「会社」
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「会社」は図書館の奥にあるコウの部屋の、廊下を挟んで反対側の一番奥、つまりコウの部屋から一番遠いところにある一室。
そこはコウの部屋の四倍ほどの広さがあり、社長と他の部署が混在している。
他の部署とは、管理部、総務部、調査部。
管理部は、依頼の受付、人材の配置、仕事の進捗の確認、完了の手続きなど。
総務部は依頼者への請求書の作成、送付、依頼遂行者や社員への報酬の計算、振込、未払いの報酬の回収など。
調査部は依頼の内容の調査。これが一番重要である。
調査が不十分では間違ったターゲットを傷つけたり、誘拐したり、拷問したり、殺したり…。
「あ、ごめん、間違ってた…てへ」では済まされない状況になってしまう。
また、その依頼が合理的なものかどうかの判断も重要である。
この会社は非合法な依頼を遂行しているし、正義の味方というわけではない。
しかしさすがに、皆人並みの半分ほどの良心は持ち合わせている。
全く罪のない人間を傷つけることはしない。
依頼は基本顧客を通してくる。
世間に広く知られているはずもなく、選ばれた顧客のみが依頼をすることが可能である。
管理部が依頼を受けると、次に調査部に依頼書がまわされる。
調査部は、頭が切れて、判断力があり、しかも情報を深く探ることができるブラックハッカーが一人で担っている。
調査した情報は社長に上げ決裁が下りる。
それを管理部が依頼の内容ごとに遂行者を決める。
遂行者は、コウのように殺しの専門家が何人か、他にも誘拐、拷問、恐喝、清掃と専門家がそれぞれおり、依頼の難易度に応じて管理部が振り分ける。
管理部は、それぞれの専門家の能力を把握しており、依頼を振り分けるのに間違うことはまずない。
前回の笠原の案件のような、話を聞きだすという付随業務があり、殺しの難易度だけでは判断ができない場合は社長と協議する。
イレギュラーな内容の際は、管理部だけで判断しては危険だからだ。
なにせ管理部もベテランとはいえ一人しかいないのだから。
そして遂行者に依頼を任せ、おおよその完了の時期を打ち合わせし、長引くようであれば途中に進捗を確認し、依頼者へ報告をする。
依頼が完了すれば、報告書を総務部へ回す。
総務部は書類を確認し、依頼者への請求書を作成し、遂行者へ報酬を振り込む。
依頼者からの支払いが遅れることはほとんどないが、1日でも遅れた場合は、恐喝の専門家の出番となる。
というわけで、会社といっても部署が3つ、社長を除けば社員は3名という、実にアットホームな会社である。
図書館の奥には会社が使っている広めの部屋の他に、9つの小部屋がある。
コウが使用しているのと同じ広さの部屋で、それぞれの専門家が使ったり、使わなかったり。誰がどこの部屋を使っているかは、社長と管理部しか知らない。
その部屋の大きなソファに座り、コウは煙草を吸いながら、数日前に遂行した仕事のことを考えていた。
初めて会ったリクという男。
少年みたいな見た目だったが、さすがに社長が未成年に殺しをさせるはずはない。
20歳は超えているのだろう。
仕事が終わり、しばらく車を走らせてから、人目につかない駐車場に車を停車させると、コウはリクに向き合った。
「よくやったな」
コウが穏やかな口調でリクに言うと、リクはうつむき加減のまま、
「ありがとうございます」と小声で言った。
「チェンソーを使わなかったのは、なぜ?」
コウが尋ねると、
「…あの…あんまり血が出たら、清掃の方が困るかと思って」
リクは言いにくそうに言う。心なしか耳が赤くなっている気がする。
「そう」
コウは黙って首をかしげ、右手でリクの前髪をすかすように触る。
リクは一瞬、こわばった顔を跳ね上げたが、すぐにまっすぐにコウを見返した。
コウはそのまま手をリクの左の頬に這わせて口を開いた。
「君は今日、笠原を拉致した。そして手足と目の自由を奪って脅した、ね」
「はい」目を見開いたまま、真っ赤になったリクがうなづく。
「でも、拷問もしていないし、殺しは俺がやった、よね」
リクは、コウが自分を責めているのかと思い、答えることができなかった。
少しの間、コウは黙ってリクの反応を楽しむ。
相変わらずコウの右手は、リクの左頬に触れている。
「あの…すみません。できますと言っておきながら、結局中途半端な仕事をしてしまい…」
「違うよ」
コウがリクの言葉を途中で優しく遮る。
「俺が言いたいのはね、まだ大した罪を犯してないんだから、引き返せるよ、ってこと」
リクは驚き、ますます目を見開いてコウの顔をじっと見つめる。
自分は何を言われているのか、何と答えたらいいのか、全く予想していなかった言葉をかけられ、頭が真っ白になる。
「君が自分で考えて選んだ道を、俺がどうこういうつもりもないし、関係ないし、惑わすことを言ってるのかもしれないけどね」
コウはゆっくりと続ける。
「覚悟を決めるにはまだ若い気がしてさ」
そういうと、話は終わったとばかりに手をリクの頬から離す。
リクの目がちらっと名残惜しそうに、コウの手を追う。
コウの目が車の外に何かを捉えたが、何も気づかないふりをしてハンドルを握る。
そのあとは二人とも何も話さず会社へ戻った。報告書はリクに頼み、コウは自室へ、リクは社長の元へ帰っていった。
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