ミズキ本領発揮
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『人間狩り』の依頼が全て終わった。
その後、染谷とタニとの情報交換は続いているようだが、実行するところまでには至っていないようだ。
人身売買については、組織は複数ある。
それらは横の繋がりはなく、それぞれでやっているらしい。
中国、インドなどのアジア各国、アフガニスタン、中東など、関与している国も多い。
それらを全て排除するなど、到底無謀としか言いようがない。
染谷には具体的なターゲットがあるように思える。
そこを叩くとして、何か変わるのか。
いや、きっと変わることなどは望んでいないのだろう。
そこまで浅はかではない。
では…。
コウは考えれば考えるほど、リクたちが巻き込まれる気がして嫌な気分になるのだった。
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タニは疲れていた。
通常の仕事に加えて、染谷への『協力』と言う名の強制労働。
社長に、今だけ優秀な人材を雇ってほしいと懇願したが、仕事が仕事だけに、ただハッキングが得意なだけでは雇えない。
「刑務所あたりにいませんかねー、良識のあるブラックハッカーとか…免責を条件に協力させる、とかさ」
タニが苦し紛れに社長に問う。
「映画の見過ぎだよ」
社長はあっさりとスルーする。
しかし、社長も一応探してはいた。
タニが限界に近づいていることは承知している。
実は心当たりがないではなかった。
ただ、うちの会社の仕事を引き受けてくれるとは思えないのだ。
「どうするか…身元は心配ない…しかしなぁ」
しばし考えてから、社長は心を決めた。
しかし上手くやらなければならない。根回しするか、直接行くか…。
まだまだ社長は悩むのであった。
コウの部屋に社長が尋ねて来るのは珍しいことだった。
用事があれば電話かパソコン越しに話はできる。
つまり、何か良からぬ相談ということだろう。
コウは社長の殊勝な面持ちを見て、コーヒーを淹れて差し出す。
「何、やらかしました?」
コウが聞く。
「まだやらかしてはない」
社長が答える。
「タニが限界にきてるからさ、応援を頼みたい奴がいるんだけどね」
「あー」
コウは察した。
「もしかして、あいつですか」
「うん、どうアプローチすればいいかと思っててね」
「無理じゃないですか」
コウがあっさり否定すると、社長が泣きそうな目でコウを見る。
「いや、そんな顔して有効なのはリクくらいですって」
「しかし、このままではタニが死んでしまう」
「その前にバックレるでしょうね」
コウが他人事のように言う。
社長が、あわあわと口を動かす。
さすがに可哀そうになり、コウが提案する。
「ミズキに話もっていかせたらどうですか?
女ならイチコロでしょう。
あと、正義のためとかなんとか口八丁でさ」
「ああ、ミズキか…そうだね、やってみる価値はあるかもしれないね」
他に何も思いつかない社長は、すぐにコウの案に乗った。
うまくいくかどうかは全くわからないが、ミズキの全力の美麗と耳元へ正義を囁けばなんとか引き込めるかもしれない。
賭けである。ダメ元で…。
早速社長はミズキを呼び出した。
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ホテルの雰囲気のいいレストランで、ミズキはある女性と向かい合っていた。
女性は髪をベリーショートにし、ピアスをいくつもつけていた。
化粧っけはなく、ボーイッシュな感じでパンツスーツにスニーカーを履いている。
女性はこういう雰囲気にあまり慣れておらず、傍目にもわかるほどソワソワしている。
ミズキは、一寸の隙もないスーツ姿、後ろでさり気なく結わえた柔らかそうか髪、手入れの行き届いた爪、そしてグラスを持ちあげる仕草の一つ一つが美しく、女性の目はその姿から目を話すことができずにいた。
なんとか食事を終え、ホテルの上の階にあるバーに2人は移動した。
しばらく雑談をし、女性がやっと本題について触れてきた。
「私なんかを誘っていただいて、どういうお話なんでしょうか」
女性は固い喋り方をする。
ミズキは女性の気持ちを解すような微笑みを浮かべ、
「すみません、なんだか怪しいですよね」
女性は、失礼なことを言ってしまったかと思い、慌てる。
「あ、いえ、そんなつもりでは…」
「いいえ、いいんですよ。そう思われるのも当然です」
「今からお話することは、他言無用でお願いできますか?上司にも」
女性は少し目を見開いて、それから
「はい」と答えた。
「今、私たちの会社では人身売買についての情報を集めています。
何故集めているのか、集めた情報をどうするのかは、まだ言えません。
私たちの会社には情報のプロが少ないんです。
外部に協力者はいますが、それだけでは全く足りない。
会社の者は、ダウン寸前です」
そう言ってミズキは、困ったように笑った。
女性は黙って聞いている。
「それで、優秀なあなたにご協力をいただけないかと、こうしてお願いに上がったわけです」
女性は、既に予想していたのか、頷きもせずに黙ったままミズキを見ている。
「もちろん、あなたの所属は存じ上げています。だから、民間の、しかも私たちのような会社に協力をするなんて、非常識極まりない、ということは重々承知しているんですよ」
ミズキはゆっくりと続ける。
「ただ、これは会社に依頼があったわけではないので、金銭目的でも、犯罪を目的としたものでもない。もちろん、われわれのようなものが社会正義なんていうつもりもありませんがね」
ミズキは、女性の心に染み込むように、言葉を切った。
しばらく考えて、女性が口を開いた。
「私が協力するということは、私も非合法なハッキングに手を染める、ということになりますか?」
ミズキは答える。
「はい、そうなります」
「それでも、私に協力を仰ぐ理由はなんですか? 他にも優秀なハッカーは大勢います」
はっきりさせておきたいのは、そこか、とミズキは思いながら、
「信用できるからですよ」
と答えた。
「私は…職を失うかもしれません。リスクがとても大きい」
何かを続けそうな気がして、ミズキは待った。
「しかし…人身売買となると…。それは、警察に任せることはできないことなのでしょうか」
おそらく最後の質問だろう。
ミズキは答える。
「警察は、証拠がないと動けません。
証拠を集めているうちに組織はすぐに動きます。まるでスライムのようにね」
ミズキが続ける。
「先日、山の中のログハウスで『人間狩り』の被害者たちが保護されたでしょう。
あの日、誰かが動かなかったら、13人は無残に殺されていた。そして行方不明者として、残された家族は一生彼らを探し続けたでしょうね」
女性はハッとしてミズキの顔を見据えた。
「少しだけ、少しだけ考えさせていただいてもいいでしょうか」
「もちろんです。でも、時間がありません。
明日までにお返事がなければお断りと理解します。
その場合でも、あなたを信用していますので、身の安全は保証しますから、ご心配なく」
ミズキは悪戯っぽく笑って、女性を安心させた。
女性と別れた後、ミズキは社長にメールした。
『明日返事。たぶんOK』
受け取った社長はホッとした。
ミズキの本領発揮か。
すぐにコウに連絡し、お礼を告げたのだった。
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