ナツのご帰還
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来月、ナツがアメリカから帰ってくることになった。
半年くらいの予定だったが、少し早めのご帰還だ。
どうやらホームシックにかかったらしい。
少しの期間だが、リクと一緒に暮らしたため、寂しさに耐えられなくなったようだ。
基礎的な訓練は既に終わっていたので、あとは日本で、ということで社長が許可した。
やんちゃな割にはメンタル弱いな…それを聞いたコウは苦笑した。
しかし、リクは嬉しそうだ。
よかった。これから2人で支え合えるだろう。
(俺の楽しみはナツには奪わせないが)
コウは心の中では、ナツにライバル心を燃やしていたのだった。
社長とリクが、羽田空港にナツを迎えに行っている頃、コウは依頼を実行していた。
2日前、タニから依頼のデータが送られてきた。
「ターゲットは鵜飼みちる、インフルエンサーだ」
タニが説明を始めると、コウが
「流行りもんだな」
と嫌味を言う。
「ああ、そうだな。調子に乗ってる奴は多いからな、出る杭は打たれるってヤツだな」
タニも乗っかる。
2人とも、基本そういう女は嫌いなのだ。
私情と偏見である。
「まあ、簡単だな。アガタでもいけるだろうが、あいつも相手がこんなだと調子に乗ってしゃべり続けそうだからな。
コウさんがちゃちゃっと殺っちゃってください」
「オッケー。しかし、殺されるほどの恨みを買ってるのか、こいつ」
「ああ、それは確かだ。
人気があれば金もある。金があれば何でも解決できる。
ヤク、売春、恐喝、脱税、極めつけはライバルへの悪評の拡散ね。自殺した者もいる」
「よし、殺ろう」
ということで、ナツがご帰還する日に、コウはインフルエンサーを殺しに出かけているというわけだ。
鵜飼みちるの部屋はタワーマンションの最上階…ではないが、上の方だ。
コウは自宅の襲撃は諦め(面倒臭いので)、地下駐車場で待つことにした。
鵜飼の日常は決まっている。
昼頃動き始めるが、まずはサロンへ行く。
駐車場には13時頃降りて来る。
コウは鵜飼の真っ赤なポルシェ(これも気に入らない)の近くに車を停めた。
鵜飼がエレベーターホールから出て来るのが見えた。
鵜飼が車に近づくのと同じ速度で鵜飼の車の隣に停められてるベンツに近づいていく。
防犯カメラには後ろ姿しか映らない。
鵜飼がちらっとこちらを見る。
コウの容姿を見て、少し微笑む。
(媚びたような笑みだな)コウは思いながらも、こちらも感じのいい笑みを返す。
コウはベンツの手前で、車のキーを落としたふりをして、屈みこむ。
そしてホルスターからグロックを取り出すと、笑みを浮かべたままの鵜飼の眉間を撃ち抜いた。
ちゃちゃっと終わらせる。
サイレンサーをつけてはいるものの、地下では少し響く。
すぐに自分の車に戻り発車させた。
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会社に戻ると、ナツはリクと一緒に自宅へ帰ったということで、社長だけが戻ってきていた。
ナツの様子を聞くと、
「うん、ホームシックって聞いてたからちょっと心配してたけど、元気そうだったよ。
『迎えなんか来るなって言ったじゃん』って言って、早速リクから怒られてたよ」
と言って、社長が笑った。
コウも安心した。
「ナツは誰に任せるの」
コウが社長に尋ねる。
「それなんだよね、一番いいのはコウなんだけど…」
「却下」
社長が言い終わる前に、コウが答える。
「リクと2人見てもらうってのは…」
「却下」
またも遮る。
すると、タニがフォローする。
「さすがにコウも荷が重いって」
(タニ、グッジョブ)
コウが心の中で親指を立てる。
しかし、コウは甘かった。
「でも、ナツはリクと一緒の方が伸びるんじゃないかな」
タニが続けた。
以前、染谷との情報交換で忙しい時に、コウから「ドンマイ」と言われたことを忘れてはいなかった。
「そうだよね、じゃ、コウよろしくね」
社長が決定した。
タニが、
「コウ、ドンマイ」
と言って親指を立てた。
コウは(いつか埋める)と誓った。
翌日には、コウの子分が2人になったという噂が広まっていた。
人身売買のトップが警察庁の参事官だったという衝撃により、警察官を続けるも、警察一筋ではなくなったユゲが、あれからちょくちょく依頼に参加しており、そのユゲまでもが、
「いいじゃん、子分、私も欲しい」
と言ってコウがキレるのを楽しんでいた。
リクがナツを連れて出社してきた。
コウの部屋をノックし、コウが2人を中へ入れる。
リクはあれから晴れ晴れした笑顔を見せるようになっていた。
一方ナツは、居心地が悪そうに、ソファで胡坐をかいて座っている。
リクがナツの足をパシッと叩き、ナツがきちんと座り直す。
2人の関係が面白く、コウはしばらく様子を見ていた。
ようやくコウが口を開く。
「何故か、俺がナツの面倒も見ることになった。ナツ、文句は?」
「ないよ」
ちょっと不貞腐れた感じでナツが言う。
照れ隠しなのはわかっている。
「リクはもう一人前だけど、ナツは訓練途中でリタイヤした身だから、訓練を続けながら実践もしていくことになる」
コウが言うと、リクが、
「大丈夫だよ。ナツは俺より勘もいいし、運動神経もいいから」
そう言うと、ナツは
「そう…かな…」
と小さな声で頷く。
(リクの言うことは素直に聞くんだな)とコウは苦笑した。
「ということで、今は依頼がないから、走りにでもいくか」
コウが言うと、2人は元気に頷いた。
いつもの山でトレイルランニングをやった。
今日はコウが登りも下りも先頭を走った。
リクは苦戦しながらもついてきていたが、ナツが少しずつ遅れるので、休憩を入れながら下まで下った。
下の広場のベンチに座って水分補給をしつつ休憩をとっていると、山登りにきた女性たちが、皆3人をちらちらと見ていく。
何人目かの時に、ナツが
「何見てんだよ」
と息巻いて、リクに怒られた。
ナツはこの3人の顔面偏差値の高さに気づいていない。特に自分の。
(こいつ猫みたいだな、爪出てんぞ、尻尾もふくらんでるし)
コウがナツを見ながらほくそ笑み、
(俺は犬派だけどな)
と悦に入っていた。
「2周目行くぞ」
コウが言うと、ナツが顔を引きつらせていた。
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