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キムは男を見ると、
(やはりな…)と納得した。
「バレていましたか」
キムはコウに近づくと、苦笑した。
「ええ、俺のことを探ってる奴がいるって聞いたもんでね、もしかしてアンタかと」
コウが言いながら、椅子を勧める。
キムは椅子を引き、
「勝手に探って失礼しました。
改めまして、キム・ドニョンといいます」
と言って手を差し出した。
スマートな自己紹介だった。
「コウと言います。
俺のこと、何かわかりましたか」
握手をしながらコウがが尋ねた。
「いや、全くです。さすがですね。
やはり思った通りでした。
そこらへんの組織とは違う。改めて感服しました」
ウエイターにコーヒーを注文し、コウに尋ねた。
「あの日、私と目が遭いましたよね。
そのことがずっと頭から離れなかった。
あれは何か意図があったんですよね」
コウは、コーヒーを一口飲んで、ゆっくり口を開いた。
「ええ、ありました。
あなたは他の側近たちとは格が違っていた。
また会う機会があればいいと思っていました」
「光栄です。
あの時、一度は死を覚悟しました。
でもそれなりのことをしてきたので仕方ないと諦めていました。
しかし、あなたは私の命を奪わなかった」
キムはここで一度話を切ると、しばらく黙り込んだ。
コウは、キムの次の言葉を黙って待っていた。
ようやくキムは、意を決したように、コウの目を真っすぐに見て言った。
「あなたの下で、働かせていただけませんか」
キムの真っすぐな目を捉えて、コウは言った。
「申し訳ありませんが、それは無理ですね」
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社長とタニ、シキミが揃っている。
社長はいつも以上ににこにこしている。
コウがキムを紹介すると、
「いやぁ、君がキム君かね、ようこそ日本へ」
社長がキムの手を取り、上下に揺らす。
キムが呆気に取られている。
コウは、笑いながら、タニとシキミを紹介する。
「タニがビザやその他もろもろの手続きをしてくれる。
それと、仕事は俺とシキミは殺し屋だけど、他にも殺しはやらない仕事もあるからゆっくり考えて」
コウはキムが「自分の下で働く」ということを断った。
そういう選択肢はないからだ。
なので、会社に所属し、コウたちと一緒に働く、という形を勧めたのだった。
キムは、コウの下で殺し屋として働くという覚悟を持って日本に来ていたので、どういう形であれ、コウの所属する組織に入れるということは、この上なくラッキーなことだと思っていた。
(思い切って来てよかった)
自分のこれからの道が見えてきたようで、キムは高揚していた。
「これで新人がまた増えたね」
社長が嬉しそうに言う。
「少しは楽できますかね」
シキミが言う。
「社長、俺んとこにも新人入れてくださいって」
タニが悲痛な叫びを漏らす。
「タニの仕事は難しいからね、なかなか見つからないんだよ」
社長が適当なことを言う。
「なんで殺し屋がほいほい見つかって、事務が見つからないんですか、おかしいでしょ」
タニが食い下がる。
その隙に、コウとシキミは部屋を出た。
「ソフィに言っといて、俺を探ってる奴、捕まえたって」
コウがシキミに言う。
「オーライ」
シキミが手を振って自室へ入って行った。
コウも自室へ戻った。
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新しい人間が増えてきた。
この会社も少しずつ大きくなっていくのだろう。
コウは、敢えて先のことは考えない。
ただ今よりも成長したい、とは思う。
この会社では腕のいい方だが、外に出ると、上には上がいる。
いざというときに仲間も守れないようでは、自分の存在価値はないと思う。
10歳の時に母を庇って男を殺して以来、自分は殺し屋の血に目覚めていた。
はっきりとそう自覚していた。
そんな自分が、まだ人間に見えているのは、たまに触れ合う女の肌や…
仲間との会話…美味い酒…いや、今はなにより…
ノックの音がする。
ドアを開ける。
リクが顔を覗かせ、目で「いい?」と聞いて来る。
「ああ」と答え微笑む。
自分を人間に留めておいてくれる存在…。
「コウさん、今、仕事ないですか?」
リクが尋ねる。
「うん、今は何も入ってないな」
コウが答える。
「なんで?」
「あの、俺狙撃の精度を高めたくて、時間ある時に訓練してたんですけど…」
「偉いな、ナツと一緒にか」
「いえ、ナツは自分は狙撃に向いてないって言ってて、短銃かマシンガンを撃ってます」
「ああ、筋肉がつきにくいんだろうな、反動を押さえるのがきついんだろう」
「はい、それで…訓練の成果を試したいんですけど…そういう依頼ってなかなか来ないですよね…」
リクの声は最後は独り言のように小さくなっていた。
「リク、何か焦ってるの?」
コウが静かに聞く。
リクがコウを見上げ、コウと目が合うと、少し赤くなって俯いた。
コウがリクに近づき、ソファに座らせる。
自分も隣に座り、リクを見下ろす。
一見まだ子供のように見える、中性的で華奢な外見…。
辛いことを経験し、さらに殺し屋になんてならなくてもよかったのに、茨の道を自分で選んだ。
それでも前に進もうと、そして大事なものを守ろうと藻掻いている。
気付けば、コウはリクの頭を自分の肩に抱きよせていた。
「リク、無理しないで」
「誰のためにそんなに先に行こうとしてんの?
言ったろ、リクはもう一人前なんだよ。
あとは1つ1つ経験を積んでいけばいい。
それは誰と比べるものでもないし、そこには順位もない。
大事なものを守りたいって気持ちは俺にもわかるよ。
…でもさ…1人で守れるほど、それは小さいものじゃないだろ。
目瞑ってみて…
誰が浮かぶ?」
リクが目を瞑り、静かにゆっくりと答える。
「コウさん」
「それから?」
「ナツ……タニさん、シキミさん…」
「ほら、周りにいるじゃん、一緒に守ってくれる人たちがさ」
リクがコウの腕から離れてコウを見る。
目が赤い。鼻も赤い。
髪が乱れている。
コウが、その髪をそっとすかして整える。
その時、タニから通信が入った。
「コウいるか」
「ああ」コウが答える。
「仕事か」
「ああ、超やべー奴らが相手だ」
タニがうんざりした声で言う。
コウがリクを見る。
「望むところだ」
リクはコウと一緒にモニターに近づき、タニの顔を見て2人でニヤリと笑った。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
記念すべき、そして目標としていた100話までやっとたどり着きました。
これで第四章は終わりです。
そして、申し訳ございません。
しつこく第五章に突入します。
だって、この会社のみんなが好きなので(笑)
どこまでも私情です。
懲りずに続けて読んでいただけたら幸いです。




