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*****



リクはコウの指示で「ひまわりの家」の、警察官と一緒にいたスタッフを尾行していた。


女は30歳前後で、児童養護施設の職員にしては少し派手に見えた。


「お疲れ様でした」と言いながら、女は18時に「ひまわりの家」を出た。




そのまま歩くこと15分、あるスナックに入って行った。


狭そうなスナックなので、リクが入るとバレてしまう。


リクはコウに連絡し、コウはタニに潜入する者の手配を頼んだ。




リクがスナックを見張っていると、スナックに入って行く男がいた。


ボザボサの頭をして作業服を着ている。


男はリクの方をちらっと見ると、親指を立てて入って行った。




リクはコウにその旨を報告すると、「もう帰っていいよ」とのことだった。

リクはなんとなく寂しさを覚えながら帰路についた。



*****



次の仕事の依頼が来たのは、それからすぐだった。



ターゲットは藤宮実。コウが泳がせていたチンピラだった。


依頼人は知らない奴だったが、黒幕の差し金に違いない。


こんなチンピラを殺しても意味がない。口封じだ。




「それなら、それで…」コウは考えた。


こちらが黒幕を追っていることを向こうは知らない。知っていればうちの会社に依頼をすることはないだろう。


藤宮の口を割らせることができれば。



コウはリクを呼び、自分の考えを話した。


リクは、コウの指示通りに動きます、ということで、社長にその旨を報告し、依頼を受けることとなった。



藤宮の確保は簡単だった。


そのまま会社がもつマンションに運び込む。

手足を拘束し、目を覚まさせる。


藤宮は当然驚き、一重の細い目をこれでもかと見開いている。


リクは別の部屋に待機させている。


今日はコウが話を聞きだすつもりだった。




コウが藤宮に状況を説明する。


「お前、殺されるぞ」 コウがそう言うと、藤宮は

「いや、誰にもしゃべりませんて。今までも、これからも。芦塚さんにご迷惑がかかることは決してしませんし…誓います」



コウはニヤリとした。


(こいつ、俺が誰だかわかってないな)


「芦塚さんだけじゃないやろ、ご迷惑がかかるのは」コウがそう言うと、


「いや、もちろんです。でもあの人は警察が守ってくれますやん。大丈夫ですって」



ほう、コウが畳みかける。

「木場さんね。でもあの人下っ端でしょ、誰が守ってくれるって?」



木場、というのは先日「ひまわりの家」に来ていた交番の警察官である。


コウは知っているけどさ…という素振りでニヤニヤと藤宮を追い込む。



「木場さんはそう下っ端じゃないですよ。でもその上に…」


藤宮が最後まで言う前に隣の部屋で「ドン」という大きな音がした。


コウが構わず、先を続けろと藤宮に促す。



藤宮は、「こ、ころされる…」と言いながらブルブル震え出した。


「『その上』って?」コウが焦れて藤宮の襟首を掴み声を荒げる。


藤宮はコウのことは目に入っていない様子で、相変わらずブルブル震えている。




部屋のドアが開いた。


そこには、頭に銃を押し付けられたリクがいた。


「くそっ」コウが吐き出す。




男は2人いた。


もう1人の男が、藤宮を撃った。


藤宮は頭を撃ち抜かれていた。




リクは男から離れようともがいていたが、男の方が上手だった。


男は相変わらず銃の先をリクの頭に当ててコウに言った。



「もうこれ以上騒ぐな。

お前たちのことはよく知っている。腕がいいだけじゃ何もできないんだよ」



コウはリクを見た。


悔しさを滲ませた顔をしている。



リクを助けなければ…コウはそれだけを考えていた。


「わかった、手を引く」コウは言った。


男はリクの頭に銃を向けたまま、後ろへ下がった。

一歩、さらに一歩…リクがコウから離れていく。



マンションの玄関のドアをもう1人の男が開け、3人が出ていこうとしたその時、コウは動いた。


リクに銃を突き付けている男の足をめがけてナイフを投げた。




男は銃をリクから離し、足を押さえた。


リクはすぐにドアの内側に滑り込み、鍵をかけた。



「リク! 無事か!」

コウがリクに駆け寄る。


リクは「大丈夫です」と力なく答え、

「すみませんでした」と続けた。



コウは力が抜けた。しばらくマンションにとどまり、その間に社長に報告した。


「罠だった」



コウが言うと、社長がタニに怒鳴る声が聞こえてきた。

自分だったら二度と立ち直れないだろうな、と思うほどの怒声が続いている。



一度電話を切る。


コウは「とりあえず帰ろう」と一言言って、地下駐車場に停めてある車へ行き発進させた。


さすがにもう襲ってはこないだろう。



会社の自室に着くと、やっと安心することができた。


コウは今までこんな経験をしたことがなかった。

仲間が人質に取られるなど…あってはならなかった。



リクは無表情だが、きっと今いろんな思いが頭を駆け回っているのだろう。


後悔、コウに対して情けないという思い…そして恐怖。



コウは思わずリクを抱きしめた。


「すまなかったな」コウが囁くように言う。



(あいつの言うとおりだ。腕がよくても何もできない。リクを守ることさえできなかった)


コウは自責の念でいっぱいだった。



リクはまっすぐに立ったままコウの胸に顔を埋めると、場違いな幸せな気持ちを嚙み締めた。


リクは今まで死ぬことを怖いと思ったことはなかった。

たださっき銃を突き付けられたときは、正直怖かった。


でも…目の前にコウさんがいて、自分を見ていた。ああ大丈夫だ、そう思った。



部屋の電話が鳴った。


コウはリクからそっと離れると電話をとった。


社長だった。



「すまん、コウ…二人とも無事…だよな」

こんなに社長の声が沈んでいるのを初めて聞いた。



「ああ」コウは答えた。


「タニのせいじゃないよ。俺が悪かった…首を突っ込み過ぎた」



「いや、この件はきちんと落とし前をつける。顧客との信用問題だからな。

リクは大丈夫か」


コウはリクを見て答える。

「ああ、大丈夫だ」


「リクを頼む」

社長はそう言って電話を切った。



コウはリクと並んでソファに座り、改めて向き合った。


「リク…」何を言おうか逡巡していると、リクがおずおずと口を開いた。



「コウさん、今日、オレ、怖くなかったです。

コウさんが…いたから…。


でも、男たちが入ってきたときにすぐ対応できなかったのが悔しいです。自分はもっとできる…そう思っていました。だから…」


コウはリクの髪をクシャクシャにした。


頬を両手で包み込み、自分の肩に乗せ、頭を押さえた。


何も言えなかった。



リクに自分の弱さを見せたくなかった。

見せてはならないと思っていた。


しかし、リクの健気さを前にして、何も言葉が出てこなかった。


「リク、俺たち、まだまだだな。もっと強くなろうな」



コウはそれだけ言うと、しばらくリクの匂いを堪能した。


(ああ、首輪つけたい…ダメか、それはさすがに変態か…)




リクはこの上なく幸せだった。

銃で頭を吹っ飛ばされかけたことなど、すっぱりきっぱり忘れ去っていた。


強くなる…コウさんと一緒に…。


リクはコウの体の温かさに包まれて、その言葉を心に刻み込んだ。



*****

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