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コーディネーター

*****


コウは考えていた。


まだ黒幕に繋がるピースが足りない。

情報を持っているという、あの男に会えれば…。


コウは、あれからたびたびあのバーを訪れていたが、あの男には会うことができなかった。


バーデンダーも来ていない、と言う。



「警察官」というのが、笠松が言っていた、先輩であるイナバツヨシと繋がっている警察官のことなのか、もしくは「ひまわりの家」に来ていた交番勤務の木場のことなのか…。


當間不動産の方が雇った殺し屋と、藤宮が吐いた「芦塚」については管理部が調べているので、こちらは少し距離を置いておくことにする。




コウは別に「イナバツヨシ」について調査部に調べさせていた。


一見ただのチンピラだ。しかし警察官と繋がっていること、ヤクと思われるものの運び屋を取り仕切っている様子であることからして、その筋から信用があるのだろう。



ヤクの元締めはやはりその辺をまとめている佐藤組だった。


まあそれはどうでもいい。

ヤクのことは自分には関係ない。


もともと笠原のような奴らが罪を逃れている背景を探るのが目的だ。


なぜそれが出てこないのか…コウは頭を振った。




その晩、コウはあのバーに足を運んだ。


タクシーを降りて細い路地に入り、バーのドアが見えるところまで来た時、バーから一人の男が出て来るところが見えた。



その男とすれ違い、しばらく時間を置いて同じ方向へ歩き出す。


男が大通りへ出てタクシーを拾う。


コウもタクシーを捕まえ、あとを追う。




男が乗ったタクシーはある場所で停まった。


コウはゆっくり降りて男が入った建物へ入っていく。



建物の一階はロビーのようになっており、外からは見えないように、窓にブラインドが下りている。


男は一つのソファに座り、ゆっくり近づくコウを見上げた。



そこはコウの会社のある図書館だった。



そして、ソファに座っている男は、コウが会いたいと思っていた、あの情報を持っている男。


コウは、男の向かいのソファに腰を下ろした。




「すみません。自分に尾行がついていて、あの日バーに行けませんでした」

男は申し訳なさそうに、しかし穏やかな微笑みを浮かべながら、コウの目を見て話し始めた。



「何者なの」コウが尋ねる。



「私はね、一言で言うとコーディネーター。主に密輸や密出国のお手伝いをしています。

だから、いろんな情報も入ってきます。たまにそれらの情報を売ることもあります」


そう言うと、男はコウをじっと見つめる。


「下っ端の警官って、木場のこと?」


「そうです。當間不動産のこと気にされてたでしょ」


「やられちゃったけどね」コウが自嘲気味に言う。



「なんで俺に構うの?」


コウが言うと、男は内ポケットから一枚の写真を取り出した。


映っているのは、車の中で向かい合っているコウとリク。


リクの最初の仕事のあと、駐車場に車を停めて話していた時のものだ。



「あんただったのか」コウは無表情で呟く。


「はい、笠原さんを逃がす手はずだったんですが、あなた方に先を越されてしまいましてね。


これは手配した者が、言い訳のために撮った写真です」


一息ついて、男が続ける。


「次に當間不動産のことがあったでしょう。たぶん「ひまわりの家」についての意見があなたと同じなのではないかと思いましてね」



男はそこで笑みを少し大きくした。


「この写真を見て思ったんです。コウさんは子供が殺されるのは好きではないだろう、と」


コウは、この男の考えていることがまだわからなかった。いや、何を企んでいるのかが、だ。



「子供は嫌いだけど」コウが言う。



「ええ、私も嫌いです。

でも…それと殺されてもいい、のとは違う」



コウは黙っている。



「黒幕を知りたくないですか」

男が初めて口元を引き締めて言う。



「何が狙いなんだ」

コウが尋ねる。



「依頼ですよ、殺し屋のコウさんに」

男はまた微笑みを浮かべて言う。



「黒幕を殺してほしいんです」



コウはしばらくじっと相手を見つめていた。


「黒幕って、當間の息子を殺そうとしている奴ってこと? 理由は?」




男はふっと笑って、少し間を置いて答えた。


「そうですね、商売の邪魔だから、でしょうか」




「うちは調査するよ」


「はい、ご協力しますよ。ただ一つだけ、条件があります」




男はコウの目をしっかり見ながら言った。


「実行はリクさんにお願いしたいのです」




コウは驚かなかった。


そういう気がしていた。


この男はコウとリクに興味がありそうに見えた。


いや、リクに、か。



コウはリクの過去を知らない。


リクがこの男とどこかで関わったことがあるのか、それとも他に理由が…。



コウが「わかった」とだけ言うと、話は終わり、とばかりに男が席を立った。


男は詳細は会社に連絡する、と言い図書館を出ていった。




コウはしばらくその場に座ったまま考えていた。


「黒幕を教える」だと。


「リクにやらせろ」だと。




うちの調査部に調べがつかないことを、男は知っている。


コウのこともリクのことも。


こちらがやってきた仕事のことも。




気に入らない。




まったく気に入らない。




コウは平静を装っていたが、腸は煮えくりかえっていた。


奴がどんな情報を会社に持ってくるのかわからないが、それが例え有益な情報だとしても、奴の仕事をするのは全く気が進まない。


コウは一時間ほどじっとしていたが、やがておもむろに立ち上がった。




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