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乗っ取り

*****


リクとミヤがファイトクラブのあるジムに着いたのは夜9時頃だった。


ギャラリーに混じって中に入り込む。

リングの上では、今にも試合、いや殺し合いが始まりそうである。


リクは人混みを分けてリングに近づく。

ミヤも、リクと反対側からリングに近づいていく。


試合の始まりのゴングが鳴った。

同時に強い方が弾むように相手に近づく。


相手はビクビクしていて、逃げることしか考えていない体勢である。


その時、リクが天井に向けてベレッタを発砲した。

皆がはっとして静まり返る。


続けて、リクはリング上の強い奴に向けて撃った。

胸に1発、そしてリングに上がり、さらに一発撃ち、相手が起き上がらないことを確認する。


周りを見ると、案の定パニック状態で、ギャラリーが右往左往している。

そして、1人、また1人、リングの上に上がってきた者がいた。


(よし)リクがニヤリとして、ミヤの方を確認する。

ミヤも頷き返す。


有無を言わさず、リクが1人に向けて発砲した。

もう1人がリクに向かって来ようとしたが、ミヤの銃弾に倒れた。


あと1人…。

リクとミヤが周りを見る。


少し離れたところで、誰かを守るように立つボクシングパンツを履いた男が見えた。

庇っているのが胴元の田所のようだ。


リクとミヤがそちらに近づいていく。

ギャラリーたちは出口が見つからず、相変わらずパニック状態にある。


男が田所を置いて逃げようとした。

が、遅かった。


ミヤがまず男を撃った。

1度では倒れず、2度目は眉間を撃ち抜いた。


後ろに庇われていた田所が

「ヒーっ」と言って、立ちすくんでいる。


ここでギャラリーの注目を集めなければならない。


リクはポケットからあるものを取り出し、ライターで火をつけた。


それは、田所の近くの天井付近でキラキラと輝き、一瞬でパッと散った。

あたりは静まり返った。

皆、何が起きたかわからず呆然としている。


皆が注目している天井の下に田所はいた。

リクは田所に向けて、パン、パン、パン、パン、パン、と5発続けて撃った。


そしてリクとミヤは反対に向かって走り出し、塞いでいた出口を解放して出て行った。


逃げる途中でミヤが、

「花火?」とリクに聞いた。


「そう、きれいだったろ」

リクが答え、2人で笑い合い、グータッチをした後、二手に分かれて走り去った。



*****



レイが『真理の扉』の本部の駐車場から出てくる車を見張っていた。


蒲生の車は、鈴本に聞いて判明している。

ブルーのメルセデスベンツCクラス…ベンツのエントリーモデルと言われているが、30歳そこそこで乗り回すには上等な車だろう。


駐車場から蒲生が出てきた。

レイが連絡すると、すぐにオキが尾行を始める。


蒲生の自宅は、調査部が調べても出てこなかった。

他人名義の部屋か、ホテル住まいなのかもしれない。


オキはその蒲生の自宅を確定するべく、尾行をしているのだ。


蒲生が運転する車は、高級料亭の駐車場に入って行った。

誰かと待ち合わせなのか…。


次はミズキの出番である。

蒲生が料亭に入ってから15分後、ミズキが飛び込みの客のフリをして入っていく。


「申し訳ない、予約はしていなんだが、せっかく近くまで来たものでね。

こちらの土瓶蒸しが絶品だと聞いて…1人分いただくわけにはいかないだろうか」


美麗なミズキの、神がかった微笑みと巧みな話術で、頼まれて断れる人間などいない。


「どうぞどうぞ」

と女将がミズキを奥へ案内した。


ミズキは個室へ通され、注文をする。

女中が下がると、窓を開け、ザビを入れる。


ザビがそっと廊下を伺い、ずらっと並んだ個室を1つ1つ覗いていく。

個室の扉は襖なので、音は全くしない。


そして、ある部屋を除いた時、そこにいた。

蒲生と、もう1人の男。


ザビは男の顔を目に焼き付け、そっと外へ出た。

外ではオキが待っている。


オキの車に近づくと、

「俺は新顔の男が出て来るのを待って写真を撮ってから帰る」と言い、すぐに離れた。


やがて蒲生が1人で出てきた。

オキはそのまま蒲生を尾行した。


蒲生はしばらく運転すると、あるマンションの駐車場に車を停めた。

オキは蒲生が入っていった部屋を確認すると、タニに連絡した。


「その部屋の名義は…なに?…まさか…」

タニが動揺し、傍にいる社長の顔を見る。


近くにいた社長が、

「どうした? お前がそんなに動揺するなんて珍しいな」

と言って、タニのモニターを覗き込む。


「・・・・・ん?」

社長の頭の上にハテナマークが並んでいる。


「え?・・・・・」

ハテナマークが増えた。


「どういうこと?」

社長がタニに聞いた。


「いや、こっちが聞きたいですよ。

これって、社長の名義ってことですよね!」

タニが半分叫び声で言う。


「うん…そうだね…

で、どういうこと?」

相変わらず社長はとんちんかんだ。


そんな社長を目にして、タニが少し落ち着いてきた。

「社長のマンションじゃないってことで、いいですか?」

と聞く。


「うん、見覚えないね」

と社長が答える。


「じゃあ…名前乗っ取られてますよ」

タニが静かに伝えた。



*****



一方、蒲生が料亭を出てから30分後、蒲生と同席していた男が出てきた。

ザビが写真を撮る。

何枚か撮影し、すぐにその場を離れた。


男のすぐあとに料亭を出ようとしたミズキが、そこにいた料亭の女中に話しかけた。

「あの方、さっき帰られた…知り合いに似ているんですが、綾小路さんですよね」


女中はふふっと微笑み、

「そんなお名前じゃありませんよ。

確か、もっと普通の…伊藤さん…だったかしら」

と教えてくれた。


ミズキは、「なんだ、他人の空似だったか」と言って照れ笑いをし、女中を虜にして料亭を後にした。


「伊藤か…本名かどうかはわからんが、調べてみよう」

タニが調査部に伝え、ザビが撮影した写真と共に、『真理の扉』の関係者から「伊藤」という名前を調べ始めた。



そこへ社長の名前乗っ取りが発覚し、仮事務所は一時騒然となるのだった。



*****


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