる。
「ああ、社長に聞いた。厄介だな」
クロが言う。
「ホントは全滅させたいんですけどね」
コウが言うと、
「気持ちはわかるよ、私情も入ってるんだろ」
クロがコウの考えを察して答える。
「まあ、そうなんですけどね」
コウが自嘲気味に言う。
「あいつらがやってきたことを考えるとね、胸糞が悪いんですよ」
「珍しいな、コウがそこまで入れ込んでるってのは…リクか?」
コウが少し間を開けて答える。
「なんていうか、自分でもわかんないんですけどね…母性本能っていうか…」
「お前がか!?」
クロが驚いて、つい大声を出す。
コウが笑って、
「冗談ですって。まあ、今までにいないタイプの後輩ですからね」
クロは心の中で、いや冗談じゃないだろ、それ…と思ったが黙っていた。
「しかしさ、社長たちが言うように、まずは上からってとこじゃないのか。
1つ1つ潰していくしかないさ。
たとえ一気にやったとしても、そんなんがなくなるわけじゃあない。
悪党は次々に出て来る。
割り切って、『今回の依頼はナツを守るための殺し』って考えるこった」
クロが言うと、
「さすが説得力がありますね」
コウがちゃかす。
「おうよ、伊達に歳は食ってねぇ」
クロが笑った。
コウは少し気持ちが軽くなった気がした。
そうだ。俺の仕事は殺し屋だ。
それを忘れるな。
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