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信じてもらうこと

*****



コウから話を聞いたタニが、調査部と話をつけた。


「いいぞ」

タニが言う。


電話を繋げたままで、コウが東海林にデータの復元方法を相手に伝えるよう言った。


「あんたのパソコンからだと、この場所が割れる。

俺の方で発信源をわからないように復元させる。いいな」


東海林は、信じられないような顔をした。

「私を信じてくれるんですか?」


「まだ信じたわけじゃない。

しかし、確認してからでないと殺しはしない。

無実の者を殺したんじゃ寝覚めが悪いからな」

コウが言い、早く伝えろと急かした。


東海林がタニと調査部に向かって、復元方法を教えた。

調査部がその場で端末を操作する。


「オッケー、復元できたぜ。

中身を確認するから少し時間をくれ」

そう言って、タニが電話を切った。



東海林が、おずおずとコウに話しかけてきた。

「どうしてすぐに私を殺さなかったんですか。

どうして、最初に私の話を聞いてくれたんですか。

いつもそうされるんですか?」


コウは少し考えてから答えた。

「いつもはしない。

いつもはもっと、はっきりしてるからな。

しかし、今回は…」

少し間をおいてから、コウがまた話し出す。


「警察か公安が動く事案であるにも関わらず、こっちに話がきたんで、少しきな臭いとは感じていた。

そして、さっき今井さんがあんたに夕飯を運ぶ時に、あんた今井さんのこと心配してたろ、つまづかないように。

そんな人間が、金目当てとか、国家反逆とか、違和感しかねぇ」


東海林が驚いていた。

「今井さんのことをつけて、ここがわかったんですか。

それでも今井さんにも、私にも手を出さずに…」

東海林はぐっと涙を堪えるように下を向いた。


きっと今まで誰にも信じてもらえず、家の者だけが頼りで、これから先のことも不安で仕方なかったのだろう。


コウのスマホが鳴った。


「中身を確認した。

確かに統計の入力は間違ってる。

そして間違った数字をもとに資料が作成されている。

ここから先は専門家じゃないと、それがどこにどう影響するのかはわからん。

だが、東海林が言っていることは嘘じゃないな」


「で、どうする?」

タニが言った。


「社長はいるか?」

コウが聞く。


「ああ、ここにいるよ」

社長が答える。

タニが報告したのだろう。


「どうしますか?」

コウが聞く。


「どうしようか」

社長がのんびりと答える。


「殺せないですよ、俺は」

コウが言う。


「だよね、じゃ、とりあえずあそこに連れて行ってくれるかな」

社長が言い、電話を切る。



「俺のことを信じるか?」

コウが東海林に尋ねた。


東海林が真っすぐにコウの目を見て

「信じます」と答えた。



*****



東海林を連れて車に戻ると、キムが苦笑した。

「なんだかそんな気がしていましたよ」

と言い、すぐに車を出した。



*****



東海林を隠れ家に連れて行き、見張りを置くと、コウとキムは仮事務所へと戻って行った。

見張りは以前から図書館で屯していた老人2人。


元自衛隊の特殊部隊に所属していたこともある強者たちだ。

図書館が燃えてからは、毎日行く場所がないとほざいていたので、今回見張り役を頼んだのだった。


「やあやあ、仕事は久しぶりだねぇ。

体が鈍っていないか、ちょっと動いてみようか」

そう言って老人2人は、庭に出ると、東海林に見せつけるように竹刀をぶつけ合うのだった。



*****



コウとキムが仮事務所へ戻ると、社長が待っていた。


「依頼人は事実を知ってるんですか?」

コウが尋ねる。


「いや、知らんだろう。

そんな方じゃない」

社長がはっきりと言う。


「総務省の上の方の独断ですかね、それにしては荒事に慣れてるようだが」

タニが言う。


「今回の依頼は直接顧客からのものだからね、殺したと嘘を吐くわけにはいかないね。

さて、どう話を持っていこうかな」

社長がふむ、と考え込む。


いつもの社長の手だ。

考えるふりをしていると、誰かが良い手を提案してくれるのだ。


「ぶっちゃけていいんじゃないですか、あなた騙されてますよってさ」

コウが言う。


「えー、なんか角が立つし、気の毒じゃない?」

社長が言う。


「じゃ、ユゲに相談しましょうか」

タニがまともな提案をした。


「例えば、警察に機密情報漏洩のタレコミがあったことにして、東海林を指名手配させる。

で、警察が捜査をしたら、あら不思議、東海林君は冤罪でしたってことで、どうすかね」


「それ、採用!」

社長が、早速ユゲに連絡を入れる。


「じゃ、東海林に一応指名手配のこと伝えとくわ」

コウが言い、見張りに電話をする。

東海林が家族に居場所を伝えたりしないよう、念の為東海林のスマホは預かっていた。


コウが事情を説明すると、東海林は、

「承知しました。本当にありがとうございます」

と丁寧に何度も礼を言った。


あと数日そこで過ごすよう伝え、電話を切った。

あとはユゲと社長に任せることにして、コウはキムに、


「お疲れさん、今回は仕事にはならなかったな」

と言い、労った。


キムは、とても嬉しそうに、

「コウさん、ありがとうございました!」

と言い、頭を下げた。


キムは感動していた。

コウは、依頼された仕事を闇雲にこなすのではなく、自分の直感や経験を活かして物事を考えて行動していた。

自分もあんなふうになれるのだろうか。


コウはキムが何かを掴んだのだな、と思い微笑んだ。


「じゃ、帰ろうか、今日はゆっくり休みな」

コウが言い、キムと一緒に会社を後にした。


*****


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