リク一人でやってみる
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「エー、次のターゲットは、『ロマンス詐欺師』のグループです」
ロマンス詐欺師…。
詐欺師…殺すほどのものか…。
コウは最初にそう思った。
今まで殺してきた奴らは、本人も殺しをやっていたり、させていたり、という奴らだ。
そりゃ、詐欺師も人を傷つけてはいるだろうが、殺すほどのこととは…。
タニが続ける。
「そこらへんの詐欺師と一緒にしないように。
組織のトップの名前は佐伯悠仁。特殊詐欺から初めて、今はロマンス詐欺一本でやっている。
仲間の人数はその都度変わるが、中心はこの佐伯と、永久元則。
殺すのはこの二人だけでいい。雑魚はほっとく」
「で、なんで殺すの?」
コウが尋ねる。
「何人も死んでる」タニが答える。
「そんなえげつない騙し方してるんだ」
「ああ。搾り取れるだけ搾り取る。家、土地、預金、家族や友人の信用、老人は年金支給日のたびにたかられる。
残された選択は、ホームレスか、死」
タニが無表情のまま言う。
しばらく誰も口を開かなかった。
「じゃ、やりますか」
コウが席を立ちリクを連れて自分の部屋へ行った。
部屋へ入るとパソコンを立ち上げ、タニからの情報を確認する。
「二人ともほとんど事務所に詰めてるな。用心棒もいない。
今から行っても楽勝かもな」
コウが軽く言う。
リクが何か考えているのがわかる。
コウも逡巡している。
「リク…どうしたい?」
コウがリクの方を向く。
リクが意を決したように、口を開いた。
「俺、一人でやってみたいです」
リクがコウの元に来てから約4か月。
普通ならまだ一人でやれる仕事ではないし、本当はさせたくない。
しかし、実力があるのにいつまでもコウと一緒に行動していてもリクのためにはならない。
リクはもう覚悟ができているのだから。
「わかった」コウが言う。
「ただし…無理をするな。想定と違うことが起きたら、迷わず引け、いいか」
「はい」リクはコウの目をまっすぐに見て答えた。
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リクは翌日を実行日と決めた。
事務所が入っている雑居ビルの5階。
その上は屋上で、逃げるには屋上から隣のビルに飛ぶこともできるし、階段で降りることもできる。
周辺はオフィスが多く、夜の人通りは多くない。
佐伯と永久の二人は、毎日夜11時頃に事務所を出る。
その時間には他のバイトらはほとんど残っていない。残っていても、何の戦力にもならないだろう。
夜11時少し前、リクは事務所の扉の前にいた。
同じ階の他のテナントは1つしか埋まっておらず、そこにも今人はいない。
下の階のいくつかには人の気配があるが、よほど大きな音を立てなければ問題ないだろう。
廊下にも一応防犯カメラが設置されているので、リクはキャップを深くかぶり、黒いマスクをしていた。
リクが扉をそっと開ける。
男の話し声が聞こえる。
電話をしているようだ。
「大丈夫、お金は心配しないでいいから。俺が全部出すよ。頭金くらい持ってるさ。君は何も心配しないで…そう、ただ僕についてきてくれればいいから」
カモとの会話らしい。これから搾り取る手順の一つだろう。
リクは部屋の中へするりと入る。
電話をしている男の他に、2人の男がニヤニヤ笑いながら、電話の男を見て話しをしている。
電話をしている男は扉に背を向けているので顔がわからないが、2人で話している方の一方は写真で見た永久だった。
もう一人は見たことのないやつ。
ということは、電話をしている男が佐伯か。
リクが扉から入って立っていると、話をしていた2人の男がニヤニヤ顔のまま、リクに気づいてこちらを向いた。
ニヤニヤ顔が真顔に変わった。
「ど、どちらさまで…?」
知らない男がおずおずとリクに尋ねる。
リクは2人に近づき、永久と思われる男に向かって、
「すみません、永久さんですか?」と穏やかに尋ねた。
永久が「はい、私ですが…」と答えるや否や、リクは皮のジャケットの下からベレッタを取り出し、永久の頭を撃ち抜いた。
サイレンサーをつけているので、プシュという音しかしない。
もう一人の男は、驚きのあまり声も出せず固まっている。
リクは電話をしている男を見る。
佐伯に間違いない。
佐伯は電話に夢中になっており、こちらで何が起こっているのか気づいていない。
リクは机を回り込み、佐伯の正面から「おい」と声をかけた。
佐伯が笑いながらリクを見上げる。
リクは佐伯の頭を撃った。
佐伯は何が起きたかわからないまま机につっぷした。
受話器はそのままで、電話の向こうから楽しそうな女の声が聞こえている。
リクはもう一人の男がまだ固まっているのをチラッと見ると、そのまま出口に向かい、階段を下りて歩いて行った。
*****
コウはリクが仕事を終えて戻ってくるのを待っていた。
ノックの音がし、コウがドアを開けると、リクが立っていた。
「おつかれ」コウがさらにドアを開けると、リクが「お疲れ様です」と言いながら入ってきた。
「コーヒー飲む?」コウが尋ねる。
「はい」リクが答え、コウが早速コーヒーを淹れ始める。
リクはソファに座り、コウの方をじっとみている。
コーヒーを淹れ、コウがリクにカップを差し出す。
自分もコーヒーを飲みながら、リクを見る。
「ベレッタ、どうだった?」
コウが尋ねる。
「はい、使いやすかったです。今日は近距離でしたし、反動も少なくて」リクが答える。
「そうか、よかった。そのうち他のも試してみればいいね」
コウがそう言うと、リクは嬉しそうに、少し頬をほころばせた。
しばらく黙ったままコーヒーを味わっていると、リクが口を開いた。
「あの、コウさん…」
コウがリクを見て、目で先を促す。
「今日は一人でやれましたけど、これからもずっと一人でやる、ということじゃないですよね」
意外なことを聞かれたので、コウは少し戸惑った。
コウ的には、リクが一人でやれる仕事は一人でやって、基本的にはコウと二人で、というつもりだったのだ。
「リクはどうしたい? 遠慮しなくていいから言ってみて」
コウが優しく聞いた。
リクは、「えっと…」と言葉を探しながら、
「俺は、コウさんとずっと一緒に仕事がしたいです。
でも、コウさんに早く一人前と認められるようにもなりたい。だから…えっと…」
コウは穏やかな笑みを浮かべながら、リクを見ていた。
「リク、君はさ、もう一人前なんだよ」
「え…?」
リクがびっくりした顔でコウを見る。
「ただね」コウが続ける。
「一人前だから、一人でやらなきゃいけないってことじゃない。
俺はさ、経験が多いから、大抵のことは一人でやる。でもできないこともある。
リクはまだ経験が浅いから、俺よりもできないことが多い」
「だから」コウがリクの髪を撫でながら続ける。
「このままでいいんじゃないかな。
二人でやったり、一人でやったり…どお?」
リクは自分の髪に触れるコウの手が、頬を撫で、顎の方へ移動していくのが気持ちよくて、頭に入ってこない話を、かろうじて拾い集めていた。
「ただし」コウが続ける。
「俺以外の奴とは組んじゃだめだ」
リクは消え入るような声で「…はい…」とだけ答えた。
その時、コウは
「…とうとう顎までいってしまった…そのうち腹でも撫でそうだな…」と考えていた。
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