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伊藤幸燿

*****



蒲生は諦めたように話し始めた。

「教祖の七隈は、何かのきっかけであなた方の会社のことを知りました。

七隈は『面白い』と言って、いろいろ調べ始めましたが、なかなか情報が出てきませんでした」


蒲生はコウの方をちらっと見るが、暗闇にライトを自分に向けられているため、表情を窺うことはできない。

仕方なく、続けた。


「あの図書館の建物が怪しいと言い始めたのは、半ば適当だったと思います。

でもあの建物に手をかければ、きっと我々にもわかる動きが出て来るだろう、と…」

蒲生が言う。


コウは、そこで口を挟んだ。

「伊藤幸燿はどう関わる」


「え…い、伊藤…」

それまで諦めたように、静かに話をしていた蒲生が、見るからに動揺した。


「不動産屋だろ、それとも地面師か」

コウが言う。


蒲生は、突然伊藤の名前が出てきたことに驚きを隠せないでいた。


「嘘だろ、全部、今言ったこと。

何が『何かのきっかけで会社のことを知った』だ。

俺が騙されるとでも? 舐められたもんだ」


コウは、会社が『何かのきっかけ』で知られるようなことはないとわかっていた。

蒲生は、伊藤の存在を隠すために、教祖の名を出し、コウを騙そうとしている。


「もう、いい」

コウはそう言い、電話をかけ始めた。


「今殺すと警戒されるよな」

コウが電話の相手に話している。


蒲生はいよいよ現状がヤバいことになっていることを自覚した。


「ああ、しかし野放しにするとこっちの動きがバレるよな」

コウが言っている。


どうしよう…蒲生はとんでもない状況に陥っていることに、パニックになりつつあった。

殺される…本当に殺される…こんなはずじゃなかった…伊藤が、伊藤があんな話を持ってこなければ…

そうだ、伊藤が悪い…伊藤の計画を話せば…


まだ電話しているコウに向かって、蒲生が必死で話しかける。

「伊藤の、伊藤のことを話します」


コウはちらりと蒲生を見たが、電話に戻り、

「じゃあ、見張っててくれ」

と言って電話を切った。


「あんたさ、ガキじゃないんだから、もう信用できないんだよ。

俺たちの世界はそんなに甘くない。

まあ、今日は殺さないさ、こっちの動きを悟られたくないからな」


蒲生はゴクリとつばを飲み込んだ。


「でも見逃すつもりはねぇよ。ずーっと見張ってるから、そのつもりで。

七隈や伊藤に俺のことを話したら、その瞬間がお前の死ぬ時だ」


わかるな、と静かにコウが蒲生に囁く。


蒲生はもう身動き一つできずにいた。


懐中電灯を消し、コウが部屋を出て行く。

玄関のドアがガチャリと音を立てるまで、蒲生は硬直したように固まっていた。



*****



蒲生は伊藤に操られている…このことは確かだ。

もう少し脅せば吐いただろうし、実際吐くつもりだったようだが、それが真実とは限らない。

どうも、蒲生も伊藤に騙されているような気がしたのだ。



コウは自宅へ戻り、翌日仮事務所へ向かった。


昨夜の蒲生とのやり取りを報告し、自分の考えを話した。


「そうか、もしかしたら黒幕は伊藤かもしれんな」

社長が言う。


「そうだとして、狙いは何だ。

伊藤が計画するとしたら、地面師詐欺だろう。あの建物を燃やす必要がある計画とは…」

タニが考え込む。


「あの辺に新開発の計画とかあるの?」

コウが尋ねる。


「いや、聞いたことはないね。確かに街の外れで緑も多い。

開発地として選ばれてもおかしくはない。しかし…うーん…」

社長も考え込む。


「土地開発と、中身である俺たち目当てって、両方の線で調べてみてくれるか。

伊藤を直撃してもいいが、まだ何の根拠もないしな。

すっとぼけられたらどうしようもない」

コウがタニに提案する。


「そうだね、頼むよ」

社長も同意し、タニに言う。


タニが、

「いいですよ。助手をつけてくれれば何だってやりましょう!」

と、両手を広げて芝居じみたジェスチャーをしながら言った。


「うん、助手ね、ちゃんとつけるよ」

社長がタニと目を合わせず、安請け合いをする。


「今すぐですよ」

タニが食い下がる。


「うん、今すぐだね」

社長が棒読みで繰り返す。


タニはコウを見て助けを求める。

コウは肩をすくめ、同情の顔を作る。


「クソがっ」

タニが吐き捨て、不毛なやり取りは終わった。



*****



タニが調査部を使い、調査をしている間にも、コウたちは依頼を受けていた。


「今度の奴らは、また詐欺師だ」

タニが説明を始める。


「詐欺師、多いな。なんでそんなに騙されるんだ」

コウが言う。


「ああ、特殊詐欺って呼ばれる前の「オレオレ詐欺」とは違って、最近のは手が込んでるからな。

自分は大丈夫って人間に限って騙されるらしい」


「そうか、今回も額が大きいのか」


「ああ、10億だ。

犯人の一部は捕まって裁判にかけられてる最中だ。

主犯が誰かまだわかっていないが、待ってられないそうだ。

とにかく、今拘留されている奴らだけでも殺ってほしいんだと」

タニが言う。


「拘留中の奴らか、厄介だな」

コウが口元に指を当てる。

「狙い目は裁判所への護送中か…」


「囮が必要なら誰でも使っていいぞ」

タニが言う。


「わかった、計画を練ったら頼むわ」

コウが言い、部屋へ戻った。


部屋へ戻ったコウは、タニから送られてきている資料を見る。

裁判所への出頭日時、移送経路、警察官や職員の人数…。


どこかで護送車を停めさせて、乗り込むしかないな。

殺すのは3人…座ってる場所にもよるが、3秒以上はかけられないな。


考えながら、コウは頭の中でシミュレーションをする。

車を停めさせて、運転席を制圧するのに…1人…でいいか。


久しぶりにナツでも誘うか。


コウは飲みにでも誘う感じでナツに電話をした。


*****


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