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「モダン茶道」野郎

*****


翌日、早速依頼がきた。

コウの部屋で3人でモニターに映るタニを見ている。


タニが、

「どうせならこっち来いよ」

と言い、


「断る」とコウが拒む。

まだ許していないのだ。


タニが、仕方ないなー、とばかりに肩をすくめ、データを画面に映し出す。


「ターゲットは矢形慶太。茶道の家元…とはいっても表千家や裏千家などの格式高いものとは違って、最近流行ってきてる『モダン茶道』とかいう流派を立ち上げたものらしい」


「『モダン茶道』?」

皆が一斉に首を傾げる。


タニは笑いをこらえて、説明する。

「俺もよく知らないが、従来のしきたりにとらわれない、洋風なものを取り入れたりする茶道らしい。

まあ、そこはいい。後で調べとけ」

と言ってタニが続ける。


「で、こいつが、なんというか新興宗教の教祖のようなことをやってるらしい。


弟子と言う名の信者だな、そういうのを集めて、金を巻き上げ、言うことを聞かせる。

退会しようとすると家族を脅す。

最初はお上品な茶道の家元のフリをして、蓋を開ければヤクザと一緒だ」


「ひどいな、それで依頼人は?」

「脅された家族だ。ただ茶道を習いたかっただけの娘をいいようにされて、怒り心頭だ。

依頼人はうちの顧客と親しい会社役員なんでね、すぐにでも殺ってほしいんだと」


「わかった。簡単な案件だな」


「いや、実はそうでもない。

そいつが殺されれば、弟子たちが疑われる。

自殺をしそうな羽目に陥らせてから、自殺を装って殺ってほしい」


「面倒臭いな」


「まあな、しかし情報を見ると、金遣いが荒いんで経済的にも困窮しているし、女関係で訴えられかけてもいる。原因は作りやすいんじゃないかな」


「了解」

通信を切って、コウはリクとナツに向かい合う。


「じゃ、計画を立てようか」



矢形の自殺の原因は経済的困窮と言うことに決まった。

女性関係だと、女性が疑われる可能性もあるので、リスクは低い方がいい。


経済的に困窮していることは事実なので、それを周知のこととなるよう図る。

まず、タニに銀行のシステムに侵入させ、矢形の預金残高をゼロにさせる。


さすがにゼロとなると、怒り狂った矢形が銀行に怒鳴り込むなり、手当たり次第に融資を頼みこんだりするだろう。


闇金のチラシを見える場所にちらつかせ、闇金に手を出すよう仕組む。

当然返すアテはないので、取り立てられる。

耐えかねて自殺する、という筋書きだ。


本当に自殺してくれば手間が省けていいのだが…こういう奴はしぶといからそれは期待できないだろう。


タニの操作が終わった。


ナツが矢形を尾行する。

やはり銀行に怒鳴り込みに行った。

窓口で大騒ぎをし、警備員に追い出された。


リクが街頭配布のフリをして、闇金のチラシを矢形に渡した。

矢形は、もらったチラシをじっと見つめている。

折りたたんでポケットに入れた。


闇金は実在する会社である。

実際に矢形から融資の申し込みがあれば、額を増やして貸し出してほしいと、手を回している。


融資を急がせるよう、コウはもう一つ手を加えていた。

投資だ。


先ほど怒鳴り込んだ銀行の銀行員になりすまし、消えた金を取り戻す、という形で話を持っていく。

タニに適当なサイトを作成させ、それを見ながら必ず儲かるので1千万円準備をするよう説得する。


銀行員の役はレイにさせた。

矢形は必死なので、何も疑わない。

ポケットからチラシを出し、電話をかけた。


闇金の窓口で、矢形は1千万円の融資を申し込んだが、投資が成功すればもっと大きな儲けになる、と促し、2千万円の融資をした。

矢形は喜び、レイに電話をかけ、金を預ける。


ここまででかかった日にちは、なんと2日。


金の亡者たるや恐るべし。

レイはすぐに闇金に2千万円を返済し、利息、及び礼金を渡した。



矢形は途方に暮れていた。

何日経っても銀行員から音沙汰がない。

預けた2千万円の一部でも返してほしい。


業を煮やして銀行に電話をかけるが、そんな社員はいないと言われた。

やっと気づいた。

詐欺にあったのだ。この私が。


最初から仕組まれていた。

冷静になって考えると、口座がゼロになるはずがないのだ。


どうする、警察に訴えて銀行を調べてもらうか、いや警察には関わりたくない、自分も叩けば埃が出ることは自覚している。


どうする、どうする…。

弟子たちに金を持ってくるよう言いつけたが、出かけたまま帰ってこない。

どうなっている…。


すると、玄関に人の気配がした。


「遅いぞ、金は?」

言いながら玄関に行くと、そこには弟子ではなく、闇金の取り立て屋が立っていた。


「金?こっちのセリフだ。最初の利息支払い日だぞ、わかってんのか、こら!」

矢形は震えた。


「わ、わかっています。すぐにお支払いします」

そう言って奥に引っ込んだが、払う金はない。

どうしよう、どうしよう…。


そうこうしているうちに、取り立て屋たちが玄関先で騒ぎ出した。

近所中聞こえるような大声で「金を返せ」と怒鳴っている。


「逃げるしかない」

矢形はそう決めて、身の回りのものを急いでまとめると、裏口から走って出て行った。


近くの駐車場に停めている車に乗り込むと走り出す。

どこに行くアテもないのだが、とにかくこの場から逃げなければならなかった。


リクとナツが車で矢形の後を追っていた。


こうして、自殺の『原因』は整った。


*****



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