李狙撃の日(後編)
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コウはホテルの近くで待機していた。
李が出てきたところも見ていたが、何事もなく車に乗り込むのを確認すると、リクからすぐにメールが届いた。
やはりドアマンが邪魔だったか。
「仕方ない」とコウは呟き、「OK」と短くメールを返すと、一度その場を離れた。
一度会社へ行き、社長に進捗を報告する。
社長は「ごくろうさん」と言ったあと、何か言いたげにコウを見る。
「なんだよ」コウが尋ねる。
「あのさ…」気まずそうに社長が言い淀む。
「前に藤宮の件で罠に嵌められたことあったろ」
「ああ、リクを人質にとった卑怯な奴らね」
その時のことを思い出しながらコウが語気を荒げて答える。
社長もその時はタニや調査部に当たり散らしていたが、結局自分の責任ということで、かなり反省していたらしい。
「その時の殺し屋の2人組、他でもルールを無視した仕事が多いらしくてさ、リクのような目に遭った殺し屋がいるんだってさ。
それが目をやられて失明したってんで、その会社の社長から依頼がきた」
「俺がやる」
間髪入れず、コウが答える。
社長がさっきまでの気まずそうな雰囲気はどこへやら、
「ふふっ」と笑うと
「そう言うと思った」と嬉しそうに笑った。
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同日、夜19時。
コウはホテルの近くに戻ってきていた。
その間、何度かリクと電話で話し、リクの集中力が途切れないよう気を付けていた。
20時20分。
白のBMWがゆっくりとホテルの入口に入ってきた。
リクは気を引き締める。
ライフルのスコープを覗きこみ、チャンスを窺う。
ホテルのドアマンが近づき、車の後部ドアを開ける。
李が出てきた。
李が歩き出す。
ドアマンが車のドアを閉める。
李の後頭部がはっきりと見える。
リクは引き金を引いた。
「パン!」
リクの耳には驚くほどの大きい音が響いたように感じた。
「当たったか」リクはスコープで覗き込む。
李が倒れているのが見える。
ドアマンが慌てている。
車の運転席から若い男が出てくるのが見えた。
若い男が李に駆け寄る。
李を確認すると、周りを見回した。
リクははっとして身を隠す。
そしてリクは固まった。
すぐにその場を立ち去らなければならないのに、動くことができなかった。
「ナツ…なんで…」
リクが呟く。
やっとリクの頭が働き始めたのは、おそらく1分くらい経った頃だっただろう。
その間とても長い時間に感じたが、その後は素早かった。
ライフルを分解しリュックに収めていると、コウからメールが届いた。
「李は死んだ。まだそこは見つかってない。早く出ろ」
リクはホッとし、ドアの前で人の気配がないのを確認してから廊下に出た。
非常口の内階段を下りながら、李の運転手をしていた若い男のことを考えていた。
10年以上会っていないけど、あれは確かにナツだった。
面影が…あの綺麗な顔は…絶対に…
生きていた…よかった…。
非常階段を降りると裏口から出る。
そこには運転席に座るコウが待っていた。
裏道を通り、ホテルから遠ざかる。
しかし、最初の交差点でホテルの方から走ってくる人影があった。
リクはハッとした。
ナツだ。
狙撃手が近くにいるとわかって探しに来たのか…。
コウが気付いて素早く車を右折させる。
違う…ナツは助手席に座るリクをはっきりと見ていた。気づいていた。
リクがここにいることに…リクが李を狙撃したことに。
「コウさん…ナツが…」
リクがか細い声を発した。
コウは「え?」と問い返したが、車は既にナツから遠ざかっていた。
しばらく車を走らせ、ホテルから5km程離れると、コウは車を路肩に停めた。
「リク、何があった?」
コウはずっと俯いているリクを見た。
リクはコウを見た。今にも涙が溢れそうな目を向ける。
「李の運転手をしていた…ナツ…ナツが…」
リクは、何をどう話したらいいのかわからず、それきり黙ってしまった。
「知ってる奴だったの?」
コウが優しく尋ねる。
リクがコクリと頷く。
コウはリクの過去を知らない。
リクが知られたくないと思っている以上、こちらからは何も聞くつもりはない。
きっと、ナツというのは、今の会社に来る前の知り合いだろう。
「話したい?」コウが尋ねる。
俺に話したいのか、ナツと話したいのか、どちらにとってもいいように聞いてみる。
リクは黙って首を横に振った。
コウが言う。
「帰ろうか」
リクは頷いて、目を瞑った。
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