信じてもらうこと
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コウから話を聞いたタニが、調査部と話をつけた。
「いいぞ」
タニが言う。
電話を繋げたままで、コウが東海林にデータの復元方法を相手に伝えるよう言った。
「あんたのパソコンからだと、この場所が割れる。
俺の方で発信源をわからないように復元させる。いいな」
東海林は、信じられないような顔をした。
「私を信じてくれるんですか?」
「まだ信じたわけじゃない。
しかし、確認してからでないと殺しはしない。
無実の者を殺したんじゃ寝覚めが悪いからな」
コウが言い、早く伝えろと急かした。
東海林がタニと調査部に向かって、復元方法を教えた。
調査部がその場で端末を操作する。
「オッケー、復元できたぜ。
中身を確認するから少し時間をくれ」
そう言って、タニが電話を切った。
東海林が、おずおずとコウに話しかけてきた。
「どうしてすぐに私を殺さなかったんですか。
どうして、最初に私の話を聞いてくれたんですか。
いつもそうされるんですか?」
コウは少し考えてから答えた。
「いつもはしない。
いつもはもっと、はっきりしてるからな。
しかし、今回は…」
少し間をおいてから、コウがまた話し出す。
「警察か公安が動く事案であるにも関わらず、こっちに話がきたんで、少しきな臭いとは感じていた。
そして、さっき今井さんがあんたに夕飯を運ぶ時に、あんた今井さんのこと心配してたろ、つまづかないように。
そんな人間が、金目当てとか、国家反逆とか、違和感しかねぇ」
東海林が驚いていた。
「今井さんのことをつけて、ここがわかったんですか。
それでも今井さんにも、私にも手を出さずに…」
東海林はぐっと涙を堪えるように下を向いた。
きっと今まで誰にも信じてもらえず、家の者だけが頼りで、これから先のことも不安で仕方なかったのだろう。
コウのスマホが鳴った。
「中身を確認した。
確かに統計の入力は間違ってる。
そして間違った数字をもとに資料が作成されている。
ここから先は専門家じゃないと、それがどこにどう影響するのかはわからん。
だが、東海林が言っていることは嘘じゃないな」
「で、どうする?」
タニが言った。
「社長はいるか?」
コウが聞く。
「ああ、ここにいるよ」
社長が答える。
タニが報告したのだろう。
「どうしますか?」
コウが聞く。
「どうしようか」
社長がのんびりと答える。
「殺せないですよ、俺は」
コウが言う。
「だよね、じゃ、とりあえずあそこに連れて行ってくれるかな」
社長が言い、電話を切る。
「俺のことを信じるか?」
コウが東海林に尋ねた。
東海林が真っすぐにコウの目を見て
「信じます」と答えた。
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東海林を連れて車に戻ると、キムが苦笑した。
「なんだかそんな気がしていましたよ」
と言い、すぐに車を出した。
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東海林を隠れ家に連れて行き、見張りを置くと、コウとキムは仮事務所へと戻って行った。
見張りは以前から図書館で屯していた老人2人。
元自衛隊の特殊部隊に所属していたこともある強者たちだ。
図書館が燃えてからは、毎日行く場所がないとほざいていたので、今回見張り役を頼んだのだった。
「やあやあ、仕事は久しぶりだねぇ。
体が鈍っていないか、ちょっと動いてみようか」
そう言って老人2人は、庭に出ると、東海林に見せつけるように竹刀をぶつけ合うのだった。
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コウとキムが仮事務所へ戻ると、社長が待っていた。
「依頼人は事実を知ってるんですか?」
コウが尋ねる。
「いや、知らんだろう。
そんな方じゃない」
社長がはっきりと言う。
「総務省の上の方の独断ですかね、それにしては荒事に慣れてるようだが」
タニが言う。
「今回の依頼は直接顧客からのものだからね、殺したと嘘を吐くわけにはいかないね。
さて、どう話を持っていこうかな」
社長がふむ、と考え込む。
いつもの社長の手だ。
考えるふりをしていると、誰かが良い手を提案してくれるのだ。
「ぶっちゃけていいんじゃないですか、あなた騙されてますよってさ」
コウが言う。
「えー、なんか角が立つし、気の毒じゃない?」
社長が言う。
「じゃ、ユゲに相談しましょうか」
タニがまともな提案をした。
「例えば、警察に機密情報漏洩のタレコミがあったことにして、東海林を指名手配させる。
で、警察が捜査をしたら、あら不思議、東海林君は冤罪でしたってことで、どうすかね」
「それ、採用!」
社長が、早速ユゲに連絡を入れる。
「じゃ、東海林に一応指名手配のこと伝えとくわ」
コウが言い、見張りに電話をする。
東海林が家族に居場所を伝えたりしないよう、念の為東海林のスマホは預かっていた。
コウが事情を説明すると、東海林は、
「承知しました。本当にありがとうございます」
と丁寧に何度も礼を言った。
あと数日そこで過ごすよう伝え、電話を切った。
あとはユゲと社長に任せることにして、コウはキムに、
「お疲れさん、今回は仕事にはならなかったな」
と言い、労った。
キムは、とても嬉しそうに、
「コウさん、ありがとうございました!」
と言い、頭を下げた。
キムは感動していた。
コウは、依頼された仕事を闇雲にこなすのではなく、自分の直感や経験を活かして物事を考えて行動していた。
自分もあんなふうになれるのだろうか。
コウはキムが何かを掴んだのだな、と思い微笑んだ。
「じゃ、帰ろうか、今日はゆっくり休みな」
コウが言い、キムと一緒に会社を後にした。
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