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ナツの危機

第三章


コウが女とホテルの部屋へ入って行く。


女は先にシャワーを浴びると言って、浴室に消えた。

コウはルームサービスでワインを頼む。

ほどなくしてワインが届き、女もシャワーが終わりバスローブを着て出て来る。


「あなたも…」とコウを促すが、

「ワインを飲もう」と言って、2つのグラスにワインを注ぐ。


2人は乾杯し、女は嬉しそうにワインを半分ほど飲む。

コウが黙って見つめている。


女が少し変な顔をしてグラスを見る。

「うっ」と口を押え、その場に蹲る。


「あなた、何かしたの?」

女がコウを見上げて苦しそうに言う。

「ああ」

コウが静かに答える。


「な、何を…」

コウは黙って、女のバスローブのポケットから銃を取り出す。


女は驚き、「くそっ」と毒を吐く。

「誰に頼まれた?」

女は黙っている。


「いいさ、さっきお前が飲んだのは自白剤入りのワインだ。

そのうち効いてくるだろ」

コウはそう言うと、ソファに座り、女の銃を手で遊ばせながら、ゆっくりと自分のワインを味わった。


女は悔しそうな顔のまま俯いている。

このまま自白してしまえば、請負人に殺される。

それより、どうしてこの男は自白剤なんて持っているんだろう。


意識が朦朧としてきた。

コウがもう一度聞く。

「誰に頼まれた」


女は「…あんたが前に寝た女のパトロンよ…」


コウは唖然とした。

まさか、あと腐れないはずの女関係で命を狙われるとは…殺し屋の俺が…。

可笑しくなってコウは笑い出した。


女は相変わらず苦しそうにしている。

「そいつの名前は?」


「工藤…工藤倫太郎…」

ああ、もうおしまいだ…と女は覚悟した。

依頼人の名前をターゲットに明かすなど、殺し屋失格だ。


コウは、女に粉の入った袋を渡した。

「解毒剤だ、水で飲め」


「あなた何者よ」

女が吐き出すように言う。


「同業者だよ」

コウが何気ない口調で言う。


「え?」

女が不思議そうな顔をする。

「まさか、あんたも殺し屋なの?」


「知らなかったのか」

工藤は何も言わなかった。工藤も知らなかったに違いない。


「だよな、そう簡単に俺の正体を掴んでもらっちゃ困る」

だから、とコウは続けた。

「殺したって嘘つくか、逃げなよ。協力はしないけどな」


コウはそう言って、部屋を出て行った。



*****



これって社長に報告しないといけないかなー、なんて考えながら、コウはホテルを出てタクシーに乗り込む。

絶対笑われるよな…頭を抱え込むコウのスーツの内ポケットでスマホが鳴った。


「コウ、今どこだ。今から会社に来れるか?」

社長だ。


コウはちょっと躊躇ってから、

「ああ」と答えた。


会社が入っている私立図書館のある公園の近くでタクシーを降りると、

公園の中を歩いて会社へ向かう。


会社に着くと、自室へ行き、パソコンを立ち上げる。

すぐに通信が繋がり、社長の顔がモニターに映し出される。


「すまんな、コウ、こんな時間に。お楽しみじゃなかったか」

社長が昭和か、という語彙でちゃかす。


「大丈夫だ。楽しみの前に殺されかけたんで逃げてきた」

コウがそう言うと、社長は冗談だろ、と笑って本気にしなかった。

当然だ。

しかし、これで報告がすんだことにしよう、俺は事実を話した、とコウはほくそ笑んだ。


「で、急ぎの仕事なの?」

コウが尋ねる。


すると社長が少し浮かない顔をして、隣にいるタニを見た。

タニが説明を始めた。

「ナツが前についてた李浩陽(リ・ハオヤン)の後釜な、日本人なんだけどさ、

こいつがナツを狙っているらしい」


コウが苦い顔をする。

「放っておいてはくれなかったか」


ナツはこの会社にくるまで、李の下で働いていた。

李の右腕として、会社のことをほとんど把握していたため、こちらで李を殺ったあと、すぐに向こうの刺客が送り込まれたが、その時はコウが返り討ちにしていた。


その後、ナツはアメリカに何か月か滞在していたため、ほとぼりは冷めたかのように見えていたが、やはり甘くはなかったようだ。


タニが続ける。

「ナツの命を狙っているというよりも、情報を狙っているようだ。

ナツを取り込みたい感じだな」


「今、ナツたちは?」

コウが確認する。


「マンションにいる。防犯カメラで見張っているから、今のところ大丈夫だ」

タニが言う。


「うん…で…?」

コウが先を促す。


「で…相手の組織はデカい。トップが入れ替わっただけで、やってることは何も変わらねぇ。

だからって、こっちが動かなきゃ、ナツを守るったって無理だ。

刺客を次々にやってもキリがねぇ」

タニが含みをもたせて言うと、


コウが

「叩き潰すか」と低い声で言う。


「ああ、ただ全部は無理だ。デカすぎる。日本だけじゃないしな。

しかしナツを知ってる上の奴らだけでもいなくなれば、問題ないんじゃないかな」


「うん…」

コウが納得できない様子で呟く。

「それで本当に安心できると思うか?」


「わからん」

タニは答え、心の中で呟く。

(まったく…過保護発動かよ…)


「社長は、それでいいの?」

コウが確認する。


「そうだね、一気にっていうのはさすがに厳しいしね。

ナツのことを知ってそうな、まあ狙ってそうな奴らをターゲットに絞ってやるってことでどうかな」

社長がコウに言う。


コウも頷き、リクとナツのマンションの見張りを頼み、

情報がまとまったら教えてくれと言って通信を切った。


*****



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