ナツ
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リクがなぜナツのことを思い浮かべたのか、それは直感というしかなかった。
本当にナツが真を連れ出したのだとすると、誰かに命令されている可能性が大きい。
そうでないとナツが何を考えて行動しているのかわからない。
今のナツの仕事やナツの立場、李との関係性…そういうこと全てがわからないことには、ナツの考えは予測できない。
(でも…でも…)
リクはナツが子供を傷つけるような人間になっているとは考えたくなかった。考えられなかった。
今は、早くナツに会いたい、リクはそれだけを考えていた。
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ナツのマンションまではひまわりの家から車で30分程かかった。
近くに車を停めると、コウが言った。
「リク、一人で行ってみる?」
リクは少し考え、「はい」と頷いた。
「真もナツも狙われてるかもしれないから気を付けてな」
リクは強く頷くと、マンションに入っていった。
リクは階段でマンションの2階に上がると、ナツの部屋のインターホンを押した。
応答はない。
ノックをし、そっと呼びかける。
「ナツ、俺、リクだ。いるんだろ」
何も返事がない。
「ナツ、俺一人だから…開けて…」
リクが再び呼びかけると、ドアがそっと開いた。
ナツが無表情の顔を見せる。
リクはホッとして顔を緩ませる。
「ナツ…」
リクは何も言えずにその場に立っていた。
ナツがドアを少し大きく開いたので、リクは中へ入った。
入ってすぐ廊下があり、その先に部屋がありそうだ。
「もしかして、真くんもいる?」
リクは小さい声で聞いた。
ナツは頷き、部屋を指さした。
「入っていい?」リクが尋ねる。
ナツはまた頷く。
リクは靴を脱いで、部屋の奥に入っていった。
そこはワンルームで、あまり家具がなく、畳まれた布団が一組と、小さいテーブルが一つあるだけの部屋だった。
部屋の中央にラグが敷いてあり、そこに子供が一人座って絵本を読んでいる。
テーブルの上にはお菓子やペットボトルのジュースがおいてある。
リクはなんだか安心して、部屋の入口に座り込んだ。
ナツはリクの後ろに立ったまま、
「なんでわかったの?」と聞いた。
リクはナツを振り返って見上げると、
「勘」と言った。
絵本を読んでいた真がリクに気づき、ニコリと笑った。
「あ、交流会の時のお兄ちゃんだ」
リクが「よく覚えてたね」と言うと、
「うん、おじいちゃんと一緒にいたでしょ。二人とも優しそうだったから覚えてた」と言った。
しっかりした子だ。リクは思った。
真はそれだけ言うと、絵本の世界に戻っていった。
リクはナツに、
「よく連れ出せたね」と言うと、
「前も会ったことがあったんだ。李に様子を見に行かされた。
その時にこの子のお父さんも一緒に少し話したから」とナツが答えた。
「この子、どうするつもりなの」
リクが小さい声で聞いた。
ナツは無表情ながら、困ったように見えた。
「わかんない」
「だれかに頼まれたの?」
「いや」
二人は真に聞こえないように話し合った。
「あのさ…」リクが言う。
「ナツはこの子のこと、保護しようと思ったんじゃないの?」
ナツの顔が少し泣きそうに歪んだ。
「この子、殺されるか売られる…」
(やっぱり…)リクが想像した通りだった。
ナツは優しかった。やっぱり変わっていなかった。
自分だって危ないくせに、赤の他人の子供を保護しようなんて…。
リクは思った。
(ナツは真と自分を重ねたんだ)
リクは言う。
「真くんはひまわりの家にいた方がいいと思うんだ。お友達もいるし、スタッフの人たちも親切だし」
「でも!」ナツが声を荒げた。
真がこちらを見る。
リクが安心させるように微笑むと、真はまた絵本に顔を向けた。
「わかってる。運営者の久住でしょ。その人、コウさんが殺ってくれる」
リクはさらに声を潜めてそう言った。
「そしたら、もう真くんに手を出す人はいない」
「本当に?」
「本当に」リクがナツを安心させるように答える。
ナツはしばらく黙って考えている。
リクが言う。
「この前見かけただろ、俺のこと。
あの時、李を狙撃した」
「うん、気づいてた」ナツが答える。
「ごめん、大切な人だった?」リクが尋ねる。
ナツは少し間を置くと、
「いや、違う。あの人は俺を買った。仕事を教えてくれて、金をくれて、大事にされていたけど…。
やってることは前と同じ…生きているか死んでいるかわかんなかった…」
リクは喉が詰まった。
ナツはまだあの地獄の中にいた。
駄目だ、ナツは…ナツは幸せにならなければならないんだ。
リクは声を振り絞った。
「ナツ、俺今コウさんっていう人について仕事を覚えてるんだ」
それから声を潜めて「殺し屋だけど」と言った。
ナツはリクの横に座った。
リクは続けた。
「今の会社の社長に出会って、コウさんから仕事を教えてもらって…。
あの頃、リュウさんがさ「生きろ」って言ってくれたの覚えてる?
俺さ、今、生きてきてよかったって思ってるんだよ」
更に続ける。
「でもさ、俺だけじゃ駄目なんだよ。ナツも…ナツにもそう思ってもらえるようにならないと…。
ナツは李さんがいなくなったから、自由になれるの?」
リクが聞いた。
ナツは首を横に振る。
「わからない。でも、李の後を引き継いだ人たちが、俺を追ってくるかもしれない。会社のことよく知ってるから…」
ナツの声が消え入りそうになる。
「ナツ、俺と来ない?」
リクはナツの手を取って言った。
「俺のアパート狭いけど、一緒に暮らそう。仕事も社長やコウさんに頼んでみる。
殺し屋以外にも、他の仕事もあるんだ。
それに…きっとみんなでナツを守ってくれる」
リクは自信があった。
コウさんならきっと…。
ナツはもう泣きだしていた。
きっと1人で不安だったのだろう。
真が驚いてこちらに来た。
「どうしたの、お兄ちゃん…」
真がナツとリクを交互に見ながら心配そうにしている。
「お兄ちゃんたちはね、久しぶりに会ったから、すっごく嬉しいんだ。だから、こっちのお兄ちゃんは嬉しくて泣いちゃったんだ」
リクが言うと、真はナツの背中を撫でながらニコニコしていた。
リクはナツの返事を待たず、コウに電話をかけた。
「コウさん、今ナツと真くんと一緒にいます。
スピーカーにしていいですか?」
「いいよ」コウが答える。
「真くんは元気です。ナツは真くんを保護しようとして連れてきたそうです。
それで…真くんを園に返そうと思うんですけど…」
リクがそこまで言うと、
「オッケー、わかった。
3人とも腹減っただろ。なんか食ってから戻って来い。
それまでに終わらせとくから」
コウはそう言ってから続けた。
「あ、その部屋の外に倒れてる奴らがいるから、躓かないように気をつけろよ」
「あと、リク、それからナツ…」
ちょっと間をおいてコウが続ける。
「大丈夫だから、安心して帰って来いな」
そう言って、コウは電話を切った。
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