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李狙撃の日(後編)

*****



コウはホテルの近くで待機していた。



李が出てきたところも見ていたが、何事もなく車に乗り込むのを確認すると、リクからすぐにメールが届いた。


やはりドアマンが邪魔だったか。



「仕方ない」とコウは呟き、「OK」と短くメールを返すと、一度その場を離れた。



一度会社へ行き、社長に進捗を報告する。


社長は「ごくろうさん」と言ったあと、何か言いたげにコウを見る。




「なんだよ」コウが尋ねる。


「あのさ…」気まずそうに社長が言い淀む。


「前に藤宮の件で罠に嵌められたことあったろ」



「ああ、リクを人質にとった卑怯な奴らね」

その時のことを思い出しながらコウが語気を荒げて答える。



社長もその時はタニや調査部に当たり散らしていたが、結局自分の責任ということで、かなり反省していたらしい。


「その時の殺し屋の2人組、他でもルールを無視した仕事が多いらしくてさ、リクのような目に遭った殺し屋がいるんだってさ。


それが目をやられて失明したってんで、その会社の社長から依頼がきた」



「俺がやる」


間髪入れず、コウが答える。



社長がさっきまでの気まずそうな雰囲気はどこへやら、

「ふふっ」と笑うと


「そう言うと思った」と嬉しそうに笑った。



*****



同日、夜19時。


コウはホテルの近くに戻ってきていた。



その間、何度かリクと電話で話し、リクの集中力が途切れないよう気を付けていた。



20時20分。


白のBMWがゆっくりとホテルの入口に入ってきた。




リクは気を引き締める。


ライフルのスコープを覗きこみ、チャンスを窺う。



ホテルのドアマンが近づき、車の後部ドアを開ける。




李が出てきた。


李が歩き出す。




ドアマンが車のドアを閉める。




李の後頭部がはっきりと見える。




リクは引き金を引いた。


「パン!」




リクの耳には驚くほどの大きい音が響いたように感じた。


「当たったか」リクはスコープで覗き込む。


李が倒れているのが見える。




ドアマンが慌てている。


車の運転席から若い男が出てくるのが見えた。


若い男が李に駆け寄る。




李を確認すると、周りを見回した。


リクははっとして身を隠す。



そしてリクは固まった。

すぐにその場を立ち去らなければならないのに、動くことができなかった。



「ナツ…なんで…」

リクが呟く。



やっとリクの頭が働き始めたのは、おそらく1分くらい経った頃だっただろう。

その間とても長い時間に感じたが、その後は素早かった。


ライフルを分解しリュックに収めていると、コウからメールが届いた。


「李は死んだ。まだそこは見つかってない。早く出ろ」



リクはホッとし、ドアの前で人の気配がないのを確認してから廊下に出た。


非常口の内階段を下りながら、李の運転手をしていた若い男のことを考えていた。


10年以上会っていないけど、あれは確かにナツだった。

面影が…あの綺麗な顔は…絶対に…

生きていた…よかった…。


非常階段を降りると裏口から出る。


そこには運転席に座るコウが待っていた。




裏道を通り、ホテルから遠ざかる。


しかし、最初の交差点でホテルの方から走ってくる人影があった。


リクはハッとした。




ナツだ。




狙撃手が近くにいるとわかって探しに来たのか…。


コウが気付いて素早く車を右折させる。




違う…ナツは助手席に座るリクをはっきりと見ていた。気づいていた。


リクがここにいることに…リクが李を狙撃したことに。




「コウさん…ナツが…」

リクがか細い声を発した。


コウは「え?」と問い返したが、車は既にナツから遠ざかっていた。


しばらく車を走らせ、ホテルから5km程離れると、コウは車を路肩に停めた。




「リク、何があった?」

コウはずっと俯いているリクを見た。



リクはコウを見た。今にも涙が溢れそうな目を向ける。


「李の運転手をしていた…ナツ…ナツが…」

リクは、何をどう話したらいいのかわからず、それきり黙ってしまった。



「知ってる奴だったの?」

コウが優しく尋ねる。



リクがコクリと頷く。


コウはリクの過去を知らない。


リクが知られたくないと思っている以上、こちらからは何も聞くつもりはない。

きっと、ナツというのは、今の会社に来る前の知り合いだろう。



「話したい?」コウが尋ねる。


俺に話したいのか、ナツと話したいのか、どちらにとってもいいように聞いてみる。




リクは黙って首を横に振った。




コウが言う。


「帰ろうか」




リクは頷いて、目を瞑った。



*****


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