コウとリクの出会い
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数日後、笠原洋平の自宅前。
コウと助手のリクが黒いミニバンの運転席と助手席に並んで座っている。
笠原の自宅は両親と同居している2階建ての一軒家。
築20年ほど経っていそうな、ごく普通の家だ。
この日コウは初めてリクと顔を合わせた。
リクの情報は社長が敢えて伏せており、コウの判断でうまく使え、と言われている。
リクはこの仕事をするには若く、10代といってもいいほど幼く見えた。
背はコウより低く柔らかそうな髪は少し長め。
顔は中性的というか、雰囲気がふわふわしていて、やはりこんな仕事をするようには見えない。
会ってすぐに「よろしくお願いします」と小声で言い、頭を下げた。
緊張しているのか表情がなくつかみどころがない。
何ができて、何ができないのか、そういった情報もないのでとりあえず今日の段取りを説明してみる。
まず、笠原が帰ってきたところを昏倒させ車に乗せる。
会社が持つ山小屋へ運び拘束する。
あとは聞き出すべきことを聞き出したらひき逃げを装い殺す。
以上。
「簡単でしょ」コウが言う。
「はい」リクが答える。
ほう、とコウは考える。
「じゃあさ」コウが真顔で尋ねる。
「1人でもできる?」
意地悪や試すつもりで言ったのではない。なんとなくできそうな気がしたのだ。
リクはまっすぐ前を見つめたまま「はい」と答えた。
やっぱりね。
コウはリクの肉体的な力量はわからない。
服の上からでは筋肉の付き具合はわからないし、見るからにムキムキでもないし、首や指はとても細い。
だから、今回の仕事をどのようにこなすのか非常に興味がある。
これで段取りをいちいち聞き返されたり、「1人ではちょっと…」などと言われていたら、リクの命はもうすでになかっただろう。
運転だけは自分がする、ということで話を終え、2人は笠原が帰ってくるのを待った。
それから2時間、午前1時を回ったところで1人の影がこちらに近づいてくるのを確認した。
リクは笠原が自宅の門に手をかけると同時に車から滑り出た。
笠原は特に慌てる様子もなく後ろを振り返る…までもなく、リクは笠原の首の後ろに手刀を落とす。
コウは車のエンジンをかけ、少し前進してちょうどいい場所に停車する。
リクは前に倒れる笠原の体を支え、車の後部座席のスライドドアを片手で開け、笠原の体を投げ入れるように押し込み、自分も乗り込む。
コウは面白そうにそれを確認すると、静かに車を発進させた。
こうして笠原の影を確認してから1分もかからずに拉致は完了した。
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会社が持つ山小屋は、県境の山の中腹から一見道がなさそうな道を3キロほど入ったところに立っている。
まさに「山小屋」で、周囲は雑草で覆われている。
ドアを開けると6畳ほどの広さの部屋が1つ、右奥にカーテンで仕切られた2畳ほどの荷物置きに使用されている部屋が1つ。それだけ。
山小屋の前に車を停めると、リクがすぐに笠原を引きずり出す。
コウは山小屋の鍵を開け、荷物置き用の部屋からパイプ椅子を3脚とりだし、適当に並べる。
リクはその1つに笠原を座らせ、コウが差し出した結束バンドを使って笠原を拘束した。
「さて」パイプ椅子の一つに腰を下ろし、コウが口を開く。
笠原はまだ目を覚まさない。リクの手刀がよほど強かったのだろう。
「どうやって口を割らせるの?」
リクは少しうつむいて自分の手を見る。
「あの…」リクは気まずそうに自分の手をじっと見つめたまま小声で答える。
「拷問ってやったことがなくて…でもやろうと思えばできると思うんですけど…社長は『自分が思った通りにやればいい』って言ってくれたので…自分流にやってみようかと思っていて…」
「つまり?」唇の右側を少し上げてコウが尋ねる。
リクは荷物置きの部屋へ入り、しばらくゴソゴソと探ったのち、布とチェンソーと空のペットボトルをもってきた。
まず、布で笠原の目を覆う。
次に外に出てペットボトルに水を入れてくる。
最後にチェンソーのコードをコンセントにさす。
そして自分のポケットからスタンガンを出して空いている椅子に置く。
準備が整ったようだ。
チェンソーを出してきたことを意外に思い、コウはリクの顔をじっと見る。
こいつ…見かけによらず残忍なのだろうか。
相変わらず表情がなく、何を考えているかわからない。
先ほどの拷問に関する回答を聞いても、まだ把握できない。
感情がないのではなく、切り離すことができるのだろうか。
表情がないのは感情を表に出すことに慣れてないから。
自分に何ができるかは無意識にわかっているようだ。
能力は先ほどの拉致の手際をみると明らかだった。
コウはそう分析した。
あとは…。
「殺し」とは違って「拷問」は難しい。
サイコパスでない限り、感情が少なからず邪魔をする。
コウは「殺し」が専門なので、それに付随する行為はやるが「拷問」はなるべくやりたくない。
「殺し」と違って、必ず成果が出るとは限らないし、時間がかかる。
リクが今どんな気持ちで笠原が目を覚ますのを待っているのか、コウはリクから目を離さずじっと見つめていた。
「ううっ…」
笠原の口からうめき声が漏れた。
しばらく待っていると意識がだんだんはっきりしてきた様子で、左右に首を回す。
目を覆われているので周囲は見えない。
誰もいないのか、誰かいるとしたら何人いるのか、自分はなぜこういう状況に陥っているのか…。
疑問を口に出すことができず、笠原は考えた。
今までやってきた悪業に心当たりはある。1つや2つではない。いつか復讐されるかもしれないと考えないではなかった。
しかし…。
自分はこういう状況に陥らないはずだ。なぜならあの人が…あの人がついているから。
そうだ、あの人がいる。
今回もなんとかしてくれるはず。
そう考えがまとまると、笠原は気持ちが大きくなり大声で怒鳴った。
「おい!誰かいるのか!」
「俺が誰かわかってやってんだろうな!」
「このまま俺を帰せばなかったことにしてやる。まずはこの目隠しをはずしやがれ!」
パイプ椅子が倒れるほどの暴れようで怒鳴り散らす。
「おい、こらっ…」
次の啖呵を吐き出す前に、リクが笠原の腹に拳をめり込ませた。
笠原は誰かいるかどうかもわからないまま怒鳴り散らしていたため、急な痛みに体を丸め、嘔吐する。
そしてリクは、今度は笠原の首を右手でつかみ押さえつける。
息ができなくなった笠原は死の恐怖を初めて感じる。
笠原が失神する寸前、リクは右手を離し、苦しそうに喘ぐ笠原に向かって、低い声で淡々と、ささやくように話しかける。
「君が罪を逃れてきた方法を知りたいんだ」
笠原は自分の喘ぎ声の間からかすかに聞こえた声を必死で拾い、その言葉の意味を脳に押し込む。
「罪を逃れてきた方法…?」
そんなこと…そんなことは話せるわけがない。
話したら刑務所行き、いやその前に命がない。
「知るかっ」笠原はかすれた声で、しかし今できうる限りの強い口調で答える。
そんな笠原の声は弱い者の強がりにしか見えず、コウは蔑む目で笠原を黙って見ている。
「その方法を話すまで、君はここから出られないよ」リクはもう一度淡々と話す。
その声が、聞きとりにくいほど小さく、また若い人間のものだということが、笠原には救いに感じられていた。
その時、
急に「ギーーーーーン」という音が静寂を破り、笠原の耳元で鳴り響いた。
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