ナツの初仕事
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矢形はアテもなく車を走らせていた。
頼る誰かを頭の中で探していたが、誰も思いつかない。
弟子たちにも見放された。
金もない。
闇金に追われている。
八方塞がりだ。
どこか誰も知らない場所でまた一からやり直そう。
『モダン茶道』って言って騙すことができたんだ。他にも何か考えよう。
矢形はそう考えながら、とりあえず目についた道の駅の駐車場に車を乗り入れた。
一休みして考えをまとめよう。
そう思い、飲み物を買おうと自動販売機に向かった。
ペットボトルのお茶を買って車に乗り込んだその時、後部座席に男が2人乗っていることに気づいた。
「うわーっ」
矢形は叫び、車から降りようとしたが、すぐに後ろから首に腕を回されて身動きができなくなった。
腕はぐいぐいと矢形の首を絞めつける。
やがて矢形は意識を失った。
辺りはまだ明るく、ちらほらと車も停まっているが、こちらに注目している者はいない。
ナツが矢形の首から腕を外し、リクが車から降りて、矢形の体を助手席の方へ引っ張る。
ナツが運転席に座り、
「じゃ、あとで」とリクに言う。
リクも頷き、自分の車に戻って、リクが運転する矢形の車を追う。
2台の車は矢形の家の裏手に着いた。
もう既に辺りは暗くなっている。
リクとナツは、誰にも見られないよう、矢形を車から降ろし、裏口から家の中へ運び込んだ。
「おつかれさん」
コウが待っていて、2人に声をかける。
「準備は整ってるよ」
コウが言い、和室と和室の間の梁に垂らしたロープを指さす。
ロープの下に置いた椅子の高さと合うよう、輪っかも作ってある。
コウとリクの2人で矢形に変な傷をつけないよう持ち上げる。
首にロープの輪っかを嵌め、コウが椅子を蹴り飛ばし、一気に2人とも矢形の体から手を離す。
矢形は、一瞬目を覚まして、手を首に当て、
「ぐぐぐっ」と言いながら足をバタバタさせる。
しかし長くは続かなかった。
2人が手を離した時点で、既に首の骨は折れていただろう。
3人は何も言わず、裏口から出ると、ナツが運転する車で会社へ帰って行った。
コウの自室。
「ナツ、初仕事はどうだった?」
コウがナツに尋ねた。
「俺は大したことしてない」
ナツがぼそっと言う。
「最初から殺しはさせないさ」
コウが静かに言う。
ナツが「え…?」といった顔でコウを見る。
「人を殺すってさ、相手がどんなに悪人でも、自分の手に残った感触とか残影とか、トラウマになる奴もいるんだよね。
それは慣れだけじゃなくて、もともと持ってるそいつの素質とかにもよるのかな。
だから、ナツがそんなんでメンタルやられたらまずいじゃん」
コウがニッと笑う。
「そんな弱かねぇよ」
ナツが少し自信なさげに吐き出す。
「うん、きっとそうだね。だから、それを俺の目でちゃんと見極める」
コウが言うと、リクがナツを振り向かせて拳を突き出した。
「今日はお疲れ様。ナツと2人だったから心強かった」
ナツも照れくさそうに笑うと、拳を合わせた。
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次の依頼はすぐだった。
「暴れちゃってください」
タニの第一声だった。
コウが楽しそうに、
「いいの?」と言う。
タニが説明を始めた。
「闇カジノを襲ってもらいます。
標的は賭場の奥にいる胴元、佐藤組の若頭、嵯峨野辰巳と、その右腕の塔屋佑二郎。
依頼人は佐藤組の組長…若頭がカジノの儲けを横領しているらしい。
見せしめだってさ。
カジノを襲わせるのはカモフラージュだ。内輪もめに見えないようにするためにな。
ターゲット以外の組の奴らは怪我させる程度でいい。
賭場の客は脅すだけでいいだろう」
「闇カジノって、警察もマークしてんじゃねぇの」
コウが言う。
「ああ、してる。だがユゲの情報じゃ、まだモタモタ証拠集めに勤しんでるらしい。
かち合うことはないだろう」
「ならいい」
コウが納得して頷く。
「月2回、金曜の夜に開催される。次は来週の金曜だな。
いけるか?」
タニが聞く。
「ああ、十分だ」
コウが答える。続けて、
「何人出せる?」
コウが尋ねる。
「何人でも」
タニが答えると、コウは考える。
「そうだな、近接戦だからな…先にミズキを潜り込ませられるか?」
「ああ、大丈夫だろう」
「じゃあ、俺とリク、ナツ、あとシキミだな」
「手配する」
タニは言って通信を切った。
コウはすぐに向かいの部屋へ行き、リクとナツに宣言した。
「これからナツの銃の訓練をする」
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