リクの拷問
今回から、毎日午前9時に投稿します。
癒しのところもあるので、是非お読みください。
急に「ギーーーーーン」という音が静寂を破り、笠原の耳元で鳴り響いた。
「うわーーーっ」
笠原が泡を食ったようにのけぞり、パイプ椅子ごとひっくり返った。
「ギーーーーーン」
「ガッ、ガッ、ガッ」と音が鳴り続ける。
「笠原くん、これチェンソーの音だよ」
リクが同じ調子で話す。
「これはね、笠原くんの手を切れるし、足も切れる。もちろん話を聞かなきゃいけないから、殺すまではしないよ」
笠原はパイプ椅子に固定され、ひっくり返ったまま音のする方から少しでも離れようともがいている。
「お、脅してもダメだ…俺は何も知らない、話すことなんてない…」
股間を濡らしながら笠原が、一応の抵抗を試みる。
コウは「うん、まあ、こうなるよな」と頷きながらじっと見ている。
「じゃあ、手からいこうかな」リクは言いながらチェンソーの動きを止めぬまま床に置き、ペットボトルの水とスタンガンを両手で持つ。
笠原が後ろ手に拘束されている手をかばうように音に向かって前を向く。
リクは笠原の左足のズボンの上からペットボトルの水をこぼし、すかさずスタンガンを押し付けた。
「うわーーーーーーーーっ」
笠原が大声を上げてのたうち回る。感電した足を、チェンソーで切られたと錯覚したのだろう。
「手…手からっていったじゃねえか…」
苦しそうに喉から絞り出した声が早くも限界を感じさせる。
「だって、手は届かなかったからさ。」
「じゃあ、今度こそ手をやるから動かないでね。首なんて切ってしまったら死んじゃうから」
笠原は既にパニックになっており、足がちゃんとくっついていることに気づいていない。
コウは「バカか、こいつ」と言わんばかりに眉間にしわを寄せて眺めている。
「ほんとに、ホントに知らないんです…」
笠原が話し始めたが、チェンソーの音は止まらない。
「じゃあ、何を知ってるの」
リクがチェンソーを笠原に近づけながら訪ねる。
笠原は本能でチェンソーの音から離れようと、尻を後ろに引きずりながら続ける。
「警官にツテがあるっていう先輩がいて…その人に頼めば被害届とかなかったことにしたり…傷害で逮捕されても拘留中にどうにかしてくれて…」
「ふーん、よく知ってるじゃない、名前は?」
リクが尋ねる。
「それより…先に止血をしてくれねぇか、さっきから出血がとまらねえ…フラフラしてきた…」
笠原が喘ぎながら懇願する。
「名前を言ったらすぐに病院に連れて行ってあげるよ」
血は出てないけどね…コウが苦笑する。
「先輩の名前は…イナバ、イナバツヨシ…頼むから俺から聞いたって言わないでくれ…」
アホか、すぐにバレるに決まっている…コウがため息をつく。
「警官は?」リクが重ねて尋ねる。
「警官は知らねえ、俺は会ったこともねえ…本当だ」
「でも、ただでそんなことやってくれないよね」
リクが尋ねたが、笠原は肩で息をし、架空の傷で失神寸前の状態だった。
「ハコビ…ヤ…」笠原はそれだけ言って気を失った。
*****
笠原が次に目を覚ましたのは山の中の細い道の真ん中だった。
あれから何時間、あるいは何日経ったのかわからないが、夜だった。月明りもなく、あたりは真っ暗だが目も手足の拘束も外されていた。
「あ、足!」
笠原は切り落とされたはずの左足を見下ろす。
「ある…足が…ある」
夢だったのか、とぼんやり考えていると、暗闇に目が少しずつ慣れてきた。
と、一人の若い男が急に現れ、すぐ近くにしゃがみこんで笠原の顔を覗き込む。
夢じゃなかった…笠原の額にどっと汗がにじむ。
「見返りに何を提供していたのか、まだはっきり聞いてないんだよね」
やっぱりあの声の主だ…笠原は力が抜けたようにうつむく。
「運び屋をやらされた。いろいろな大きさの段ボールを指定の場所から場所へ移すだけ。中身は知らない。ヤクだろうと思ってはいたけど聞いたことはない。
その都度場所が変わって、運んだらそれで終わり。
先輩が自宅のポストにメモの入った封筒を入れて、読んだら燃やして…電話やメールはなしで…」
「ふーん、もういいよ。だいたいわかった」
リクが答えると、笠原は心から安堵したように肩を落とした。
「もう解放してくれるんだよな」
懇願するように笠原がリクを見上げる。
「そうだね、歩けるでしょ」
リクが言うと、笠原ははっとしたように、ゆっくりと立ち上がった。
リクはそれを確認すると山道を登る方へ歩いていく。
笠原はリクと反対方向へ、とぼとぼと歩き出した。怖くて振り返ることはできない。
とにかく何時間かかっても、山を下りさえすれば何とかなる…そう考えていた。
リクは、少し先に停まっていた車の助手席に乗り込んだ。
コウがエンジンをかけ、車はヘッドライトもつけずにゆっくり発進した。
とぼとぼと歩いていた笠原が、後ろから近づく車の音に気付いたのと、コウがアクセルを踏み込んだのはほぼ同時だった。
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