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ナツの初仕事

*****


矢形はアテもなく車を走らせていた。


頼る誰かを頭の中で探していたが、誰も思いつかない。

弟子たちにも見放された。


金もない。

闇金に追われている。

八方塞がりだ。


どこか誰も知らない場所でまた一からやり直そう。

『モダン茶道』って言って騙すことができたんだ。他にも何か考えよう。


矢形はそう考えながら、とりあえず目についた道の駅の駐車場に車を乗り入れた。

一休みして考えをまとめよう。


そう思い、飲み物を買おうと自動販売機に向かった。

ペットボトルのお茶を買って車に乗り込んだその時、後部座席に男が2人乗っていることに気づいた。


「うわーっ」

矢形は叫び、車から降りようとしたが、すぐに後ろから首に腕を回されて身動きができなくなった。


腕はぐいぐいと矢形の首を絞めつける。

やがて矢形は意識を失った。


辺りはまだ明るく、ちらほらと車も停まっているが、こちらに注目している者はいない。

ナツが矢形の首から腕を外し、リクが車から降りて、矢形の体を助手席の方へ引っ張る。


ナツが運転席に座り、

「じゃ、あとで」とリクに言う。


リクも頷き、自分の車に戻って、リクが運転する矢形の車を追う。

2台の車は矢形の家の裏手に着いた。

もう既に辺りは暗くなっている。


リクとナツは、誰にも見られないよう、矢形を車から降ろし、裏口から家の中へ運び込んだ。

「おつかれさん」


コウが待っていて、2人に声をかける。

「準備は整ってるよ」


コウが言い、和室と和室の間の梁に垂らしたロープを指さす。

ロープの下に置いた椅子の高さと合うよう、輪っかも作ってある。


コウとリクの2人で矢形に変な傷をつけないよう持ち上げる。

首にロープの輪っかを嵌め、コウが椅子を蹴り飛ばし、一気に2人とも矢形の体から手を離す。


矢形は、一瞬目を覚まして、手を首に当て、

「ぐぐぐっ」と言いながら足をバタバタさせる。


しかし長くは続かなかった。

2人が手を離した時点で、既に首の骨は折れていただろう。


3人は何も言わず、裏口から出ると、ナツが運転する車で会社へ帰って行った。




コウの自室。


「ナツ、初仕事はどうだった?」

コウがナツに尋ねた。


「俺は大したことしてない」

ナツがぼそっと言う。


「最初から殺しはさせないさ」

コウが静かに言う。


ナツが「え…?」といった顔でコウを見る。


「人を殺すってさ、相手がどんなに悪人でも、自分の手に残った感触とか残影とか、トラウマになる奴もいるんだよね。

それは慣れだけじゃなくて、もともと持ってるそいつの素質とかにもよるのかな。

だから、ナツがそんなんでメンタルやられたらまずいじゃん」

コウがニッと笑う。


「そんな弱かねぇよ」

ナツが少し自信なさげに吐き出す。


「うん、きっとそうだね。だから、それを俺の目でちゃんと見極める」

コウが言うと、リクがナツを振り向かせて拳を突き出した。


「今日はお疲れ様。ナツと2人だったから心強かった」

ナツも照れくさそうに笑うと、拳を合わせた。


*****


次の依頼はすぐだった。


「暴れちゃってください」

タニの第一声だった。


コウが楽しそうに、

「いいの?」と言う。


タニが説明を始めた。

「闇カジノを襲ってもらいます。


標的は賭場の奥にいる胴元、佐藤組の若頭、嵯峨野辰巳と、その右腕の塔屋佑二郎。

依頼人は佐藤組の組長…若頭がカジノの儲けを横領しているらしい。

見せしめだってさ。


カジノを襲わせるのはカモフラージュだ。内輪もめに見えないようにするためにな。

ターゲット以外の組の奴らは怪我させる程度でいい。

賭場の客は脅すだけでいいだろう」


「闇カジノって、警察もマークしてんじゃねぇの」

コウが言う。


「ああ、してる。だがユゲの情報じゃ、まだモタモタ証拠集めに勤しんでるらしい。

かち合うことはないだろう」


「ならいい」

コウが納得して頷く。


「月2回、金曜の夜に開催される。次は来週の金曜だな。

いけるか?」

タニが聞く。


「ああ、十分だ」

コウが答える。続けて、

「何人出せる?」

コウが尋ねる。


「何人でも」

タニが答えると、コウは考える。


「そうだな、近接戦だからな…先にミズキを潜り込ませられるか?」


「ああ、大丈夫だろう」

「じゃあ、俺とリク、ナツ、あとシキミだな」


「手配する」

タニは言って通信を切った。


コウはすぐに向かいの部屋へ行き、リクとナツに宣言した。


「これからナツの銃の訓練をする」


*****




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