伊藤幸燿
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蒲生は諦めたように話し始めた。
「教祖の七隈は、何かのきっかけであなた方の会社のことを知りました。
七隈は『面白い』と言って、いろいろ調べ始めましたが、なかなか情報が出てきませんでした」
蒲生はコウの方をちらっと見るが、暗闇にライトを自分に向けられているため、表情を窺うことはできない。
仕方なく、続けた。
「あの図書館の建物が怪しいと言い始めたのは、半ば適当だったと思います。
でもあの建物に手をかければ、きっと我々にもわかる動きが出て来るだろう、と…」
蒲生が言う。
コウは、そこで口を挟んだ。
「伊藤幸燿はどう関わる」
「え…い、伊藤…」
それまで諦めたように、静かに話をしていた蒲生が、見るからに動揺した。
「不動産屋だろ、それとも地面師か」
コウが言う。
蒲生は、突然伊藤の名前が出てきたことに驚きを隠せないでいた。
「嘘だろ、全部、今言ったこと。
何が『何かのきっかけで会社のことを知った』だ。
俺が騙されるとでも? 舐められたもんだ」
コウは、会社が『何かのきっかけ』で知られるようなことはないとわかっていた。
蒲生は、伊藤の存在を隠すために、教祖の名を出し、コウを騙そうとしている。
「もう、いい」
コウはそう言い、電話をかけ始めた。
「今殺すと警戒されるよな」
コウが電話の相手に話している。
蒲生はいよいよ現状がヤバいことになっていることを自覚した。
「ああ、しかし野放しにするとこっちの動きがバレるよな」
コウが言っている。
どうしよう…蒲生はとんでもない状況に陥っていることに、パニックになりつつあった。
殺される…本当に殺される…こんなはずじゃなかった…伊藤が、伊藤があんな話を持ってこなければ…
そうだ、伊藤が悪い…伊藤の計画を話せば…
まだ電話しているコウに向かって、蒲生が必死で話しかける。
「伊藤の、伊藤のことを話します」
コウはちらりと蒲生を見たが、電話に戻り、
「じゃあ、見張っててくれ」
と言って電話を切った。
「あんたさ、ガキじゃないんだから、もう信用できないんだよ。
俺たちの世界はそんなに甘くない。
まあ、今日は殺さないさ、こっちの動きを悟られたくないからな」
蒲生はゴクリとつばを飲み込んだ。
「でも見逃すつもりはねぇよ。ずーっと見張ってるから、そのつもりで。
七隈や伊藤に俺のことを話したら、その瞬間がお前の死ぬ時だ」
わかるな、と静かにコウが蒲生に囁く。
蒲生はもう身動き一つできずにいた。
懐中電灯を消し、コウが部屋を出て行く。
玄関のドアがガチャリと音を立てるまで、蒲生は硬直したように固まっていた。
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蒲生は伊藤に操られている…このことは確かだ。
もう少し脅せば吐いただろうし、実際吐くつもりだったようだが、それが真実とは限らない。
どうも、蒲生も伊藤に騙されているような気がしたのだ。
コウは自宅へ戻り、翌日仮事務所へ向かった。
昨夜の蒲生とのやり取りを報告し、自分の考えを話した。
「そうか、もしかしたら黒幕は伊藤かもしれんな」
社長が言う。
「そうだとして、狙いは何だ。
伊藤が計画するとしたら、地面師詐欺だろう。あの建物を燃やす必要がある計画とは…」
タニが考え込む。
「あの辺に新開発の計画とかあるの?」
コウが尋ねる。
「いや、聞いたことはないね。確かに街の外れで緑も多い。
開発地として選ばれてもおかしくはない。しかし…うーん…」
社長も考え込む。
「土地開発と、中身である俺たち目当てって、両方の線で調べてみてくれるか。
伊藤を直撃してもいいが、まだ何の根拠もないしな。
すっとぼけられたらどうしようもない」
コウがタニに提案する。
「そうだね、頼むよ」
社長も同意し、タニに言う。
タニが、
「いいですよ。助手をつけてくれれば何だってやりましょう!」
と、両手を広げて芝居じみたジェスチャーをしながら言った。
「うん、助手ね、ちゃんとつけるよ」
社長がタニと目を合わせず、安請け合いをする。
「今すぐですよ」
タニが食い下がる。
「うん、今すぐだね」
社長が棒読みで繰り返す。
タニはコウを見て助けを求める。
コウは肩をすくめ、同情の顔を作る。
「クソがっ」
タニが吐き捨て、不毛なやり取りは終わった。
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タニが調査部を使い、調査をしている間にも、コウたちは依頼を受けていた。
「今度の奴らは、また詐欺師だ」
タニが説明を始める。
「詐欺師、多いな。なんでそんなに騙されるんだ」
コウが言う。
「ああ、特殊詐欺って呼ばれる前の「オレオレ詐欺」とは違って、最近のは手が込んでるからな。
自分は大丈夫って人間に限って騙されるらしい」
「そうか、今回も額が大きいのか」
「ああ、10億だ。
犯人の一部は捕まって裁判にかけられてる最中だ。
主犯が誰かまだわかっていないが、待ってられないそうだ。
とにかく、今拘留されている奴らだけでも殺ってほしいんだと」
タニが言う。
「拘留中の奴らか、厄介だな」
コウが口元に指を当てる。
「狙い目は裁判所への護送中か…」
「囮が必要なら誰でも使っていいぞ」
タニが言う。
「わかった、計画を練ったら頼むわ」
コウが言い、部屋へ戻った。
部屋へ戻ったコウは、タニから送られてきている資料を見る。
裁判所への出頭日時、移送経路、警察官や職員の人数…。
どこかで護送車を停めさせて、乗り込むしかないな。
殺すのは3人…座ってる場所にもよるが、3秒以上はかけられないな。
考えながら、コウは頭の中でシミュレーションをする。
車を停めさせて、運転席を制圧するのに…1人…でいいか。
久しぶりにナツでも誘うか。
コウは飲みにでも誘う感じでナツに電話をした。
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