表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/64

李とナツ

*****



李は日本支社のオフィスにいた。


そこは高層ビルの54階。フロアの半分を李のオフィスが占めており、残り半分は他のテナントが入っていた。



李のダミー会社は、都市のあちらこちらに点在しており、李は近づかないようにしていた。


中国と日本に拠点を持つ貿易商というだけで、公安に目をつけられているのはわかっている。




李は油断することなく、表と裏の事業を円滑に運営していた。

敵はたくさんいる。特に裏の事業の同業者だ。


麻薬はどこからでも手に入る。

密輸方法だけ気を付けていれば需要も供給も心配することはない。



武器は少し厄介だ。

取引先も限られているし、分解して密輸するにもいくつものルートを駆使して捕まらないようにする。

だが、その分利益は大きい。


人身売買もそうだ。あきれるほど需要がある。

自分も相当だが、自分以上に鬼畜がいる。金になるからやっているが、気分は悪い。



李は自分の事業の全てを把握している。

部下に命令し、実行は下請け、孫請けがやり、結果の報告を受ける。


命令するのは、一番信用している部下1人。


10年ほど前に人身売買を始めた頃、拾った。


売るつもりだったが、その容姿に惹かれた。

売ればきっと高く売れただろう。


しかし、まだ子供だというのに…売られようとしているのに…全く大人に媚びない目、意思が固そうに結ばれた口…。


手元に置いておこうと思った。思い通りにならなかったら、売ればいい。

そう考えて教育をした。



名前はナツと名乗った。


「女みたいな名前だな」と言うと、

「そうですか」とだけ言った。


余計なことは何もしゃべらない。

ただ、言われたことはきちんとこなした。



頭はいいし、度胸もある。

拾いもんだったと李は思った。


ナツは何も言わないが、李を裏切ることだけはなかった。


おそらく考えたこともないだろう。他に居場所がなかったし、それまでの暮らしと違って腹も空かないし、日々の生活は保障されている。



いつも李の傍にいて、李の命令を聞き、下の者に仕事を回す。


適材適所を心得ており、下の者も不満を漏らす者はいなかった。


下の者も恐れていたのだ。全く笑わず表情を変えない、李の信頼を一身に集めるナツのことを。



*****



李の日常はある程度決まっていた。



オフィスから車で10分ほどのホテルに住み、朝10時頃オフィスに出かける。


車はナツが運転し、ホテルの正面玄関からオフィスビルの地下駐車場まで送ると、2人で54階のオフィスに行き、仕事をする。



出かけることはほとんどない。


訪問客がたまにあるが、アポイントがなければまず会えない。




夜8時頃オフィスを出て、ナツの運転でホテルに戻ると、ナツの仕事は終わりとなる。




たまにそのまま李の部屋へ呼ばれることもあるのだが…。






李は、一人の時はホテルのレストランやバーで食事をする。



ナツはホテルを出ると、自分の住むマンションへ帰る。


ホテルから歩いて5分程の7階建てのワンルームマンションの2階。


李はもっといいマンションを、と言ったが、ナツはこれくらいがいいと言い、数年ここに住んでいる。

寝るだけだし、趣味もない。自分の生活に興味がないのだ。



きっとこのまま生きて死んでいく…ナツはそう思って生きてきたのだった。



しかし、そんな生活がもうすぐ終わることを、ナツはまだ知らなかった。



*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