バーにて
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當間の案件から約1か月、コウは調査部に「ひまわりの家」に接触する者がいないか探らせていた。
今のところまだ怪しい動きはないらしい。
このまま當間の事業がフェードアウトするとは考えられないが、さすがに5歳の子供を巻き込んではほしくない。
コウは人間に興味がないし、ましてや子供好きでは決してない。
世の中の理不尽にいちいち文句をつけるつもりもない。
世の中とはそういうものだし、その理不尽の一端を自分も担っている。
ただコウは、自分が気に入るものを受け入れるし、気に入らないものは受け入れない。
物心ついた時から、1人で決断しなければ生きてこれなかったコウがたどり着いた、自分のルール。
我儘と言われようが、薄情と言われようが関係ない。
そもそも自分は世間のルールを無視した殺し屋なのだ。
そして、この件はどうも気に入らない。
引き続き「ひまわりの家」の監視を続けるよう調査部にオーダーし、コウは会社をあとにする。
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通りに出てタクシーを拾い、行き先を告げる。
タクシーは10分ほど走り、昔は繁華街であったであろう、寂れた街の一角に停車した。
周りにちらほらと人影はあるものの、顔がバレてはまずいように、皆俯いて佇んでいる。
開いている店はないようで、割れた看板に電気が通っているものはない。
コウはタクシーを降り、坂になった細い路地に入る。
30メートルほど歩くと、左に趣のあるドアが現れる。
どっしりとしたオークでできたドアには複雑な彫刻が施され、一目で高級店とわかる誂えである。
しかしそのドアには取っ手がなく、一見ではどうやって入るのかわからない。
コウはちらっと右上を向く。
すぐにガチャリと音がしてドアが向こう側へ開いた。
中へ入り、ドアを押して閉める。
中は薄暗く、しかし高級感漂うバーになっている。まさに隠れ家的な店だ。
コウはまっすぐカウンターへ進み、バーテンダーに挨拶をする。
「コウさん、お久しぶりですね」
年配のバーテンダーが微笑みを返す。
「うん、最近新しいおもちゃをもらったから、忙しくてね」コウが答える。
「おもちゃ、ですか」
相変わらず微笑んだままバーテンダーが返す。
「それがさ、なんか癒されるんだよね。おもちゃっていうより、ペットかな」
笑いながらコウが答えた。
注文せずとも、さりげなくグラスが差し出された。一杯目はブラントンと決めていることをちゃんと知っている。
一口飲むと、お互い黙り込み、ゆっくりと酒を味わう。
会社の自室でも、マンションの自室でもなく、非日常を感じることができる空間。
ここでは殺し屋としてのコウは影を潜め、全く気を張ることなく酔うことができる…
はずだった。
すっと隣の席に男が座った。
コウは一瞬で警戒モードに入る。
他にも席は空いているのに、わざわざ隣に座る人間はいない…目的がなければ。
バーテンダーが何か言おうと口を開きかけた。
コウは目でそれを止め、視線だけで隣の男を見る。
「情報があります」
男は静かに言った。
コウは黙っている。
「下っ端の警官にご注意ください」
コウはまだ黙っている。
「三日後に、また来ます」
男はそう言うと、バーテンダーに「失礼しました」と言い残し出ていった。
バーテンダーが、コウに謝罪する。
「以前よくいらっしゃっていた方です。最近はお見かけしていなかったのですが…」
コウは、なんでもないよ、と微笑み、バーテンダーを安心させた。
コウは同じものをもう一杯頼み、仕切り直すことにした。
今考えることではないだろう、そう結論づけ、バーボンの味に酔いしれた。
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翌日、コウは調査部に昨日の男の接触について報告した。
「下っ端の警官」といっても曖昧過ぎるし、巡査なのか、巡査長なのか、交番勤務なのか、交通課や生活安全課なのか…。
今の時点で調べられることはないが、笠原の証言もあることから、それらしき人物が上がってきていないか確認をしておいた。
まあ、3日後と言っていたので、その時に少しは進展があるだろう。
しかし、コウがあのバーに3日後に訪れた時、男は姿を現さなかった。
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