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ひまわりの家交流会

*****


リクは今、仕事が終わった後のコウとの時間だけを楽しみに依頼をこなしていた。



前回の廃倉庫での仕事は、今までのリクの仕事の中で一番大きいものだった。


しかし、廃倉庫の外で二、三言、言葉を交わしただけで、その日は終わった。


車でリクをアパートまで送り届けると、


「お疲れさま」と優しく声をかけ、コウはすぐに走り去った。




コウは優しい。そう、誰にでも。


自分にだけ特別優しくしてくれているわけではないだろう。




「だけど…」


リクはコウがリクの髪や頬を触る手の感触がとても好きだった。


前回それがなかったことは、リクの心にとっては結構大きな穴ぼこだった。




「次の仕事、いつかな…」


リクはアパートで一人呟き、空を見つめた。



*****



コウは今、引っかかるものがいくつかあった。珍しいことである。


基本的に1つの依頼が終われば、それで終わり。あと腐れは何もない。次の仕事がくればそれをこなすだけ。



それが今までのコウの仕事の考え方であり、やり方だった。

しかし今、引っかかっているものが…。



1つは「ひまわりの家」と當間の後継者との接触。


コウは必ずあると踏んでいた。


どうでもいい、本当は。コウには関係のないことだった。


ただ、何故か引っかかって仕方がない。


接触があった時に、きっと答えが出るだろう…コウはそう考えていた。




2つ目は、バーであった男。


「下っ端の警官に気をつけろ」と言ったきり、未だに連絡が途絶えている。


こちらから連絡するすべはない。




バーデンターもその男の素性は知らなかった。


きっと笠原の件に関係があるのだろうが、それが自分とどう結びつくのかがわからない。




そして3つ目。


リクである。



リクに殺しをさせてしまった。


殺し屋としてうちに来たのだから仕方ない。


それはわかっているし、リクの覚悟があるのであれば、自分はそう育てるつもりだった。




しかし、初めて自分で手を下した仕事で、リクは意外なほど落ち着いていた。


今まで何度もやってきた、というように。




実際、リクの過去は知らない。


殺しも経験があったのかもしれない。


ただ、リクの目は…コウの目に映るリクの目はとても澄んでいて、殺し屋の目では決してないのだ。




リクは表情がほとんど変わらない。


でも自分が触れた時に見せるかすかな表情の変化は、自分のそれを確かに享受しているように見える。




もっとリクを知らなくては。


コウは生まれて初めて他人を知りたいと思った。




*****




當間を射殺してから約3か月。


「ひまわりの家」に動きがあった。



年に1回開催される「ひまわりの家」と地域住民との交流会。


その地域に住む子供を始めとする、その親、商店の者、自治体の担当者、そしてその地域を管轄する警察官…などが「ひまわりの家」でのイベントを楽しんだり、交流を深めたりする。



