李とナツ
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李は日本支社のオフィスにいた。
そこは高層ビルの54階。フロアの半分を李のオフィスが占めており、残り半分は他のテナントが入っていた。
李のダミー会社は、都市のあちらこちらに点在しており、李は近づかないようにしていた。
中国と日本に拠点を持つ貿易商というだけで、公安に目をつけられているのはわかっている。
李は油断することなく、表と裏の事業を円滑に運営していた。
敵はたくさんいる。特に裏の事業の同業者だ。
麻薬はどこからでも手に入る。
密輸方法だけ気を付けていれば需要も供給も心配することはない。
武器は少し厄介だ。
取引先も限られているし、分解して密輸するにもいくつものルートを駆使して捕まらないようにする。
だが、その分利益は大きい。
人身売買もそうだ。あきれるほど需要がある。
自分も相当だが、自分以上に鬼畜がいる。金になるからやっているが、気分は悪い。
李は自分の事業の全てを把握している。
部下に命令し、実行は下請け、孫請けがやり、結果の報告を受ける。
命令するのは、一番信用している部下1人。
10年ほど前に人身売買を始めた頃、拾った。
売るつもりだったが、その容姿に惹かれた。
売ればきっと高く売れただろう。
しかし、まだ子供だというのに…売られようとしているのに…全く大人に媚びない目、意思が固そうに結ばれた口…。
手元に置いておこうと思った。思い通りにならなかったら、売ればいい。
そう考えて教育をした。
名前はナツと名乗った。
「女みたいな名前だな」と言うと、
「そうですか」とだけ言った。
余計なことは何もしゃべらない。
ただ、言われたことはきちんとこなした。
頭はいいし、度胸もある。
拾いもんだったと李は思った。
ナツは何も言わないが、李を裏切ることだけはなかった。
おそらく考えたこともないだろう。他に居場所がなかったし、それまでの暮らしと違って腹も空かないし、日々の生活は保障されている。
いつも李の傍にいて、李の命令を聞き、下の者に仕事を回す。
適材適所を心得ており、下の者も不満を漏らす者はいなかった。
下の者も恐れていたのだ。全く笑わず表情を変えない、李の信頼を一身に集めるナツのことを。
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李の日常はある程度決まっていた。
オフィスから車で10分ほどのホテルに住み、朝10時頃オフィスに出かける。
車はナツが運転し、ホテルの正面玄関からオフィスビルの地下駐車場まで送ると、2人で54階のオフィスに行き、仕事をする。
出かけることはほとんどない。
訪問客がたまにあるが、アポイントがなければまず会えない。
夜8時頃オフィスを出て、ナツの運転でホテルに戻ると、ナツの仕事は終わりとなる。
たまにそのまま李の部屋へ呼ばれることもあるのだが…。
李は、一人の時はホテルのレストランやバーで食事をする。
ナツはホテルを出ると、自分の住むマンションへ帰る。
ホテルから歩いて5分程の7階建てのワンルームマンションの2階。
李はもっといいマンションを、と言ったが、ナツはこれくらいがいいと言い、数年ここに住んでいる。
寝るだけだし、趣味もない。自分の生活に興味がないのだ。
きっとこのまま生きて死んでいく…ナツはそう思って生きてきたのだった。
しかし、そんな生活がもうすぐ終わることを、ナツはまだ知らなかった。
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