リクのこと
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リクたちが船を800キロも離れた桟橋近くに着けたのは、翌朝9時頃だった。
被害者たちを船から降ろし、警察を呼び、パトカーのサイレンが聞こえるころには、再度船を出航させていた。
そこから300キロほど戻ったアリーナに船をつけたのは、もう日が西に傾きかけていた。
アリーナの職員に船を頼み、手配していた車に分乗し、帰路についた。
皆クタクタだったが、なぜかアガタだけはテンションが高く、皆アガタと同乗するのを拒否するのに必死だった。
結局リクとシキミ、ザビ、アガタの4人、タマキ、イオリ、オキ、レイの4人ずつに分かれた。
会社まで車で3時間。
最初ザビが運転し、途中でリクが交代した。
ハイテンションのアガタがしゃべり続けているのを、ぼーっとしながら聞いていると、途中から計画に加わっていたらしいことがわかった。
行方不明の間の話もしていたが、全く頭に入ってこなかった。
リクが、シキミとザビ、アガタの3人を途中で降ろし、やっと会社に到着すると、社長、タニ、ユゲ、そしてコウが出迎えてくれた。
皆が口々に「おつかれさん」と言うのを聞き、リクは一礼し「ありがとうございました」と言うと、コウの胸にもたれかかった。
限界だった。
コウはリクを自分の部屋のソファに寝かせた。
リクはたまにうなされながら、翌日の夕方まで眠り続けたのだった。
リクが目を覚ますと、コウがウーバーで取り寄せたご馳走をテーブルに並べていた。
「腹減ったろ、食おう」
コウは言って、リクに冷えた缶ビールを渡した。
「まずは、お疲れ」
コウはそう言うと、リクがぼーっとして手にも持たされたままの缶ビールにコンと自分の缶ビールを当てると、グイグイ飲み始めた。
リクもやっと頭が回り始め、缶ビールを開けると、グイグイ飲んだ。
そこで初めて、喉が渇いていたことに気づき、次にすごく腹が減っていることにも気づいた。
目の前に並べられた料理を次々に摂っていく。
コウも一緒に食べた。
途中で「足りないな」とコウが言い、追加でいろいろ注文した。
2時間ほどでやっと腹が満たされると、リクは急に体が回復したような気がした。
「よく食ったな」
コウが満面の笑みでそう言うと、リクも
「はい、なんだか久しぶりに思いっきり食べたような気がします」
といって、笑った。
楽しかった。極上といっていいほどの満足感があった。
コウは何も聞かなかった。
知る必要はないと思っていた。
リクを信じているし、何よりここに戻ってきて笑っている。
十分だと思っていた。
コウは何も聞かない。
ドローンのモニターで見ていただろうから、リクが染谷と対峙したことは知っている。
リクは話したいと思っていた。
全て、自分と染谷、いやリュウさんとの関係も、全て話したいと思っていた。
リクが口を開く。
「コウさん、俺、話したい」
コウが優しく答える。
「聞くよ。リクの話なら、何でも」
リクは話し始めた。
幼い頃から両親に虐待されていたこと。
両親が男たちを家に呼んで、自分にさせていたこと。
金に困って、自分を売ったこと。
そこでナツと出会ったこと。
そしてリュウに出会い、優しい言葉をかけてもらったこと。
ナツやリュウと離れ離れになったこと。
毎日ホテルで違う男の部屋へ行かされていたこと。
ある日ホテルの廊下で社長に声をかけられて助けてもらったこと。
コウの話をたくさん聞いたこと。
そして、昨日リュウと再会し、話したこと。
コウは何も言わずに話を聞いていた。
リクはずっと自分の手を見ながら話をしていたが、話し終わると、そっとコウの顔に視線を合わせた。
コウの視線と合う。
「ありがとな、話してくれて」
コウはそれだけ言うと、リクを抱き寄せ、背中をずっとさすっていた。
慰めの言葉もない。
励ましの言葉もない。
そんなものは意味がないことをコウは知っている。
リクは心の中の靄が消えていくのを感じていた。
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