必ず動く。コウは確信していた。



社長に潜り込む段取りをさせよう。


どんな立場を装っても、自分が参加するのは目立ちすぎる。



できれば屋内の様子がわかるよう手配を頼み、同時に参加者の情報を調査部に探らせる。


どこに當間の後継者と繋がっている者がいるかわからない。


事業と関係しているか、または金で雇われているか。




調査部から情報が来たのは2日後だった。


自治体からの参加者は2人。社会福祉課に所属する年配の男と若い女。

この2人の周辺に怪しい影はないようだ。


参加者の子供とその親。父親のほとんどは会社員。IT企業、建設会社、福祉施設など…その中に1人不動産会社に勤務する者がいる。


母親は主にパートタイマー。スーパーや福祉施設など同じような職種が多い。



1人の不動産会社に勤務している男のデータをじっくり見る。大きい会社ではないが、まともに商売をしている会社のようだ。


とりあえず頭の隅に置いておく。



あとは出入りの業者と警察官。



出入りの業者は金で雇われている可能性が高い。

データ上は怪しい者はいないが、念のため注意が必要、と。



そして警察官。笠原の案件や、バーで会った男の情報が頭をかすめる。


悪い噂のある警察官は常に何人かはいる。その中に當間の息子と接触する者がいるかどうか。



コウは、全ての参加者の情報を頭に叩き込んだ。



*****



数日後、交流会当日。



コウはイベントが開催される園庭が見渡せる場所にいた。ここからは建物も含めて園全体が見渡せるが、建物の中は見ることができない。


もし中で接触があれば、コウは知ることができない。



社長は3人の使者を送り込んでくれた。


一人はリク。「ひまわりの家」出身という役どころ。

リクならうまくやるだろう。あまりしゃべらないし…。



後の2人は、老人会からの参加という形で押し込んだ。


会社が入っている図書館、そこに暑さ寒さを避けるために屯している老人たち。


この者たち、実は会社の臨時要員である。


自衛隊や警察官のOBであり、今でも密かに体を鍛えている。


全くそうは見えないが…。うまく隠したものだ。暇を持て余している老人にしか見えない。



というわけで、老人なら特に変なところをうろついていても、何とでも言い訳がつく。


社長、グッジョブ。



コウは双眼鏡で園庭を見回しながら、當間の息子を目で追う。


他の子供たちを遊びながら笑っている。あたり前だが普通の子供だ。



今のところ、大人が接触していることはない。

イベントは午前中の3時間だけなので、あと1時間。何かあるとすれば今からだな。



コウはそう考えた時、當間の息子が大人に声をかけられて、建物の中に入っていくのが見えた。


コウはインカムでリクに伝える。



リクはうなづき、老人会の2人に何か囁いている。

リクと老人会のうち一人が建物の中に入っていく。1人は念のため外に残ったのだろう。



しばらくして、インカムからリクの声が届いた。


「子供は、施設のスタッフと警官と3人で話しています」


「何を話しているか聞こえるか」


「待ってください」



老人会の1人が、ふらふらと3人に近づく。


大人の2人が黙り込み、老人を見る。




當間の息子が、

「でも、僕はここを離れたくないです。ユウキくんやタクマくんもいるし」と言う。


大人の2人は、老人が邪魔のようで、


「どうしたんですか、お外に出ましょうね」と言っている。



老人会は耳が遠いふりをして、


「おや、君はうちの孫に似てるなぁ、ここに住んでるのかい?」としれっと話しかける。


當間の息子が「はい、でもお父さんがたまに来てくれます」と言った。


「そうか、それはいいね。お父さんは優しいかい」と尋ねる。


「はい、お仕事が忙しいのであまり会えませんが、とても優しいです」と言う。



「そうかい、そうかい。じゃあ、君もお父さんみたいになるのかな」と重ねて尋ねる。


「はい、早く大きくなってお父さんの仕事を手伝いたいです」とはっきりと答えた。


「おおっ、坊やはしっかりしてるなぁ」と言いつつ、老人会が頭を撫でようとすると、スタッフにさりげなく止められた。



そこでリクが出ていき、

「すみません、向こうに行きましょうね」と言って老人会を連れ出した。


外に出て、リクがコウに報告すると、老人会はもう引いていい、と指示が出た。


リクは最後まで残って、成り行きを見守ることにする。



當間はやはり、危険から遠ざけるために息子を「ひまわりの家」に預けていたのだろう。


息子はまだ父の死を知らない。



後継者には、周りを納得させられるよう息子の存在が必要なのだろう。


園を出してどこに連れていくつもりなのだ。後継者が面倒を見るのか、それとも…。



そろそろイベントが終わる頃、コウは車で園の近くで待機した。


當間の息子に接触した警察官がこの後どこに行くのか確認するためだ。


警察官が出てきた。パトカーに乗っている。



警察官は基本2人で動くが、児童養護施設のイベント参加ということで、1人だけで行動できたのだろう。


その警察官は本来ここから近い交番勤務である。


パトカーは交番とは違う方向に向かって走っている。


そしてパトカーが停まったのは、當間不動産前だった。



中に誰かいるようで、鍵がかかっていないドアをノックもせずに入っていく。


コウは外で待つことにした。


20分ほどで警察官は出て、パトカーで走り去った。仕事に戻るのだろう。



コウはそのまま張り込みを続ける。


誰も出てこない。裏口から出ていった気配もない。




辺りが薄暗くなってきた頃、コウはそっとドアを開けてみた。


入ってすぐの部屋には誰もいない。


だが、奥の部屋で声が聞こえてきた。




男の声、一人だ。電話で話しているらしい。


奥の部屋のドアを静かに、薄く開く。


ドアの正面にデスクがあり、その後ろに窓がある。


男は窓の方を向いて通話している。



「ガキなんて顔は変わるもんじゃん。最初にお披露目しとけば、何年か後に違う人間になってても誰も気付かねぇだろ」



それだけでコウは察しがついた。

當間の息子は殺される。



しかし、まだ黒幕がわからない。


こんなチンピラが黒幕のはずがない。泳がせるか。




コウは外に出た。


まったく酷い世の中だ…反吐が出る。


コウは煙草に火をつけると、車を走らせた。



*****

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